表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/110

1533年1月。庄屋との話し合い。銭を回す話、マグロの話、農業の話等三歳児の考えることやないでwww

八郎の話を聞いていた庄屋たちは、もう半分呆れた顔になっていた。

「湯浴みだけでも十分おかしい話やと思ったんやがな」

一人が笑う。

「まだある顔しとるぞ、この子」

八郎は小さく頷いた。

「あります」

「やっぱりか」

みんなが笑った。

「ただ、全部一気にはできません」

「それを三歳児が言うのがおかしいんや」

和尚が茶をすすりながら笑う。

八郎は帳面を見る。

「まず、人を雇います」

「うむ」

「そして市の中で、うちの存在を大きくしていきます」

「飯屋を増やすんか?」

「はい。でも気をつけないといけません」

「何をや」

「他の商いを潰さないことです」

その言葉に庄屋たちが黙った。

「……三歳児の言葉ちゃうな」

「例えば漬物です」

八郎は続ける。

「母上の漬物は美味しいです」

横にいた父が笑う。

「それ言うたら母ちゃん喜ぶぞ」

「本当ですから」

八郎は真面目に返す。

「でも、全部うちで作ったらどうなります?」

「……」

「市の漬物売りの人が困ります」

一人の庄屋が頷く。

「確かにな」

「だから半分は買います」

「買う?」

「はい」

「利益減るぞ」

「減ります」

八郎は即答した。

「でも銭が回ります」

その一言に和尚が笑った。

「また出たな」

「何がですか?」

「八郎の銭を回す、や」

周りも笑う。

「普通は銭を集めることばかり考える」

「お前は出す先を考える」

「でも必要です」

八郎は言う。

「うちだけ大きくなったら嫌われます」

「……」

「みんなが少しずつ豊かになるから続くんです」

庄屋たちは顔を見合わせた。

「ほんま、どこの商人の爺さんや」

そして八郎は続けた。

「だから四郎兄様たちに混ぜ飯を売りに行ってもらうのも、そのためです」

「量を売るためか」

「はい」

「米を銭に変える」

「そうです」

「でも、それだけでは足りません」

「まだあるんか」

「あります」

八郎は少し笑った。

「一番の目玉があります」

「なんや」

「鮪です」

「……」

場が止まった。

「まぐろ?」

「はい」

一人が吹き出す。

「捨てる魚やないか」

「そうです」

「食えへんぞ」

「脂のところは難しいと思います」

八郎は言う。

「でも赤身なら」

「赤身?」

「はい」

「母上に味噌で煮てもらいます」

「煮る?」

「魚の汁みたいにします」

「……」

「血臭さを抜いて、味噌を強めにして、火をしっかり入れる」

庄屋たちは黙った。

「それ、美味いんか?」

「分かりません」

全員ずっこけた。

「分からんのかい!」

八郎は当然の顔で言う。

「だから試すんです」

和尚が大笑いした。

「この子の怖いところはそこや」

「失敗前提で考えとる」

八郎は続ける。

「でも成功したら大きいです」

「どう大きい」

「今、鮪は値が安いでしょう」

「まあな」

「一匹からたくさん取れます」

「取れるな」

「四十人前作れるかもしれません」

「四十?」

「一杯四十文で売れれば」

八郎は帳面を書く。

「千六百文です」

「……」

「仕入れが三百文から四百文なら」

「待て」

父が止めた。

「また変な数字出てきたぞ」

「その店だけで千文近く残る可能性があります」

「……」

静まり返った。

「八郎」

「はい」

「お前今、捨て魚で千文作る言うたか?」

「できたら、です」

「できたら、やない」

和尚が笑う。

「普通は考えん」

「でも」

八郎は言う。

「これが当たれば流れが変わります」

「……」

「十六万文を返すには、小さい積み重ねだけでは時間がかかります」

「だから大きい種も探す」

「はい」

庄屋たちは感心していた。

しかし八郎はさらに帳面をめくる。

「あと農です」

「飯の次は農か」

「はい」

「忙しい三歳児やな」

笑いが起こる。

「まず肥です」

「肥?」

「糞尿です」

何人かが顔をしかめる。

「汚い話やな」

「でも田畑には大事です」

八郎は言う。

「そのままではなく、土や草と混ぜてしばらく置く」

「寝かすんか」

「はい」

「なんでや」

「その方が田に良い気がします」

「気がします、か」

「試します」

また笑いが起こった。

「全部試すやんけ」

「やらないと分かりません」

八郎は平然と言う。

「あと」

「まだある」

「杵です」

「ああ、水車のやつか」

「はい」

「早く職人さんに相談しないと」

父が顔をそらした。

「……忘れとった」

「父上」

「すまん」

みんな笑った。

「でも職人も暇やないぞ」

「そうやな」

「話を聞いて形を作るだけでも千文、二千文いるかもしれん」

「出しましょう」

即答だった。

「早いな!」

「必要なお金です」

八郎は言う。

「もし水車が杵を動かしたら」

「……」

「今、人がしている仕事を水がしてくれます」

和尚が頷く。

「なるほど」

「空いた人は別のことができます」

「漬物作り」

「はい」

「湯浴み」

「はい」

「店」

「はい」

「仕事が増えるんやな」

八郎は笑った。

「人を楽にするために道具を作るんです」

その場の大人たちは、三歳児をじっと見た。

庄屋の一人がぽつりと言う。

「なあ和尚様」

「なんや」

「ほんまにこの子、三歳なんですか」

和尚は茶を飲みながら答えた。

「身体はな」

「身体は?」

「中身は知らん」

その一言で全員が笑った。

ただ、その笑いには期待が混じっていた。

十六万文の借り入れ。

重かったはずの数字が。

八郎が話すたび、少しずつ「何とかなるかもしれない」に変わり始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ