1534年12月4週目。最後の週。年の瀬の大友の姫君とのお茶会。帰省を促すが、逆に八郎様暇で遊んでくれそうですよねと言われ戸惑うWWW昔通っていた寺と寺子屋に行きましょうか?
十二月もいよいよ最後の週に入った。
町には門松代わりの青竹が立てられ、餅を搗く音や薪のはぜる音があちこちから聞こえてくる。
館の中も、すっかり年末年始の空気に包まれていた。
この日は、大友家から遊学に来ている姫君たちが、八郎、六郎、七郎と顔を合わせることに
なっていた。
大げさな茶会ではない。
年末の挨拶程度の、気軽な集まりである。
八郎は湯呑みを持ちながら笑った。
「もう正月ですからね。」
「皆さんも、一度お父様のところへ帰られたらどうですか。」
「一度に帰ってもええですし、順番に帰ってもええです。」
「うちは島津の姫様方も一度戻られましたし、こちらも年末年始の支度でございます。」
「ゆっくりされたらええと思います。」
姫君たちは顔を見合わせる。
「帰りたい気持ちもあるんですけど……。」
一人が少し困ったように笑った。
「逆に、お正月の八郎様って遊んでくださりそうですよね。」
八郎は首を横に振る。
「いやいや。」
「私は正月でも仕事があります。」
「施しもありますし。」
「来てくださった方へ祝儀を配ったり。」
「町を回ったり。」
「結構忙しいですよ。」
すると別の姫君が頬を膨らませた。
「そんなの、他の方でもできますよ。」
「私たちと遊ぶこともできるじゃないですか。」
六郎と七郎は思わず笑ってしまう。
「言われとるぞ。」
「逃げ場ないな。」
八郎は少し考えてから手を打った。
「あ。」
「それなら。」
「僕が昔通っていた寺子屋へ行きませんか。」
「寺子屋?」
「はい。」
「二歳半から三歳くらいまでですけど。」
「館へ来る前は、庄屋の子ですから。」
「寺子屋と、お寺には毎日のように行ってました。」
その瞬間だった。
「私も行きたいです!」
「私も!」
「それ絶対面白そう!」
姫君たちが一斉に手を挙げる。
八郎は少し驚いた。
「そんなにですか。」
六郎が笑いながら頷く。
「まあ、わしらも館へ入るまでは寺子屋通いやったしな。」
「案内くらいはできますよ。」
七郎も笑う。
「先生まだ元気かな。」
「懐かしいわ。」
八郎も嬉しそうに頷いた。
「じゃあ来週。」
「何日かしたら、みんなで行きましょう。」
「やった!」
姫君たちは子どものように喜ぶ。
だが、一人の姫君がふと困った顔になった。
「そうなると……。」
「帰るかどうか迷いますね。」
八郎は苦笑した。
「いやいや。」
「皆さん全員残ったら、大友のお殿様が寂しいでしょう。」
「せめて半分くらいは帰った方がいいですよ。」
「なるほど。」
「帰って。」
「見たことを直接伝えるのも、大事なお仕事です。」
「手紙だけでは伝わらないこともありますから。」
姫君たちは納得したように頷いた。
「そうですね。」
「では半分は帰ります。」
「残りは遊ばせていただきます。」
そんな話でまとまる。
八郎もほっと息をついた。
「それがいいと思います。」
すると一人の姫君が、じっと八郎を見つめた。
「でも。」
「こうして遊ばせてもらえる機会なんて、なかなかありません。」
「だから、もう少し仲良くなりたいです。」
八郎は照れ笑いを浮かべる。
「僕も仲良くしたいですよ。」
「ただ。」
「六郎兄様も七郎兄様も。」
「僕より大人とはいえ、まだまだ若いです。」
「だから。」
「長い目で見てもらえませんか。」
姫君は首を傾げた。
「でも。」
「停戦期間は六月までですよね。」
「その間に仲良くするかしないか、決めないといけないじゃないですか。」
「それは……。」
八郎は頭を掻いた。
「仲良くする方向ではあります。」
「でも婚姻となると。」
「責任が重いんです。」
「責任の軽い遊びはしたいんですか?」
姫君がすかさず突っ込む。
六郎が吹き出した。
「うまいこと言う。」
七郎も肩を震わせる。
八郎は慌てて手を振る。
「いやいや。」
「そういう意味じゃありません。」
「それなら、もっと上の兄様方に言ってください。」
「僕らはまだ何も分からない子どもですよ。」
姫君たちは一斉に八郎を見る。
「子ども?」
「はい。」
「子どもです。」
「子どもがこんなに領地を持って。」
「毎週何千万文も使うわけないでしょう。」
「だから、そこは子どもなんです。」
一瞬静まり返ったあと。
「そういうところだけ子どもになるのは、やめてください。」
姫君たちが揃って笑った。
六郎は腹を抱えて笑う。
「八郎。」
「その言い訳は苦しい。」
七郎も頷く。
「商売の時は大人。」
「婚姻の話になったら子ども。」
「都合良すぎや。」
八郎は苦笑いするしかなかった。
「だって、本当なんですもん。」
「まだ五歳ですよ。」
「来月やろ。」
六郎が笑う。
「今はまだ四歳や。」
「そうでした。」
八郎が真顔で頷くと、その場にいた全員がまた笑い出した。
年の瀬の穏やかな午後。
戦や外交の話が絶えない館にも、この日ばかりは笑い声が響き続けていた。
その笑顔の時間もまた、八郎が大切にしたい「豊かさ」の一つだった。




