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1534年9月4週目。島津の姫君達が到着。本家分家の姫達が新しい市の立ち上げの楽しさに意気投合www

九月四週目。

佐土原の城下に、島津本家と島津分家の姫君たちが到着した。

まだ城の門は完全には直っていない。

内側には仮の土塁と柵。

外では湯浴み釜が並び、商家衆が帳面を広げ、三郎の飯場からは味噌汁の匂いがしている。

そこへ、籠を乗り換えながら急いできた姫君たちの一行が入ってきたのである。

分家の姫君は、四郎の姿を見つけると、少しはにかみながら手を振った。

四郎も、少し照れたように頭を下げる。

三郎がそれを見て呟いた。

「なんか、ええ感じやな」

五郎も頷く。

「ええ感じやけど……」

八郎が首を傾げた。

「ていうか、到着早すぎません?」

三郎も同じ顔をした。

「ほんまそれや」

島津本家の長女格の姫君が、涼しい顔で答えた。

「佐土原が落ちたと聞きましたので」

「籠を乗り換えながら、一気に参りました」

「道中、分家の姫君ともたくさんお話ししました」

分家の姫君も頷く。

「本家の姫君から、薩摩本家で市を立ち上げた時の話を聞きました」

「民の顔が変わるのが、とてもやりがいがあったと」

「それで、私たちも意気投合いたしまして」

本家の姫君が微笑む。

「一緒に頑張りましょう、ということになりました」

三郎と五郎が、同時に一歩下がった。

「結託されてる」

「完全に結託されてるやん」

姫君たちは、そろって首を振った。

「違います」

「純粋に、市を立ち上げる楽しさを味わいたいだけです」

「そして、兄様方に頼りながら進めたいだけです」

「深い意味はありません」

少し間を置いて、もう一度言った。

「本当に、深い意味はありません」

五郎が眉をひそめる。

「なんで二回言うたんですか」

三郎も頷く。

「二回言うと、深い意味しかないみたいになるんやけど」

八郎は小さく頷いた。

「兄様方、外堀です」

「黙れ」

島津本家の忠良は笑った。

「娘たちが仲良くやるのは、ええことや」

実久も上機嫌だった。

「分家と本家の姫が一緒に働くなど、なかなか見られぬ」

「市とは不思議なものじゃな」

そこで忠良が八郎へ尋ねた。

「で、わしらはどうする?」

八郎はあっさり答えた。

「一旦、帰っていただいて大丈夫です」

「ええのか」

「はい」

「残りの兵は二千ほどにします」

「肥後方面から来た八郎軍は引いてもらいます」

「大隅側から出している兵を中心に、治安維持をします」

「それに、元伊東兵で働いてくれる人がいれば、順繰り混ぜます」

島津本家の侍が怪訝な顔をした。

「元伊東兵を使うのか」

「もちろん見張りはします」

八郎は頷く。

「乱暴はしない」

「武器は預かる」

「ただ、警護だけをさせるのではありません」

「湯釜を炊く」

「薪を割る」

「市の荷運びをする」

「柵を直す」

「帳面役の案内をする」

「仕事はいくらでもあります」

五郎が感心したように言う。

「もう早いな」

八郎は真面目に返した。

「仕事がないから、乱暴狼藉が始まると思っています」

「仕事があって」

「銭をちゃんと払って」

「飯を食べてもらって」

「少し酒も飲んでもらう」

「そうすれば、荒れることは減ります」

「ゼロではないですけど」

実久様が笑った。

「相変わらず八郎殿らしい」

「敵兵にも仕事と飯か」

「敵兵ではなく、元伊東の人です」

「これからの佐土原の人です」

その言葉に、周囲の者たちは少し黙った。

八郎は続けた。

「私も二週間ほどは、市の立ち上げに関わります」

「その後は本拠へ戻ると思います」

三郎と五郎が同時に顔を上げた。

「俺らは?」

「兄様方は残ってください」

「置いてくんかい」

八郎は当然のように言った。

「二十四万五千石の立ち上げです」

「時間がかかります」

「市、寺社市、湯浴み、帳面、借金整理」

「城内の証文確認」

「侍衆の慰労」

「宴会はまだ早いですが、飯場と振る舞いは必要です」

「いくつか型を作ってから、私は先に帰ります」

「その後は兄様方と姫君方にお願いする形になります」

本家の姫君たちの目が輝いた。

分家の姫君も四郎の方をちらりと見る。

四郎は少し困った顔をしながらも、逃げなかった。

八郎はさらに、大友の姫君たちにも向き直った。

「大友の姫君方には、動きやすいきれいな服に着替えていただきます」

「島津の姫君方と一緒に、市立ち上げを見てください」

「見るだけでなく、仕事にも加わっていただきます」

「もちろん、お小遣いもお渡しします」

大友の姫君が驚いた。

「私たちにも、手当を?」

「はい」

「働いていただくので」

「気づいたことは、全部教えてください」

「たぶん、立ち上げの現場には気づきがたくさんあります」

「だから島津の姫君方も、こんなにやる気満々で来ています」

本家の姫君が微笑む。

「はい。とても楽しみです」

三郎が小声で言う。

「楽しみ方がおかしい」

五郎も頷いた。

「普通の姫君は落城直後の市立ち上げを楽しみにせん」

八郎はさらりと言った。

「あとは兄様方と交流していただいて、縁が結べそうなら、それでよいと思います」

「私はふわふわしていますから」

大友の姫君の一人が首を傾げる。

「ふわふわ?」

「はい」

八郎は真顔だった。

「姫君たちに寄られたら、責任のないお付き合いをするかもしれません」

場が凍った。

三郎が叫ぶ。

「おい」

五郎も続く。

「四歳児が何言うとんねん」

島津本家の長女格の姫君が、すっと八郎の前に来た。

「八郎様だけ、逃げるのがお上手ですね」

「そうです」

八郎はあっさり頷いた。

「私は悪い男なんです」

次の瞬間、長女格の姫君は八郎をひょいと抱き上げた。

「では、悪い男は少し反省してください」

八郎は抱き上げられたまま、得意げに言った。

「そうなんです」

「僕は悪い男なんですよ」

三郎が頭を抱えた。

「なんじゃこりゃ」

五郎がため息をつく。

「戦の後に、市と縁談と抱っこが同時に来るんか」

四郎は分家の姫君と目が合い、また少し照れた。

大友の姫君たちは、その様子をじっと見ている。

佐土原の城下では、湯が沸き、飯が炊かれ、帳面が開かれ始めていた。

戦で取った土地は、もう市へ変わろうとしている。

そしてその中心には、抱っこされたまま悪い男を自称する四歳児がいた。

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