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市を開いた次の日、庄屋たちで集まる。不満はないかと聞くと税だと話す。不足が8万5千文?隠してる負債出して。合計15万文

市が終わった翌日。

庄屋たちの集まりが開かれた。

今までは年貢の相談や水の話、揉め事の確認ぐらいだった集まり。

だが今回は少し違った。

中心に座っているのは、父ではなく――三歳になったばかりの八郎だった。

もちろん父も横に座る。

和尚もいる。

「では、まず困っていることを教えてください」

八郎が言うと、庄屋たちは顔を見合わせた。

「困ってること言うてもなあ……」

一人が苦笑する。

「一番は税やな」

「やっぱりですか」

八郎は頷いた。

「米は取れる。けど、納めた後が苦しい」

別の庄屋も口を開く。

「冬場が特にな」

「仕事ですか」

「そうや」

農繁期なら仕事はいくらでもある。

だが冬。

田は休みになる。

山仕事や日雇いに出る者もいるが、全員分あるわけではない。

「だから、八郎」

一人の庄屋が頭を下げた。

「うちの娘を雇ってくれて助かった」

「ああ」

周りも頷く。

「話聞いたぞ。お前さんの店、えらいことになっとるらしいな」

八郎は笑った。

「皆さんのおかげです」

「いやいや」

庄屋たちは笑う。

「三歳児がそれ言うのがおかしいんや」

「本当に三歳か?」

そんな声が出る。

父はため息をついた。

「毎日言われとります」

笑いが起きた。

八郎は続ける。

「今回雇わせてもらったお姉さんですが、今度は四郎兄様と一緒に別の日にも市へ行ってもらいます」

「別の日?」

「はい」

「店増やすんか?」

「いえ」

八郎は首を振る。

「混ぜ飯だけです」

「それ儲かるんか?」

「ほとんど儲かりません」

「え?」

庄屋たちは驚いた。

「なんでやるんや」

「仕事を覚えてもらうためです」

八郎は答える。

「あと、お姉さんに日当を払えます」

「……」

「四郎兄様も商いを覚えられます」

「……」

「市にも顔を出せます」

庄屋たちは黙った。

「銭だけ見たら小さいです。でも、人が育つなら損ではありません」

一人がぼそっと言う。

「ほんまに三歳児が言うことちゃうな」

みんな笑った。

しばらくして、本題に入る。

八郎は帳面を開いた。

「では皆様の帳面を見せてもらえますか」

空気が変わる。

「本当に見るんか」

「はい」

「恥ずかしいぞ」

「父上の帳面も見ました」

父が苦笑する。

「見られたな」

「それで五千文足りないことが分かりました」

庄屋たちは驚く。

「そこから店始めたんか」

「はい」

八郎は言う。

「悪いところを見ないと直せません」

その言葉で、少しずつ帳面が出された。

米。

人足。

借りた銭。

返済。

八郎と和尚が確認する。

しばらくして八郎が言った。

「……八万五千文ぐらいですか」

「そうやな」

庄屋たちは暗い顔になる。

だが八郎は首を傾げた。

「本当ですか?」

「え?」

「本当にこれだけですか?」

沈黙。

「……」

八郎は続けた。

「怒っているわけではありません」

「……」

「今なら直せます」

みんなを見る。

「昨日の店ですが、利益は千四百文ほど出ました」

「千四百!?」

「はい」

「半日でか?」

「はい」

ざわつく。

「それを月八回やれば、一万二千文ほどです」

「……」

「一年なら十四万文ぐらい」

全員黙る。

「もちろん全部うまくいくとは思ってません」

八郎は続ける。

「雨の日もあります」

「材料がない日もあります」

「失敗することもあります」

「だから十四万が十二万、十一万になるかもしれません」

そこで八郎は真剣な顔をした。

「だからこそ、今言ってください」

「……」

「隠れている借り入れがあるなら」

誰も話さない。

少しして。

一人が口を開いた。

「……実は」

そこからだった。

「商人から借りとる」

「うちもや」

「種籾の時に借りた」

「去年の戦支度で……」

次々と出てくる。

和尚が書き留める。

そして全部合わせた。

八郎が数字を見る。

「十五万文……」

誰も声を出さない。

父も顔をしかめた。

「そこまでか」

一人の庄屋が苦笑した。

「すまんな」

「違います」

八郎は即答した。

「言ってくれてありがとうございます」

「……」

「今分かったから、考えられます」

その言葉に庄屋たちは顔を上げる。

「怒らんのか?」

「怒って銭が増えますか?」

「……増えんな」

「なら考えます」

八郎は帳面を見る。

「税が高い」

「仕事が少ない」

「銭が回らない」

「借金の利息が重い」

一つ一つ書く。

「全部一気には無理です」

そして顔を上げた。

「でも一つずつなら潰せます」

誰かがつぶやいた。

「八郎……」

「はい」

「お前、本当に何者なんや」

八郎は笑った。

「庄屋の八男です」

「いや、絶対違うやろ」

みんな笑った。

だがその笑いには、少しだけ希望が混じっていた。

今まで誰にも言えなかった苦しさ。

それを三歳の子供が聞き、

「なんとかします」

と言った。

不思議なことに。

その場の誰も、それを冗談だとは思わなかった。

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