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1534年5月2週目。帳面合わせがら数日後、二郎兄様と春姫のところに兄弟と島津本家の姫君が集まる。

帳面合わせから数日後。

二郎と春姫の館で、ささやかなお茶会が開かれることになった。

集まったのは、八郎の兄弟たち。

一郎と千代姫。

二郎と春姫。

そして、島津本家から来ている姫君たちである。

一郎は席に着くなり、少し照れたように頭を下げた。

「改めて、二郎、春姫様」

「婚姻、おめでとうございます」

千代姫も柔らかく微笑む。

「食卓では何度かご一緒していますけれど、こうして改めてご挨拶できてよかったです」

春姫は丁寧に頭を下げた。

「ありがとうございます」

「まだ至らぬことばかりですが、二郎様とともに、少しずつ慣れていきたいと思っております」

二郎はその隣で、少し緊張した顔をしていた。

八郎は団子をつまみながら、その様子を満足そうに見ている。

すると、姫君の一人が静かに口を開いた。

「春姉様から、婚姻までの経緯を聞きました」

「特に、二郎様、三郎様、五郎様が、春姉様の気持ちをとても大事にしてくださったこと」

「そのおかげで、春姉様が後悔せずに婚姻を決められたこと」

三郎と五郎が、急に姿勢を正した。

「いや、そんな大したことは」

「大したことです」

別の姫君がきっぱり言う。

「三郎様と五郎様が、お布団の話をされたとか」

三郎が茶を吹きかけた。

「そこを言うんですか」

五郎も顔を引きつらせる。

「いや、あれは言い方が悪かっただけで」

姫君たちは、しかし真面目だった。

「私たちからすれば、とても勇気をもらいました」

「島津本家のお局方や侍たちに対して、春姉様の気持ちをちゃんと守ってくださった」

「当然、私たちにそのような縁がある時にも、筋を通してくださるのだと思えて、安心しました」

三郎と五郎は完全にたじたじになった。

「いやいやいや」

「そんな立派なものでは」

「勢いで怒っただけです」

「それでもです」

姫君の一人は、少し頬を赤らめながら言った。

「そういうところに、私たちは結構、ぐっと来ております」

「お慕い申し上げるに値する、と言うと大げさですが」

「少なくとも、お慕い申し上げたくなくなるような方々ではございません」

三郎は固まった。

五郎は助けを求めるように八郎を見る。

八郎は楽しそうに団子を食べているだけだった。

「八郎、助けろ」

「良い流れです」

「どこがや」

三郎が小声で唸る。

五郎は咳払いをした。

「いや、ですが、私らはまだ島津本家の格式というか、空気感というか」

「そういうところに入るのは、少し怖いところもありまして」

姫君がすぐに返す。

「何を今さら尻込みしておられるのですか」

「そういうところに、私たちは惹かれているのです」

「お父様方とお付き合いになるのは大変かもしれませんが」

「そこで及び腰になられるのは、やめてくださいませ」

三郎と五郎は、ますます小さくなった。

一郎と千代姫は、楽しそうにその様子を見ている。

そこで八郎が、ようやく口を開いた。

「では、春姫様」

「お父様へ伝えていただきたいことがあります」

春姫は姿勢を正す。

「はい」

「まず、芋焼酎を届けます」

「二郎兄様に持たせますので、忠良様へお渡しください」

春姫がくすりと笑う。

「お父様は喜ばれると思います」

「それから」

八郎は一気に真面目な顔になった。

「日向の伊東との停戦期間は、いつまでか確認してください」

場の空気が少し変わる。

「半年の停戦なら、夏の終わり頃だと思っています」

「それまでに一度圧をかけるのか」

「停戦が終わってから、島津本家と連合軍で一気に行くのか」

「あるいは、その前にこちらだけで飯を炊きながら、国境をじりじり押すのか」

「そのあたりを、忠良様に聞いておきたいです」

姫君の一人が不安そうに言った。

「また戦ですか」

八郎は首を傾げた。

「戦というか」

「大友、大内と当たるまでは、多分、飯を炊いて、帳面を書いて、借金を聞いて、

 国人衆を揺らす繰り返しになると思います」

「それを戦と言うのでは」

五郎が呟いた。

「言い方の問題です」

「いや、違う」

八郎はさらに続ける。

「それから、島津本家の庄屋衆の借金が、一千万文から五百七十万文まで減っていることも

 伝えてください」

「五百七十万文?」

春姫が目を見開く。

「はい」

「この調子でいくと、あと七週ほどあれば、農民の借金もかなり消えます」

「おそらく、お父様はまだその意味をちゃんと分かっておられません」

「市を入れることにも、完全にはぴんと来ておられないはずです」

三郎が苦笑した。

「いきなり借金が消えていくとか、普通は信じへんからな」

「はい」

「でも帳面は嘘をつきません」

千代姫が静かに頷いた。

「分家でもそうでした」

「八郎様のおかげで、農民の借金はほとんど消えました」

姫君たちがざわつく。

「分家の農民の借金が、全部」

「はい」

千代姫は穏やかに答えた。

「市と寺社市、湯浴み、庄屋衆の返済、米と野菜の買い取り」

「そういうものが重なって、少しずつ消えていきました」

「少しずつ、という速さではなかったですけど」

一郎が笑う。

「八郎の少しずつは速いからな」

八郎は構わず続けた。

「それから、湯浴み場の件です」

「今、農村部の主だった庄屋衆のところには、規定数の湯浴み場を入れています」

「うちも、どの領土でも一定数を作れる体制になっています」

「つまり、まだ任されていない地域にも、湯浴み場を入れる余裕はかなりあります」

春姫が頷く。

「この時期、農民は汗をかきますものね」

「はい」

「輸送費はかかります」

「でも、一気にやることはできます」

「湯浴み場が入ると、人が集まります」

「人が集まると、市が立ちやすくなります」

「市が立つと、借金が減ります」

「だから伝えてください」

五郎が呆れたように笑った。

「湯浴みから借金まで一直線やな」

「全部つながっています」

八郎は胸を張った。

「今回、婚姻が決まったことで、島津本家にも八郎の市を入れやすくなります」

「お父様がどんどん入れてくれ、とおっしゃるかもしれません」

「その時に、こちらは準備できています」

「湯浴みも、市も、寺社市も、鳥獣対策も」

春姫は真剣に聞いていた。

「鳥獣対策も、ですね」

「はい」

「農民からお侍様へ、五ヶ月二百万文で依頼する形です」

「猪、鹿、猿、鳥から田畑を守る」

「その分、侍の借金を削る」

「島津本家の一部、こちらが勘定を預かっているところでは始められます」

「それ以外の地域をどうするか」

「そこも、お父様へ伝えてください」

春姫は深く頷いた。

「分かりました」

「芋焼酎」

「伊東との停戦期間」

「庄屋衆と農民の借金」

「湯浴み場」

「市」

「鳥獣対策」

「すべて、お父様へ伝えるようにいたします」

三郎が苦笑した。

「伝言の量が多すぎる」

五郎も頷く。

「春姫様を連絡係にしすぎやろ」

春姫は少し笑った。

「大丈夫です」

「私は、二郎様の妻ですから」

「そして、島津本家の娘でもあります」

「間をつなぐのは、私の役目です」

二郎は隣で、静かに春姫を見た。

「無理はしないでください」

春姫は柔らかく笑う。

「はい」

「でも、ちゃんと伝えます」

八郎は満足そうに団子を口に入れた。

「よろしくお願いします」

「春姫様がいてくださると、話が早いです」

「四歳児が人を使うな」

三郎が突っ込む。

八郎は胸を張った。

「私は四歳児なので、お願いするだけです」

「都合のいい時だけ四歳になるな」

お茶会の場に、また笑いが広がった。

けれど、その笑いの下で、島津本家と八郎家をつなぐ新しい道が、確かに一本、通り始めていた。

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