1533年1月。庄屋の集まりの続き。本当にもう負債ないですか?からの追加1万文www16万文をなんとか考えましょうwww
帳面を見終わり、八郎はもう一度みんなを見た。
「では確認します」
小さな手で帳面を叩く。
「もうありませんね?」
庄屋たちは苦笑した。
「何がや」
「借り入れです」
その言葉に何人かが目を逸らす。
八郎はため息をつく。
「ここから先に出てきたら私は知りませんよ」
「三歳児が怖いこと言うな」
誰かが笑う。
「今なら考えられます。でも後から出てきたら計算が全部崩れます」
和尚も頷いた。
「八郎の言う通りや。膿は出し切った方がええ」
沈黙。
すると端にいた庄屋が小さく手を上げた。
「……すまん」
全員が見る。
「まだあるんか」
「……一万文」
一瞬静かになった。
そして。
「おい!」
「出しとけよ!」
「今までの流れなんやったんや!」
一斉に笑いが起きた。
言った本人も頭をかく。
「いや……言いにくいやろ」
「今さらや!」
八郎も苦笑する。
「では十六万文ですね」
帳面を書き直す。
「これで最後です」
「はい……」
「本当ですね?」
「本当や
「では終わりです」
八郎は筆を置いた。
「ただ」
みんなを見る。
「十六万文を明日どうにかする方法はありません」
「まあ、そうやろな」
「銭を生む仕組みを作ります」
その言葉に全員が耳を傾けた。
「まず一つ目です」
「まだ一つ目なんか」
誰かが笑う。
「湯浴みです」
「湯浴み?」
「はい」
八郎は説明を始めた。
「昨日、家でも話しました」
「風呂か?」
「大きな湯船ではありません」
「違うんか」
「まずは体を拭く場所です」
八郎は続ける。
「釜で湯を沸かして、温かい湯で体を拭く」
「なるほど」
「農作業の後に汗を流せます」
「それは気持ちええな」
「はい」
「でも、それだけではありません」
父が横で笑う。
「出たぞ」
「何がですか」
「八郎の『それだけではありません』や」
庄屋たちが笑った。
八郎は気にせず続ける。
「作るのに五千文ぐらい見ています」
「高いな」
「はい」
「でも作ります」
「なんでや」
「仕事を作るためです」
場が静かになる。
「火を見る人」
「銭を見る人」
「掃除、貸し布を見る人」
指を三本立てる。
「三人雇います」
「ほう」
「日当四十文」
「三人なら百二十文」
「はい」
八郎は頷く。
「月二十日動かしたら?」
庄屋たちが考える。
「二千四百文か」
「はい」
「年間なら?」
「三万文近くになります」
ざわついた。
「三万文の仕事を作れるんか……」
「一つでです」
その一言に全員が固まる。
「一つ?」
「はい」
八郎は続けた。
「別に同じ三人をずっと雇わなくてもいいです」
「どういうことや」
「交代でいいんです」
「……」
「いろんな村の人に、こういう仕事があるんだと知ってもらう」
和尚が目を細める。
「なるほどな」
「銭をもらう経験を作るんか」
「はい」
「料金は?」
「大人五文、子供二文ぐらい」
「そんな安くて回るんか」
「回します」
八郎は言った。
「今、うちは卵を買っています」
「そうやな」
「野菜も買っています」
「魚もやな」
「味噌や漬物も増やします」
「……」
「つまり、村に銭を渡しています」
父が頷く。
「その銭を使う場所を作るんやな」
「はい」
「恐ろしい三歳児やな」
笑いが起きる。
「湯浴みして、最後に麦茶を二文で飲んでもらって、少し話して帰る」
「茶まで売るんか」
「売ります」
「抜け目ないな」
「でも」
八郎は笑った。
「そこで近所の話ができます」
和尚が感心する。
「人が集まる場所になるな」
「はい」
「困りごとも聞ける」
「はい」
庄屋たちは顔を見合わせた。
「領主様でもそんなことしてくれんぞ」
誰かが言った。
和尚が笑う。
「だから八郎は違うんや」
「飯を売ってるように見えて、人と銭の流れを作っとる」
八郎は照れる。
「まだできてません」
「普通は思いつかん」
父が言う。
「それで利益は?」
「一日百文ぐらい残ればいいです」
「月三千文か」
「はい」
「そしたら?」
「次の月にはもう一つ作れます」
「……」
「隣の村です」
「……」
「また三人雇えます」
誰も何も言えなかった。
「それを十の村で順番に」
「待て待て」
父が止める。
「お前、今十個作る話したか?」
「はい」
「三歳児が村十個の湯浴み考えるな」
みんな爆笑した。
だが、笑いながらも目は真剣だった。
できるかもしれない。
そう思わせる何かがあった。
八郎は続ける。
「あと、市の方です」
「まだあるんか」
「あります」
「ほんま止まらんな」
「今、週二回店を出しています」
「うむ」
「それとは別に、四郎兄様と雇わせてもらったお姉さんに混ぜ飯だけ売ってもらいます」
「ああ、聞いた」
「利益は少ないです」
「そうなんか」
「でも経験になります」
八郎は言う。
「次は別の人でもできます」
「……」
「一人できる人が増えたら、もう一つ店ができます」
和尚が笑った。
「人を育てて店を増やすんやな」
「はい」
「銭だけやない」
「はい」
「人を増やす」
「はい」
庄屋の一人がぽつりと言った。
「八郎」
「はい」
「お前、十六万文返すより先に、この辺全部変える気やろ」
八郎は少し考えて。
「できるところからです」
そう答えた。
その場の大人たちは笑った。
だが誰も否定しなかった。
三歳児の小さな帳面には、もう村十個分の未来が描かれていた。




