1534年4月2週目。宴を2夜連続でし、島津本家と八郎家の縁談がなったことで士気が上がり場内の士気は下がる。あっさり総攻撃が終わり、戦後処理に入るwww
翌朝、肝付の城を囲む陣には、妙な緊張と妙な弛みが同居していた。
前夜の祝いの振る舞い酒のせいで、城の中からはさらに兵が逃げた。
五百ほど。
数え直すと、肝付方は二千五百から二千二百になり、そこからさらに減って、
残りは千七百ほどになっていた。
八郎は帳面役の報告を聞いて、少し困った顔をした。
「減りすぎですね」
忠良が槍を手にして鼻を鳴らす。
「こちらは攻める気満々なんじゃがな」
実久も笑う。
「宴で城を落とすとは、聞いたことがない」
「落としてません。まだ総攻撃します」
八郎は真面目に言った。
「ただ、昨日の残り物を食べて、こちらはしっかり寝ました」
「城内は寝ていません」
「飯も足りていません」
「周りの国人衆も降っています」
「まあ、長くは持たないと思います」
その言葉通りだった。
朝の太鼓が鳴る。
島津本家、島津分家、八郎軍が一斉に前へ出た。
盾が進み、槍が寄せ、門へ兵が殺到する。
城兵は矢を放つが、数が少ない。
勢いもない。
門が破られ、堀を越え、城内へ兵が雪崩れ込む。
一刻もかからなかった。
肝付の城は落ちた。
忠良が城内へ入り、少し不満そうに言った。
「歯ごたえがなさすぎる」
実久も肩をすくめる。
「これでは、我らが強いのか、相手が弱ったのか分からんな」
八郎は味噌汁の椀を持ったまま答えた。
「いやいや、あれだけじらして、宴会までされたら無理ですって」
「こちらは物量差で勝っています」
「兵も飯も銭も情報も、こっちの方が多い」
「だから勝っただけです」
「四歳児が偉そうに戦を語るな」
実久が笑う。
「私は四歳児です」
「都合のいい時だけ四歳になるな」
やがて、肝付の当主が捕らえられて連れてこられた。
縄をかけられ、疲れ切った顔をしている。
忠良の目が鋭くなる。
「こやつ、どうする」
「島津としては恨みもある」
「首を落とすか」
陣の空気が少し硬くなった。
だが八郎は、城の中を見回してから言った。
「でも、お祝いの席ですしねえ」
忠良が眉をひそめる。
「祝いの席で首は似合いません」
「逃げたいなら、伊東方面へ逃げていただいてもよいです」
肝付当主が顔を上げた。
「伊東へ、か」
「はい」
八郎はにこりと笑う。
「大隅の国人衆は、ほとんどこちらへ降りました」
「ここは八郎領としていただきます」
「帳面を整理し、市を入れ、借金を見ます」
「次は、伊東の方に向かうつもりです」
「それを伝えていただければ」
忠良が横目で八郎を見る。
「それは脅しではないのか」
「伝言です」
八郎は平然としている。
「もし私に降るのであれば、八郎領内で好きに住んでいただいて構いません」
「ただし、帳面だけは全部出してください」
その後ろでは、八郎商会の者たちがすでにばたばたと走り回っていた。
蔵の場所。
金庫。
借用書。
米の残り。
商家衆への付け。
侍の借金。
農民の未納。
城が落ちた喜びよりも先に、帳面役が紙と筆を抱えて走っている。
実久が呆れた。
「しまらんな、やっぱり」
商人衆の一人が振り返る。
「いやいや、これが仕事ですから」
「証文が焼かれたり、蔵が荒れたりしたら、何が何だか分からなくなって泣きます」
別の商人も叫んだ。
「そうですぞ」
「お殿様方は城を落とせばええかもしれませんが、うちは貸しているものがあります」
「しかも相当貸しています」
「帳面が燃えたら、こっちが死にます」
忠良は額に手を当てた。
「戦の後とは思えぬ」
八郎は頷く。
「戦の後だからです」
「ここからが本番です」
一通りの処理が始まると、忠良は大きく息を吐いた。
「では、わしはそろそろ帰る」
八郎が顔を上げる。
「もうですか」
「祝いをせねばならん」
忠良の顔は、もう戦勝よりも春姫と二郎の婚姻祝いに向いていた。
「本家に戻って、準備をしておく」
「もしよかったら」
八郎はすぐに言った。
「二郎兄様、三郎兄様、五郎兄様の話も聞いてあげてください」
「市はうまくいっていないかもしれません」
「芋の話もあります」
「芋焼酎の話も、きちんとしてあげてください」
忠良は少し笑った。
「あれはうまいからな」
「薩摩で植えるためにも、息子殿に頑張ってもらわねば」
八郎が目を丸くする。
「もう息子殿って言ってるんですか」
「当たり前じゃ」
忠良は胸を張った。
「春姫が嫁ぐなら、二郎殿は息子じゃ」
実久が横から茶化す。
「早いのう」
「うるさい」
忠良は意気揚々と帰り支度を始めた。
その背中を見ながら、実久が八郎へ言った。
「では、その代わりにわしが残ろうか」
八郎が顔を上げる。
「よろしいのですか」
「どうせ、お前は市を開いて稼働させるまでやるんじゃろう」
「振る舞い酒もする」
「住民と顔を合わせる」
「国人衆と話を丸める」
「帳面を出させる」
「それぐらいなら、わしが残って見ておいたる」
八郎は深く頭を下げた。
「助かります」
「それに」
八郎は城の外、さらに東の方を見た。
「私は島津と違って、伊東と停戦協定を結んでいませんからね」
実久の目が細くなる。
八郎は続ける。
「私が大隅にどかっと陣取り、国人衆と話を丸め、市を動かし、八郎商会のやり口で一週間ほど回す」
「飯を出す」
「借金を消す」
「商人を動かす」
「民を安心させる」
「そうすれば、伊東の方から停戦してくださいとか、境目の土地を割譲しますとか、
話が来るかもしれません」
実久は呆れた顔で笑った。
「がめついのう」
八郎は真顔で答える。
「私は四歳児です」
「四歳児がめついな」
「帳面がありますので」
「余計に怖いわ」
実久はそう言いながらも、どこか楽しそうだった。
肝付の城は落ちた。
だが、八郎にとって落城は終わりではない。
飯を炊き、帳面を開き、市を動かし、次の国を揺らす。
戦の勝ちを、銭と人の流れに変える。
それが八郎の本当の攻めだった。




