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1534年5月2週目。帳面合わせ。琉球への交易や四国、日向の話。北九州の紛争も気になる。鳥獣駆除の話をする。

五月二週目。

八郎家の広間では、いつものように帳面合わせが始まっていた。

帳面役が分厚い帳面を広げ、三郎、五郎、四郎、六郎、七郎、そして父母までが顔をそろえる。

八郎は上座に座り、いつものように味噌汁を横に置いていた。

「では、五月二週目の帳簿合わせです」

「細かい収益は、各担当で見ておいてください」

「大きなところだけ話します」

五郎が腕を組む。

「大きなところ、という時点で嫌な予感がするな」

「良い話です」

八郎はにこりと笑った。

「市の立ち上げ費用ですが、大隅の五つの市と、島津側の一つの市について、ツケを消しておきます」

三郎が目を丸くした。

「もうか」

「めちゃくちゃ早いな」

「早いです」

八郎は平然と頷く。

「それくらい利益が上がっています」

「大隅で市が動き始めたこと、島津本家側の市も婚姻以降、受け入れが早くなったこと」

「それに、完済祝いの寄進もあります」

「どこかのタイミングで、どこぞの地域の借金はまとめて消そうと思っています」

広間がざわついた。

「まとめて消す?」

「はい」

「城か、侍か、農民か」

「どこを消すのが一番効くか、見ています」

「また怖いことをさらっと言うな」

三郎が呆れた。

八郎は次の帳面を開いた。

「それで、来週あたり、鳥獣対策の話を正式にしようと思っています」

「今、千代姉様にも聞いてもらっています」

「薩摩川内と、その南の土地では、侍さんの借金がかなり消えています」

「なので、島津分家の方へ鳥獣対策を広げます」

「猪、鹿、猿、鳥を追う」

「畑と田を守る」

「農民から侍への仕事にする」

「余分にやってもらう分だけ、借金が減る」

四郎が頷いた。

「農民も助かるし、侍も面目が立つな」

「はい」

「ただ、もう借金がない侍さんには、別の仕事を作らないといけません」

「借金が消えて、仕事がない」

「それでは、また借金します」

五郎が苦笑する。

「仕事を作る四歳児か」

「必要です」

八郎はきっぱり言った。

「城の収益だけでは、侍全員の仕事は賄えません」

「なので、交易を考えています」

「警備、荷運び、船の護衛、港の見張り」

「そういう仕事です」

父が少し身を乗り出した。

「どこと交易するんや」

「琉球です」

八郎は即答した。

「もっと琉球との交易を増やします」

「砂糖をたくさん取ってきてもらいたい」

「ふくふく焼きという甘味を、市の店で出したいので、砂糖が欲しいんです」

母が笑った。

「あの、姫様方に出したやつやね」

「はい」

「小麦粉と卵と水で皮を焼いて、あんこを挟む甘味です」

「鉄板で焼けば香りが立ちます」

「市で出せば、人が寄ります」

「でも砂糖が足りません」

三郎が頷く。

「甘味は強いな」

「飯の後でも食うし、子どもも女の人も喜ぶ」

「はい」

「それに四国です」

八郎は地図を広げた。

「大隅を押さえたことで、肥後、薩摩、大隅、それから天草方面まで船でつなぎやすくなりました」

「それぞれ相場が違います」

「米が余る場所、味噌が欲しい場所、塩が高い場所、布が足りない場所、干物が売れる場所」

「物資を融通するだけでも利益が出ます」

「地元の特産品を動かすだけでも、商いになります」

帳面役が補足した。

「現在、交易利益は週三十万文ほど」

「船便を増やし、琉球との取引を広げれば、週五十万文ほどまで上がる見込みです」

「そんなに出るんか」

六郎が驚いた。

八郎は頷く。

「出ます」

「特に琉球との交易の幅を広げれば、絶対に出ます」

「砂糖、甘草、南の布、珍しい品」

「こちらからは芋焼酎、米焼酎、味噌、干物、鍋、椀」

「船が動けば、人も動きます」

「人が動けば、情報も動きます」

「将来的に四国を押さえにいくことを考えても、船で商人や侍が動いているのは大事です」

三郎が顔をしかめる。

「どんどん話が遠くなるな」

「遠くありません」

八郎は真面目に答えた。

「目下の目標は伊東です」

「今、急に動くつもりはありません」

「まず大隅を安定させます」

「ただ、島津本家と伊東の停戦期間をどう見るか」

「我々だけで、飯を炊きながら国境をじりじり押すのか」

「それは頭に入れておいてください」

五郎が眉を寄せた。

「伊東を考えるなら、大隅側と島津本家側、二つから接してるのは確かに大きいな」

「はい」

「ただ、日向を削れば、その先で大友と面することになります」

「今とは警戒の度合いが変わります」

「二方向から大友へ圧をかけられるようにもなりますが、向こうから見ても、八郎領が

 近づいてくるということです」

四郎が静かに言った。

「北肥後もあるな」

「はい」

八郎は頷いた。

「北肥後は様子見です」

「こちらが豊かになればなるほど、向こうの国人衆は羨ましがります」

「借金が減る」

「市が立つ」

「飯が安い」

「布団が買える」

「そういう噂は強いです」

「ただ、北九州は安定していません」

「少弐、大友、大内、龍造寺」

「小競り合いの話も聞こえます」

「こちらが軽く触っただけで、大きく揺れるかもしれません」

父が地図を見ながら呟いた。

「北は北で火種」

「南は伊東」

「海は琉球と四国」

「ようこんなに抱えるな」

「抱えているのではありません」

八郎は味噌汁を飲んだ。

「順番に並べているだけです」

三郎が笑う。

「それを抱えてるって言うんや」

帳面役が最後の札を置いた。

「当面は、大隅の市安定、鳥獣対策、交易拡大」

「伊東、北肥後、大友方面は情報収集継続」

「以上でよろしいでしょうか」

「はい」

八郎は頷いた。

「今は動きません」

「でも、動く時に慌てないよう、頭に入れておいてください」

「市の費用を消す」

「侍の借金を減らす」

「交易を増やす」

「大隅を安定させる」

「そこからです」

五郎がじっと八郎を見た。

「ほんまに今は動かんのやな」

「はい」

「私は四歳児ですから」

三郎がすぐに突っ込んだ。

「都合のいい時だけ四歳になるな」

広間に笑いが起きた。

だが、その笑いの下で、皆が同じことを感じていた。

八郎はまだ動かない。

けれど、帳面の上ではもう、伊東も、北肥後も、琉球も、四国も、静かに線で結ばれ始めていた。

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史実で言えば勢場ヶ原の戦いが起きている頃であるが、八郎のせいでバタフライエフェクトが起きているため、本作では大友、大内の争いがない。 そのため逆に大友が八郎にとって脅威になっている。 また、大内が入っ…
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