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1534年12月3週目。正月に炊き出しとお年玉少額渡しませんか?予算は200万文でWWW

十二月三週目。

帳面合わせが終わったあと、八郎は父、母、兄弟たち、帳面役、庄屋衆、

それに主だった町役人たちを館へ集めた。

「まだ何かあるんか?」

 六郎が湯呑みを置きながら尋ねる。

 八郎は一枚の帳面を広げる。

「正月のことです。」

「正月?」

「はい。」

「皆さんに相談したいことがあります。」

 広間が静かになる。

「一月一日だけなんですけど。」

「各拠点で施しをしませんか。」

 父が眉を上げる。

「施し?」

「はい。」

「お雑煮でも鍋でも握り飯でもええんです。」

「腹いっぱい食べてもらう。」

「それを各拠点でやりたいと思います。」

 母が優しく頷く。

「ええことやね。」

 八郎は続けた。

「予算は、ご飯代で百万文。」

「全拠点合わせてです。」

 帳面役が素早く筆を走らせる。

「もう一つ。」

「お年玉というか、お小遣いですね。」

「十文ほど。」

「来てくださった方、一人一人に渡したいです。」

「その予算も百万文。」

「合わせて二百万文計上します。」

 七郎が目を丸くした。

「また使うなぁ。」

 八郎は笑う。

「正月ですから。」

「今年一年頑張ってくれた方も。」

「来年頑張ってくれる方も。」

「気持ちよく一年を始められたらいいなと思って。」

 父が腕を組んで頷いた。

「なるほど。」

「ただ飯を配るだけやないんやな。」

「はい。」

「みんなで『明けましておめでとうございます。』って言い合う場ですね。」

「店は全部止められません。」

「町は動いてますから。」

「でも、交代で来てもらって。」

「少しでも正月らしい気持ちになってもらえたら。」

 母が嬉しそうに微笑む。

「ええ心掛けや。」

「年末に大掃除して。」

「元旦には鍋を囲んで。」

「握り飯でも食べて。」

「神社へお参りして。」

「十文でも懐に入ったら、今年も頑張ろうって気持ちになる。」

「そういうもんや。」

 町役人も大きく頷く。

「それは町も喜びます。」

「今は借金も減ってきてますし。」

「ようやく正月を正月らしく迎えられる家も増えました。」

 八郎は少し照れながら言う。

「帳面では、まだ借金はいっぱい残ってます。」

「でも。」

「八郎商会としては、このくらいのお金を出す余裕はあります。」

「だったら。」

「一年の始まりくらいは、皆さん笑って迎えられる方がええでしょう。」

 父が腕を組んだ。

「こういうところがお前らしいわ。」

「銭を貯めるんやなくて。」

「使うところでちゃんと使う。」

 帳面役も感心したように言う。

「二百万文使っても。」

「民の安心は、それ以上に返ってきますな。」

「はい。」

「そう思います。」

 父も頷いた。

「戦も近い。」

「だからこそ。」

「年の初めくらいは笑って迎えたいわな。」

 八郎も笑顔で頷いた。

「その通りです。」

「戦のことばっかり考えてても、しんどいですから。」

「一日くらいは。」

「今年もよろしくお願いしますって。」

「みんなで言えたらいいかなって。」

 母はそんな八郎を見つめ、目を細めた。

「あんたは、その辺はちゃんと子どもやね。」

 八郎が首を傾げる。

「違います。」

「一月になったら五歳になります。」

 広間が一瞬静まり――。

「大して変わらん。」

 父が即座に返した。

「一か月で急に大人になったら苦労せえへん。」

 六郎も肩を震わせる。

「五歳になったからって、急に天下人にはならんぞ。」

 広間は笑いに包まれた。

 母も笑いながら言った。

「でもな。」

「あんたが領地が大きくなっても、その気持ちを忘れてへんのは嬉しいわ。」

「銭が増えたら、人は偉そうになりがちや。」

「けど。」

「『みんなでええ年を迎えよう。』って最初に考える。」

「そこは母さん、ほんまに嬉しい。」

 八郎は少し照れくさそうに笑った。

「みんなのおかげですよ。」

「また始まった。」

「全部人のおかげ言う。」

 その時、七郎がにやりと笑った。

「そういや。」

「母さん。」

「八郎はまだ子どもや言うたな。」

「そうや。」

「ほな姫様方との結婚は、まだまだ待ってもらわなあかんな。」

 母もすぐに乗っかる。

「もちろんや。」

「まだ五歳やもん。」

「慌てることない。」

 すると六郎が吹き出した。

「おいおい。」

「兄貴らには散々『結婚せえ、結婚せえ』言うといて。」

「自分はまだ子どもです、は通らんやろ。」

「外交のために兄弟は総動員。」

「本人だけ『まだ五歳です』。」

「ずるいやないか。」

 七郎まで笑い出した。

「一番逃げるん、お前やん。」

 八郎は慌てて両手を振る。

「いやいや。」

「僕には仕事がありますから。」

「五歳児に仕事なんかあるか!」

 兄弟の声が揃い、広間は大きな笑いに包まれた。

 戦が近づき、天下の動きは慌ただしくなっていた。

 それでも館の中には、家族の笑い声が響いている。

 その笑いこそが、八郎の領地を支える、もう一つの力だった。

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