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1533年1月。1月4度目の市。新しく別の庄屋の娘を加えて市での商売の準備をする。五郎兄様と組ませて今度から別の回で混ぜ飯売り行ってもらいますね

次の市の日が近づいていた。

八郎の家では、朝から慌ただしく準備が進んでいる。

混ぜ飯。

魚のつみれ。

揚げ物の下ごしらえ。

そして酒。

最初は家族だけで始めた小さな商いだった。

それが今では、週に何度も市に顔を出すほどになっていた。

そんな中、父が一人の娘を連れてきた。

「八郎」

「はい、父上」

「今日から手伝ってくれる子や」

八郎は小さく頭を下げる。

「初めまして。八郎です」

娘は一瞬固まった。

目の前にいるのは、どう見ても小さな子供。

だが、この子が自分の父から何度も聞かされた八郎だった。

「よ、よろしくお願いします」

少し緊張した声だった。

八郎は笑う。

「そんな固くならなくて大丈夫ですよ」

「え?」

「まだまだ先は長いですから」

「……」

娘は困った顔をする。

三歳児に「先は長い」と言われる経験など、普通はない。

父が横で苦笑した。

「八郎、お前また変なこと言うとるぞ」

「そうですか?」

「三歳児が人生語るな」

周りが笑った。

八郎は娘を見る。

「聞きました」

「はい?」

「庄屋の集まりで、最後に一万文足りないと言われた家の方ですよね」

娘の顔が少し暗くなる。

「……はい」

「父が申し訳ないって」

「違います」

八郎は首を振った。

「言ってくれて助かりました」

「え?」

「隠されたら考えられません」

「……」

「分かっていれば、手を考えられます」

娘は黙って八郎を見る。

「だから働いて返すとか、そんなに気張らないでください」

「でも……」

「今日は仕事を覚える日です」

八郎は笑った。

「失敗して大丈夫です」

「怒らないんですか?」

「嘘をついたら怒ります」

「え?」

「失敗は仕方ありません」

「でも隠されたら直せません」

娘は目を丸くする。

「本当に三歳……?」

最近、何度も聞かれる言葉だった。

横にいた兄たちは笑う。

「みんな最初そうなるんや」

そして八郎は手を向けた。

「こちら五郎兄様です」

五郎が慌てる。

「お、おう」

「挨拶を」

「八郎、お前……」

「大事ですよ」

「分かった分かった」

五郎は頭をかいた。

「五郎や」

「よろしくお願いします」

娘も頭を下げる。

「よろしくお願いします」

少しぎこちない二人を見て、八郎は満足そうに頷いた。

「五郎兄様は、四郎兄様ほど気が利くかは分かりませんが」

「おい」

「でもよく働きます」

「褒めてるんか、それ」

「褒めています」

家族中が笑う。

「慣れてきたら」

八郎は続ける。

「五郎兄様と一緒に混ぜ飯を売りに行ってもらいたいです」

「私がですか?」

「はい」

「四郎兄様は、もう別の日に行っています」

「だからもう一組作ります」

父が腕を組む。

「ほんまに人を育てる方向に行っとるな」

「はい」

「店を増やすには料理だけじゃ足りません」

「売れる人が必要です」

「銭を数えられる人」

「挨拶できる人」

「信用される人」

娘は静かに聞いていた。

自分がただの日雇いではない。

育てようとしてくれている。

それが伝わった。

「頑張ります」

「だから」

八郎はまた言った。

「頑張りすぎないでください」

その言葉に娘は笑った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

準備を進めながら、八郎は五郎と娘を見る。

二人で荷物を運んでいる。

「……」

八郎がぽつりと言った。

「これで兄様方の縁談、全部なんとかなりそうですね」

一瞬、場が止まった。

「……は?」

父が振り返る。

「八郎、今なんて言うた?」

「ですから」

八郎は普通に言う。

「仕事を覚えて」

「一緒に商いして」

「信頼できる相手なら」

「兄様方の嫁探しにも……」

「待て待て待て!」

父が慌てて止める。

母は腹を抱えて笑っていた。

「三歳児が兄の縁談考えるんじゃないよ」

「でも大事でしょう?」

「大事やけど!」

五郎は顔を赤くする。

「八郎!」

「はい?」

「余計なこと言うな!」

「嫌でした?」

「そういう問題ちゃう!」

娘も顔を赤くして下を向く。

周りの兄たちは大笑いだった。

「もうあかん」

「八郎が父親みたいになっとる」

「父上より考えとるかもしれんぞ」

「おい!」

父が突っ込む。

久しぶりに家の中が大笑いになった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そして市へ向かう。

荷車には飯。

魚。

酒。

器。

そして新しい働き手。

最初は父と母と兄たちだけだった。

今は違う。

人が増えた。

役割が増えた。

できることが増えた。

市の入口に着くと、顔なじみの男たちが声をかけてきた。

「おう!」

「坊主!」

「今日はまた人数増えとるやないか!」

八郎は頭を下げる。

「よろしくお願いします」

「今度は何始める気や?」

「普通に飯屋ですよ」

その瞬間、常連たちは笑った。

「坊主の普通ほど信用できん言葉ないわ!」

「今度は何が出てくるか楽しみや!」

八郎は苦笑する。

「今日は本当に普通です」

父が横からつぶやいた。

「お前の普通は普通ちゃうんやけどな」

こうしてまた一日。

小さな市の片隅で。

三歳児が作った不思議な店が始まった。

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