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1534年4月2週目。話は肝付の城を包囲する八郎・島津連合軍。二郎と春姫の縁談の話が気になる島津本家www総攻撃数日待ちます。縁談がなったのを機にすぐ攻めようとする忠良www

話は、肝付の城を囲む陣へ戻る。

島津本家の忠良は、ここ数日、どうにも落ち着かなかった。

城はもう落ちかけている。

周辺の国人衆は肝付を見限り、八郎の陣へ挨拶に来ている。

城の中からも、夜ごと兵が逃げ始めている。

普通なら喜ぶべき状況である。

だが忠良の顔は晴れない。

「このままでは、あと何日かで落ちてしまう」

その言葉を聞いた八郎は、味噌汁の椀を持ったまま首をかしげた。

「では、特別ですよ」

「何日か、じらしてみましょうか」

忠良が目を見開く。

「それは、まことにありがたい」

実久が横から笑った。

「では、今宵は芋焼酎でも飲んで、一晩宴でもするか」

「宴ですか」

八郎は城の方を見る。

「宴をしたら、逆に効果的になって、城から兵が逃げ出すかもしれませんよ」

「それはそれで困る」

忠良が渋い顔をする。

「でも、金も落とした方がええでしょう」

八郎はさらりと言った。

「では、一日宴にしましょう」

そうしてその晩、陣は戦場とは思えぬ賑やかさになった。

町人や村人にも振る舞い酒が出される。

握り飯が積まれ、味噌汁が煮え、芋焼酎が薄められて配られる。

「八郎様の振る舞いや」

「島津様もおられるぞ」

「戦の陣やのに、えらい景気がええな」

やんややんやと声が上がる。

昼番の兵は飲み、食い、笑い、その後はしっかり寝かされた。

夜番の兵だけは恨めしそうに見ている。

八郎はその者たちへ声をかけた。

「帰ったら、夜番の方には別に宴をします」

「今日はすみません」

夜番の兵たちは、仕方ないという顔で笑った。

だが、城の中から見れば、それはたまったものではない。

外では飯の匂いがする。

酒の声がする。

笑い声が聞こえる。

しかも自分たちの村人まで、敵陣で酒を飲んでいる。

夜半、城の裏手から十人ほどが出てきた。

「降ります」

「もう、無理です」

八郎はその者たちに飯と味噌汁を出した。

「逃げるなら逃げてもいいです」

「そろそろ総攻撃をしますから」

一人が震える声で言った。

「まだ城の中に兄弟がおります」

「一度戻って、知らせてもよろしいでしょうか」

「いいですよ」

八郎は握り飯を包ませた。

「戻るなら、飯を持って帰りなさい」

「食べてから考えてもらってください」

男は目を潤ませて頭を下げた。

「ありがとうございます」

その後も、十人、また十人と、少しずつ出てきた。

中には飯をもらってから戻り、さらに仲間を連れて出てくる者もいた。

翌朝、数を数えると、肝付方の兵は三百ほど減っていた。

「二千五百が、二千二百ほどか」

忠良が呟く。

八郎は少し困った顔をした。

「まずいですね」

「勝ってしまいます」

「何がまずいんじゃ」

実久が笑う。

「もう一日やったら、四、五百は出てくるかもしれません」

「我らの仕事をなくす気か」

忠良が半分本気で言う。

「なくす気はありませんが、早く知らせが来てくれないかなとは思っています」

その時だった。

陣の外から、早馬の声が上がった。

「島津本家より早馬!」

泥だらけの使者が、馬から転がるように降りる。

息を切らし、文を差し出した。

「申し上げます」

「二郎様と春姫様、婚姻を進めるとのこと」

「今朝、春姫様、二郎様よりお言葉あり」

「夜通し走って参りました」

一瞬、陣が静まった。

次の瞬間、忠良が立ち上がった。

「おっしゃ」

「攻めよう」

実久が吹き出した。

八郎も思わず笑う。

「なんですか、この落差は」

「いや、違う」

忠良は顔を赤くしながらも、満面の笑みだった。

「間に合った」

「肝付が落ちる前に間に合った」

「ならば、もう気にせず進められる」

八郎は少し考えた。

「では、もう一日だけ激しく続けましょう」

「何をじゃ」

「お祝いです」

八郎はにこりと笑った。

「婚姻が成った」

「島津本家と八郎家は、きちんと同盟になった」

「そのことを周りに知らせます」

「今日は祝いの振る舞い酒です」

「城へも聞こえるように叫ばせましょう」

忠良が目を丸くする。

「それはまた、逃げるぞ」

「逃げますね」

八郎は頷いた。

「二、三百どころか、四、五百は逃げるかもしれません」

「そして明日、総攻撃すると知らせます」

実久が腹を抱えて笑った。

「ほんまにいやらしい四歳児じゃ」

「お祝いです」

八郎は真顔で言う。

「祝っているだけです」

すぐに陣のあちこちで声が上がった。

「二郎様、春姫様、婚姻成る!」

「島津本家と八郎家、縁結ばれる!」

「今宵は祝いの酒じゃ!」

「城から逃げてくる者にも、飯と酒を振る舞うぞ!」

城壁の上がざわめく。

外ではまた鍋が並び、酒が薄められ、味噌汁の湯気が上がった。

忠良はその様子を見ながら、心底安堵した顔をしていた。

「よかった」

「間に合った」

八郎が横で言う。

「大変だったみたいですよ」

「春姫様も二郎兄様も、たぶんかなり頑張られたと思います」

忠良は静かに頷いた。

「この一日二日が、本当に長く感じた」

「うちは面子を大事にする家じゃ」

「そのせいで、向こうではいろいろ揉めたかもしれん」

「八郎領のように、わいわいやっている方がうまくいったのかもしれんな」

「それは後で聞きましょう」

八郎は椀を持ち直した。

「全ては終わった後です」

忠良は肝付の城を見た。

「わしは、この城が落ちたら帰るぞ」

「まだ落ちていませんけど」

「もう気持ちは帰っとる」

実久が芋焼酎の杯を掲げる。

「まあ、今日は飲め」

「一日飲んで、ゆっくり寝てから考えればよい」

忠良は杯を受け取り、深く息を吐いた。

「家族になれたな」

実久がにやりと笑う。

「そちらが家族になったということは、こちらも回り回って家族じゃぞ」

「分かっておる」

忠良は少し照れたように言った。

「仲良くしよう」

八郎は二人を見上げて、満足そうに頷いた。

「よろしいですね」

「飯と酒と婚姻で、連合軍らしくなってきました」

その夜、肝付の城の外では、戦場とは思えぬ祝いの宴が続いた。

そして城の中では、また一つ、また一つと、兵の心が外へ逃げていった。

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