1534年5月2週目終盤。二郎と春姫の茶会にて。三郎兄様・五郎兄様は筋通しとは裏腹に姫君に人気のわりに絞らないんですね。
八郎が一通り、春姫へ伝言を頼んだところで、姫君の一人が三郎と五郎へ視線を向けた。
「それで、三郎様、五郎様はどう思われますか」
三郎が身構える。
「どう、とは」
「今回のことです」
「春姉様の婚姻の時、三郎様と五郎様は、かなり筋を通してくださったと聞いております」
「お局様方にも、侍方にも、遠慮なく言われたと」
五郎が少し気まずそうに笑う。
「いや、まあ、言い過ぎたところもありまして」
「そこがよいのです」
姫君はきっぱり言った。
「漢気、というのでしょうか」
「そういうところは、姫からの人気は上がると思います」
三郎が茶を持つ手を止めた。
「人気」
「はい」
「それに、島津分家の方でも人気があると聞いております」
三郎と五郎は顔を見合わせた。
八郎はその様子を見て、にこにこしている。
「よかったですね、三郎兄様、五郎兄様」
「他人事みたいに言うな」
三郎が小声で返す。
しかし八郎は、すぐに話を大きくした。
「ただ、先々のことを考えると、縁は島津本家だけでは終わらないかもしれません」
場が少し静まる。
「日向を取れば、今度は大友と二方向で接することになります」
「そうなると、総力戦になる可能性もあります」
「あるいは、大内との同盟、婚姻という話も見えてきます」
「大内の姫君が参加するかもしれません」
「大友の姫君が参加するかもしれません」
五郎が額を押さえた。
「お茶会で何の話をしとるんや」
「縁談の話です」
「違う、国の話や」
八郎はさらに続けた。
「個人的には、琉球の姫君がもしおられるのであれば、そこと婚姻していただけるとありがたいです」
姫君たちが目を丸くする。
「琉球、ですか」
「はい」
「砂糖を大量に仕入れられるかもしれません」
「芋の栽培にもつながります」
「甘味も増えます」
「ふくふく焼きも安く出せます」
三郎が思わず言った。
「姫君を砂糖で考えるな」
「違います」
八郎は真面目に否定した。
「婚姻と交易と砂糖と芋がつながるだけです」
「もっと悪いわ」
五郎が突っ込む。
八郎は少し首を傾げた。
「もちろん、攻めるというのも一手ではあります」
その瞬間、三郎、五郎、四郎、六郎、七郎が一斉に八郎を見た。
「お前は最近、いつも物騒やねん」
三郎が呆れた声を出す。
「琉球を攻めるって、船を大量に用意してやることになるから、また全然違う話やろ」
「はい」
八郎は頷く。
「ですので、今は交易です」
「今は、を付けるな」
五郎が言う。
春姫は苦笑しながらも、八郎の話を聞いていた。
「八郎様は、日向の伊東については、かなり現実的に見ておられるのですね」
「はい」
「多分、取れると分かっているからです」
八郎はさらりと言った。
「北九州より、南九州の方が状況が分かりやすいです」
「大隅があります」
「島津本家があります」
「二方向から飯を炊けます」
「国境の国人衆を揺らせます」
「だから伊東です」
姫君の一人が、少し呆れたように三郎と五郎を見る。
「またお姫様、また婚姻、また国」
「三郎様と五郎様は、そうやって女を品定めするおつもりなのですか」
三郎が固まる。
「いや、そんなつもりは」
「愛はどうなのですか」
別の姫君も身を乗り出した。
「少なくとも各家一人に絞るとか」
「料理対決にするとか」
「お顔が好きです、とか」
「一緒にいて楽しいです、とか」
「そういうものはないのですか」
五郎が完全に困った顔になった。
「いや、縁談の前に、まず家の話が」
「また家ですか」
姫君たちの声が重なる。
三郎は助けを求めて二郎を見る。
二郎は春姫の隣で静かに茶を飲んでいる。
「二郎兄さん、助けてください」
「私は春姫様の顔が好きですと言いました」
二郎が真面目に答えた。
三郎は頭を抱えた。
「それは助けになってへん」
春姫は少し頬を赤らめながら、しかし嬉しそうに笑っている。
八郎はその横で言った。
「三郎兄様、五郎兄様は、もう少し気持ちを言葉にする練習が必要ですね」
「お前に言われたくない」
五郎が低い声で言う。
すると、姫君の一人が四郎たちへ目を向けた。
「でも、四郎様、六郎様、七郎様は、この前の戦の時、分家の方でのお話し少し伝え聞いてます。」
四郎が少し驚く。
「はい」
「寺社市の話や、宴会の話を少し」
「とても穏やかに話していらっしゃったとのことで」
「三郎様、五郎様とはまた違う感じで」
六郎が小さく笑う。
「それ、褒められてるんかな」
「褒めております」
姫君は即答した。
「四郎様は丁寧ですし、六郎様と七郎様は、失敗も含めて話してくださりそうです」
「私たちとしては、そういう方々と、もう少し遊びのように話せる関係になれればありがたいです」
七郎が目を丸くする。
「遊び」
「はい」
「堅いお茶会ではなく」
「市の話、料理の話、帳面の話、寺社市の話」
「そういうものを、もっと気楽に」
八郎がすかさず言った。
「してもらったら、ではありません」
「姫様方、春姫様を見てください」
「切り開くんです」
姫君たちが、春姫を見る。
春姫は少し困ったように笑ったが、やがて静かに頷いた。
「そうですね」
「待つだけでは、進まないこともあります」
その一言で、姫君の一人が急に四郎へ向き直った。
「では、四郎様」
「今度、少し遊びましょう」
四郎が固まった。
「え」
六郎と七郎も目を白黒させる。
「いやいや、八郎」
四郎が慌てて八郎を見る。
「巻き込むな」
「三郎兄さんと五郎兄さんの影で、俺らまで巻き込むな」
八郎は団子を食べながら、満足そうに頷いた。
「よい流れです」
「どこがや」
三郎と五郎と四郎の声が重なった。
姫君たちは笑っている。
春姫も、千代姫も、楽しそうに笑っている。
二郎だけは、少し真面目な顔で言った。
「遊ぶなら、無理のない範囲で」
「そこ真面目に言うんか」
五郎が突っ込む。
八郎は茶を飲み、ひと息ついた。
「家と家の縁も大事です」
「でも、人と人が笑えることも大事です」
「飯を食べて、茶を飲んで、遊んで、話して」
「その先に婚姻があるなら、それが一番です」
一瞬、場が静かになった。
三郎がぽつりと言う。
「たまに、まともなこと言うな」
「私はいつもまともです」
「それはない」
全員の声がそろい、また笑いが広がった。
こうして、二郎と春姫の館で開かれたお茶会は、いつの間にか次の縁談と、次の国と、
次の遊びの話へ変わっていた。
八郎家の毒は、今日もまた少し、甘い茶菓子の匂いとともに広がっていくのだった。




