1534年4月2周目。肝付の城を開放。帳簿の整理と振舞い飯と酒。1週間騒いで戦の熱を冷まそうwww
4月2周目。
肝付の城は、開け放たれた。
門も、蔵も、広間も、奥の風通しの悪い部屋も、八郎の命で次々に戸が開けられていく。
「まず換気です」
八郎はごきげんだった。
「城というのは、落ちた後が湿っぽい」
「空気を入れ替えましょう」
実久が呆れた顔で見る。
「城を落として最初に言うことが換気か」
「大事です」
八郎は真顔で答えた。
「人も帳面も、湿気るとよくありません」
城下にはすでに触れが出ていた。
戦は終わった。
ここは八郎領になる。
城へ集まれば飯が出る。
酒も出る。
帳面も見る。
借金がある者、年貢の未納がある者、商家に付けがある者、侍へ貸しがある者、逆に貸している者。
全部、城へ来い。
「振る舞い酒もします」
「帳面書きもします」
「市の立ち上げもします」
「最初は振る舞いでいいです」
「金を持ってきましたから、使い切りましょう」
八郎がそう言うと、商人衆が顔を引きつらせた。
「使い切る前提ですか」
「はい」
「銭は寝かせると腐ります」
「飯と市と湯浴みに変えた方がよいです」
「湯浴みも作りますか」
「頑張りましょう」
八郎は平然と言った。
「城下に湯気が立つと、人は少し安心します」
「飯の匂いと湯気と酒の声」
「それがあれば、戦が終わった気になります」
実久は腕を組んだ。
「戦が終わった気、か」
「はい」
「本当に終わらせるには、それが要ります」
さらに八郎は、島津分家の兵を五百ほど残すよう頼んだ。
「二百五十人は飯炊き」
「二百五十人は守備と国境回り」
侍たちが目を丸くする。
「飯炊きに二百五十ですか」
「はい」
「日向国境の方で、飯を炊きまくってください」
「祝い酒も振る舞ってください」
「城が落ちた祝いです」
「二郎兄様と春姫様の祝いでもあります」
「ついでに、八郎領になれば飯が出る、借金も見る、市も来る、と叫んでください」
実久様が少し笑う。
「日向側に聞こえるようにか」
「もちろんです」
八郎は城の東を見た。
「大隅で一週間バカ騒ぎします」
「日向国境でもはしゃぎます」
「それで国人衆が三万五千石くらい降ってくれば、まずよしです」
「伊東が和議や停戦を求めてくれば、なおよしです」
「お前、戦が終わった顔をして次の戦を始めておるな」
「始めていません」
八郎は首を振る。
「飯を炊くだけです」
実久様は笑った。
「その飯が一番怖いんじゃ」
伊東の勢力は、物語帳簿でおよそ二十万石。
大隅を落とした今、八郎軍と島津軍を合わせれば、ここにはまだ五千近い兵がいる。
ただちに攻めるわけではない。
だが、伊東が情報を集めるのは間違いない。
その情報として届くのが、城下での振る舞い酒、借金帳消し、湯浴み、市の立ち上げ、
国境で炊かれる飯であれば、どうなるか。
八郎はそれを狙っていた。
「一週間あります」
「その間に、がっつり動かします」
「農民や庄屋衆やお侍さんも、三万五千石あたり一千万文くらい借金があると仮定します」
「国人衆も、それぞれ数千万文くらいあると仮定します」
実久が顔をしかめた。
「その仮定で回すお前がおかしい」
「備えです」
「借金が少なければ楽になります」
「多ければ、やっぱり帳面が正しかったという話です」
商人衆はもう諦めた顔で帳面を広げている。
「市は一日でも早く回した方がいいです」
「飯が売れれば、米が動く」
「米が動けば農民に銭が渡る」
「農民に銭が渡れば、市で買う」
「市で買えば庄屋に銭が渡る」
「庄屋に銭が渡れば借金が返る」
「借金が返れば、また仕入れができる」
八郎は指を折りながら言った。
「順繰りです」
「順繰りに回すんです」
実久はため息をついた。
「聞いていると簡単そうに聞こえるのが腹立つな」
「やるのは大変です」
八郎は団子をかじりながら言った。
「だから人を集めます」
「それから船便です」
「肥後、薩摩、大隅をつないだら、陸だけでは遅い」
「船をもっと使いたいです」
「交易ですね」
「ここまで来たら、九州だけではなく四国もいけるでしょう」
商人衆の目が変わった。
「四国ですか」
「はい」
「米焼酎、芋焼酎、干物、味噌、布、椀、鍋」
「売り物をまとめます」
「琉球から仕入れるもの」
「九州内で回すもの」
「四国へ出すもの」
「全部分けましょう」
「芋焼酎は特に売れます」
「薩摩で植えればもっと作れます」
「大隅でも植えます」
「日向にも見せます」
実久が、もう半分笑うしかない顔になる。
「借金を減らす話をしていたはずが、いつの間にか四国へ売る話になっとる」
「借金を減らすには、売らないといけません」
「売るには、運ばないといけません」
「運ぶには、船がいります」
「船があるなら、遠くへ売った方がいいです」
「帳尻が合っておるようで、全然合っておらん」
「領地も増えていますからね」
八郎は自分でも少し困った顔をした。
「借金が減る」
「領地が増える」
「また借金が増える」
「それを市で減らす」
「また領地が増える」
「なかなか帳尻が合いません」
「お前が増やしておるんじゃ」
実久の突っ込みに、周囲が笑った。
八郎は団子をもう一つ取る。
「まあまあまあ」
「まずは大隅です」
「城を開けます」
「飯を出します」
「酒を出します」
「帳面を書きます」
「湯を沸かします」
「市を立てます」
「国境で騒ぎます」
「船を呼びます」
「それだけです」
「それだけ、で国が動くか」
「動かします」
八郎は団子を食べ終え、満足そうに頷いた。
「勝った後の一週間が、一番大事ですから」
実久は空を仰いだ。
「四歳児に国の後始末を任せると、こうなるのか」
商人衆も侍たちも、誰も反論できなかった。
城下ではすでに、飯の湯気が上がっている。
振る舞い酒に人が集まり、帳面役の前に列ができる。
そして遠く日向の国境では、島津の兵が大鍋を据え始めていた。
大隅は落ちた。
だが八郎の戦は、宴会の音と味噌汁の匂いで、もう次の国へ染み出し始めていた。




