1534年12月3週目。大友の姫君達とお茶会。今後の八郎の野望について。来年の展望。多分大友大内よりも四国や琉球。
第百二十七話 十二月三週目 大友の姫君たちとの茶会
十二月三週目。
島津本家、島津分家では、一郎、二郎、三郎、四郎、五郎たちが、
それぞれ年越しの炊き出しや酒の振る舞いに走り回っていた。
一方、その日は館の離れで、六郎、七郎、そして八郎の三人が、
大友家から遊学に来ている姫君たちを招いて茶会を開いていた。
八郎は少し申し訳なさそうに頭を下げる。
「今日は男三人ですいません。」
「兄様方はみんな島津本家と分家へ行っておりますので。」
姫君たちは顔を見合わせて笑った。
「いいえ。」
「私たちと遊んでくださるだけでも嬉しいですよ。」
「それに、六郎様も七郎様も最近ようやくお話ししてくださるようになりましたし。」
そう言われると、六郎は少し照れくさそうに頭を掻いた。
「いやぁ……まだ慣れへんだけです。」
「女性と話す機会なんか、今までほとんどありませんでしたから。」
七郎も苦笑する。
「毎回何しゃべったらええんやろって考えてまう。」
姫君たちは楽しそうに笑った。
「でしたら今度、市をご一緒してください。」
「寺社市も温泉も見てみたいです。」
「ぜひ案内してください。」
六郎と七郎は顔を見合わせる。
「ええ……。」
「まあ……頑張ります。」
どこかぎこちない返事に、姫君たちはまた笑い声を上げた。
しばらく世間話が続いたあと、一人の姫君がふと真面目な顔になる。
「それにしても……。」
「八郎領を見ていて、本当に勉強になります。」
「どのあたりです?」
八郎が尋ねる。
「お金の使い方です。」
「使う額もそうですけど……。」
「惜しまず使われますよね。」
八郎は少し笑った。
「領地が大きくなりましたから。」
「最初は握り飯を売って、何百文儲かったって兄様方と大騒ぎしてたんですよ。」
六郎が頷く。
「ほんまや。」
「あの頃は百文二百文で喜んどった。」
七郎も笑う。
「今じゃ一千万文超えても、『まあこんなもんか』やもんな。」
姫君たちは驚いたように目を丸くした。
「そんなに変わるものなんですね。」
「変わりました。」
八郎も懐かしそうに頷く。
「だから、お金は使わないと意味がないというのが、今はよく分かります。」
「なるほど……。」
少し間を置いて、別の姫君が尋ねた。
「では、八郎様。」
「野望は何ですか?」
八郎は湯呑みを置き、少し考える。
「野望ですか。」
「借金を減らしながら順番に豊かにしていくことですね。」
「でも、それだけですか?」
「来月で五歳になります。」
「まだ時間があります。」
「だから……。」
八郎は少し笑った。
「日の本中を、みんな腹いっぱい食べられる国にするくらいの目標は持ってもいいのかなと思います。」
姫君たちは思わず息を呑んだ。
「では……。」
「大友とも戦うんですか?」
「来年は多分戦いません。」
八郎は首を横に振る。
「まず肥前です。」
「龍造寺、有馬、松浦。」
「そこをまとめても、借金返済だけで何年もかかります。」
「交易も広げなあきません。」
「博多筋とももっと太くしたい。」
「できれば明との交易も。」
「琉球との行き来ももっと増やしたい。」
姫君たちは真剣な表情で聞き入っていた。
「それに。」
「大友様と正面から戦うより、四国の小勢力を少しずつ取り込んだ方が割に合います。」
「四国ですか。」
「はい。」
「飛び地になりますけどね。」
「あと琉球。」
「でも琉球は攻める必要はありません。」
「交易できれば十分です。」
「だから、大きなところと無理にぶつかるより、取れるところを少しずつ取っていく。」
「たぶん、しばらくはそんな形になると思います。」
姫君たちは互いに頷き合った。
「そうなると……。」
「私たちも仲良くした方がいいですね。」
「そうですね。」
八郎は素直に頷いた。
「戦うより仲良くした方が、お互い儲かりますから。」
その返事に、一人の姫君がくすりと笑う。
「では。」
「八郎様は、どんな女性がお好きなんですか?」
突然の質問に、六郎と七郎が吹き出した。
「始まった。」
「またその話や。」
八郎は少し考え込む。
「面白いことを言ってくれる人ですかね。」
「あと、自分にない気づきをくれる人。」
「なるほど。」
「今は……。」
「大人の女性が好きです。」
「えっ?」
姫君たちが揃って目を丸くした。
「そうなんですか?」
「はい。」
「でも。」
八郎は苦笑する。
「正直、好きとか恋とか、まだよく分かりません。」
「それより。」
「皆さんが外交で来てくださってる以上。」
「私も将来は外交のために嫁を迎えなあかんのかなとは思います。」
「ひどいです!」
姫君たちが一斉に声を上げた。
「外交のためなんですか!」
「もっと夢のあることを言ってください!」
八郎は慌てて手を振る。
「いやいや。」
「仕事です。」
「四歳児に仕事なんかありません!」
姫君たちの一斉突っ込みに、茶室が笑いに包まれる。
六郎が肩を震わせながら笑った。
「八郎。」
「お前、それはあかん。」
七郎も頷く。
「せめて『皆さん素敵です』くらい言うたれ。」
八郎は首を傾げる。
「でも、嘘は良くないですよ。」
「正直に言うた方がええでしょう?」
「そこがあかんのです!」
姫君たちは笑いながら湯呑みを置いた。
外交、商売、戦。
どれだけ大きな話をしていても、こうして笑い合える時間がある。
その穏やかな茶会は、戦を目前に控えた年の瀬だからこそ、皆にとって大切なひとときとなっていた。




