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1535年1月1週目。正月から数日。兄様達が島津から帰宅。こどものプレッシャーの既婚兄様と縁談圧力の兄様

正月が過ぎて数日。

 島津本家、分家へ年越しの振る舞いに出ていた一郎、二郎、三郎、四郎、五郎が、

順番に館へ帰ってきた。

「お帰りなさい。」

 八郎が出迎えると、一郎は荷物を下ろしながら大きく息を吐いた。

「ただいま。」

「疲れたわ。」

「炊き出しですか?」

「それもある。」

 一郎は隣の四郎を見る。

「分家の皆さん、めちゃくちゃ元気やった。」

 四郎も苦笑する。

「芋と芋焼酎が、思ってた以上に受けとった。」

「来年はもっと芋を植えたい言うてたで。」

「市も暮らしも安定してきて。」

「農民や侍の借金もかなり減った。」

「残る大物は城の借金くらいやな。」

 八郎は満足そうに頷いた。

「順調ですね。」

「芋焼酎も、春以降はもっと増やせると思います。」

「ええ話ばかりやったんですか?」

 六郎が尋ねると、一郎と四郎はそろって視線を逸らした。

「まあ……。」

「一つだけな。」

「何です?」

「子どもはまだか、と。」

 広間にいた島津分家の姫君たちが、くすくすと笑い出す。

「そんなに緊張することではありませんのに。」

「仲良くしていれば、いずれ授かりますでしょう?」

 四郎が肩をすくめた。

「そう簡単に言うけどな。」

「いろいろ不安なんや。」

 姫君は頬を膨らませる。

「不安になるのは、私たちの方ですよ。」

「子どもを産むのは私たちなんですから。」

「一人でも大変なのに、周りからは何人もと言われるんですよ。」

 一郎が申し訳なさそうに頭を下げた。

「それは……確かにそうやな。」

「やろ?」

「男の人は、子どもはまだかと言われたくらいで青い顔をするだけですもの。」

「すいません。」

 八郎はそのやり取りを見ながら笑った。

「分家の方は、だいぶ仲良くなったみたいですね。」

「お前が言うな。」

 一郎と四郎の声が重なった。

 続いて、島津本家から戻った二郎、三郎、五郎の報告となった。

 二郎は春姫と顔を見合わせ、嬉しそうに話す。

「指宿の温泉へ行ってきた。」

「砂に埋まる風呂があるんや。」

「最初は何をさせられるんか思ったけど、温かくて気持ちよかったで。」

 春姫も微笑む。

「二郎様は、最初から最後まで顔だけ砂から出しておられて。」

「大きな芋のようでした。」

「その例えはやめてくれへん?」

 広間に笑いが広がる。

「三郎兄様と五郎兄様は?」

 八郎が尋ねると、二人は少し気まずそうに顔を見合わせた。

「まあ、市や寺社を見て回った。」

「姫様方とも、前よりは話せるようになった。」

「仲良くなったんですね。」

「仲良くはなった。」

 三郎はそう答えてから、慎重に言葉を続ける。

「ただな。」

「布団まで一緒にするとなると、まだ勇気が要る。」

 島津本家の姫君が、にこやかな笑顔を浮かべた。

「大友の姫君方もいらっしゃるから、でございますか?」

「いや、それは……。」

 五郎が慌てて手を振る。

「別に、比べてるわけやないですよ。」

「島津へ遊びに来た後で、そのようなことを言われるんですね。」

「父上へ報告いたしましょうか。」

「報告はやめてください。」

 三郎と五郎がそろって頭を下げる。

「ゆっくりやっていきましょう。」

「ですが。」

 姫君はため息をついた。

「私たちは帰った途端、子どもの話をされております。」

 春姫も困ったように頷く。

「私もです。」

「二郎様と仲良くしておりますか。」

「子はまだですか。」

「身体を冷やしてはなりません。」

「ずっとその話でございました。」

 二郎が春姫の方を見る。

「まだ二人でゆっくり過ごしたいよな。」

「私もそう思います。」

「ですが、お家の事情は待ってくれません。」

「そうなんよなあ……。」

 二郎は深く息を吐いた。

 すると三郎が、しみじみと呟く。

「やっぱり四郎の一件が強烈すぎるんや。」

「一晩過ごした次の朝。」

「鎧武者がずらっと並んで。」

「さあ婚姻の話を、やろ?」

 四郎が顔を覆った。

「もう言うな。」

「夢に出てくるんや。」

 姫君たちは笑いながら首を振る。

「こちらの領地で、ゆっくり仲を深めればよいではありませんか。」

「島津の城ほど、鎧武者も並びませんよ。」

「その言い方がもう怖いねん。」

 五郎の返事に、また笑いが起こった。

 八郎は湯呑みを置く。

「しばらくは、こちらでゆっくりしてください。」

「とはいえ、もうすぐ龍造寺との戦ですけど。」

「それや。」

 三郎が八郎を指さす。

「結局ゆっくりできへん。」

「戦が終わったら終わったで。」

 五郎も続ける。

「大内の姫様が来るかもしれん、とか言い出すんやろ。」

「可能性はありますね。」

 八郎が平然と頷くと、姫君たちの目が細くなった。

「また逃げるおつもりですか?」

「逃げる?」

「大友の姫君方からも。」

「島津の姫君方からも。」

「今度は大内の姫君方まで迎えて。」

「皆に仲良くしてくださいと言いながら、八郎様だけお仕事へ逃げるのでしょう?」

「いやいや。」

 八郎は慌てて手を振った。

「私は逃げてません。」

「皆さんの縁を広げてるんです。」

「それを逃げていると言うんです。」

 姫君たちの声がきれいに重なる。

 兄たちは顔を見合わせた後、一斉に笑い出した。

「八郎。」

「来年はお前の番かもしれんな。」

「まだ五歳です。」

「そういう時だけ子どもになるな。」

 館には久しぶりに、兄弟全員の笑い声が響いた。

 戦の支度は近づいている。

 それでも今だけは、縁談と子どもの話に振り回される、いつもの八郎一家であった。

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