表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
390/657

1534年4月4週目。島津本家に凱旋。二郎兄様と春姫の婚姻祝い。一旦八郎領で父母へ挨拶の後行き来しますか?と提案。

四月四週目。

八郎は、大隅での一週間を終え、島津本家へ戻った。

ゆっくり帰るつもりではあった。

だが、二郎と春姫の祝いがある。

ゆっくりしながらも、どこか急ぐという、妙な帰り道になった。

島津本家の城下へ入ると、空気はすでに祝いの色に染まっていた。

門前には幟が立ち、城下では酒と飯が出ている。

春姫と二郎の婚姻。

大隅落城。

八郎の凱旋。

どれを祝っているのか分からないくらい、皆が浮かれていた。

八郎は城へ入るなり、二郎と春姫を見つけて、ぺこりと頭を下げた。

「二郎兄様、春姫様」

「おめでとうございます」

春姫は少し照れたように笑った。

「八郎様こそ、大隅平定、おめでとうございます」

二郎も頷く。

「無事でよかった」

「私は四歳児ですので、無茶はしません」

「一番無茶をする四歳児やろ」

五郎がすぐ横から突っ込んだ。

三郎も笑う。

「こっちはこっちで、二郎兄さんの婚姻で持ちきりやったけどな」

八郎はにこにこして頷いた。

「忠良様は、むちゃくちゃ喜んで、さっさと帰りましたからね」

「決まるまでは、ものすごくおどおどしておられましたけど」

春姫が少し申し訳なさそうに父の方を見た。

忠良は少し離れた上座で、顔を赤くして酒を飲んでいる。

「いや、まあ、あれはな」

忠良は咳払いをした。

「家として、大事な時機であったからな」

八郎は平然と続けた。

「だから私も、向こうで宴会を一日多めにやりました」

二郎が目を丸くする。

「城攻めの最中に宴会してたんか」

「はい」

「たくさんの兵で囲んで宴会すると、城の中の兵が逃げていくんです」

「何を言うてるんや」

「実質、戦ったのは一刻くらいですよ、多分」

春姫が思わず口元を押さえた。

三郎も五郎も笑う。

「それ、島津の無駄遣いちゃうんか」

「いえいえ」

八郎は首を振った。

「島津の兵がきちんと囲んでくださるから、城の中の人が精神的に疲れるんです」

「飯と酒だけでは落ちません」

「武の圧があって、飯の匂いが効くんです」

忠良は酒を飲みながら、少し誇らしげに頷いた。

「そう言われると悪くないな」

実久が横で笑う。

「ええように使われとるだけじゃぞ」

場が笑いに包まれる。

その後、話は島津本家での市へ移った。

三郎が大きく息を吐く。

「いや、こっちも大変やったで」

五郎も頷いた。

「最初はほんまに上からやった」

「市を開いても、なんで八郎商会の飯を食わなあかん、みたいな顔やし」

「寺社市なんか、本当に動くのかという感じでした」

八郎は興味深そうに聞いている。

「それで、どうなりました」

三郎は少しにやりとした。

「何日か市を動かして、帳面を見せて、借用書を消した」

「そこからは早かった」

五郎も続ける。

「それに、二郎兄さんと春姫様の婚姻が決まって、早馬が飛んで、大殿様が戻ってきて」

「一気に空気が変わった」

「受け入れ方が全然違う」

「婚姻関係って大事やな」

八郎は真面目な顔で頷いた。

「だから言うたでしょう」

「飯と帳面と婚姻です」

「国はこの三つで動きます」

「四歳児が言う言葉やない」

実久が呆れた。

その時、八郎は二郎と春姫へ向き直った。

「それで、どうされます?」

「しばらくこちらで暮らして、妹様方の縁談関係を進めますか」

「それとも一度、父上と母上に挨拶へ戻って、荷物をまとめて、改めてこちらで動きますか」

忠良がすぐに身を乗り出した。

「それがいい、それがいい」

貴久も横で頷く。

「一度、ご実家へご挨拶なさるのが筋でしょう」

忠良はすっかり上機嫌で、二郎へ向かって言った。

「ついでに芋焼酎も取りに帰ってくれ、息子よ」

二郎が固まった。

「もう息子になってますやん」

五郎が吹き出す。

春姫も笑った。

忠良は胸を張る。

「めでたいことじゃ」

「めでたいんですけど」

八郎は少しだけ真面目な顔になった。

「春姫様は、結構頑張られたと思いますよ」

場の空気が少し落ち着く。

忠良は春姫を見る。

「それは、申し訳なかった」

「家の都合で振り回した」

「だが、春姫が自分で決めてくれたおかげで、こちらとしては本当に心が安まった」

春姫は静かに頭を下げた。

「私も、自分で決めました」

「だから、大丈夫です」

二郎はその隣で、少しだけ誇らしそうに座っていた。

忠良は頷く。

「ならば、行ったり来たりでもよい」

「一度向こうへ顔を出し、父母殿に挨拶し、状況を話す」

「それからまたこちらへ来ればよい」

「他の姫たちもおる」

「まだ縁を作る必要もあるからな」

八郎がすぐに言った。

「船を使いますか」

「歩くの、大変だったでしょう」

忠良の目が輝く。

「ああ、それもいい」

「船なら芋焼酎もたくさん運べる」

三郎が笑う。

「芋焼酎の話ばっかりじゃないですか」

「大事じゃ」

忠良は真顔で言った。

「芋焼酎は、島津の未来に関わる」

五郎が肩を震わせる。

「春姫様の婚姻祝いの話から、いつの間にか酒の運搬計画になってますよ」

八郎は満足そうに頷いた。

「よろしいですね」

「婚姻、芋、酒、船、市」

「全部つながっています」

「つなげるな」

二郎が小さく突っ込むと、春姫が楽しそうに笑った。

その笑いを見て、忠良も、貴久も、三郎も五郎も、少し安心した顔をした。

島津本家の城は、祝いの声に包まれている。

大隅の戦は終わった。

市は動き始めた。

二郎と春姫は家族になった。

そして次に運ばれるのは、祝いの荷と、芋焼酎であった。

八郎は団子を一つ口に入れ、満足そうに言った。

「めでたい時は、甘いものと酒です」

「私は酒は飲めませんけど」

実久が笑った。

「四歳児じゃからな」

「はい」

八郎は胸を張った。

「私は四歳児です」

今度ばかりは、誰も強く突っ込まなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ