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1534年4月1週目。島津分家の領地を通る。分家の実久は泊っていけと誘う。芋焼酎美味いな。前の阿蘇攻めで戦の価値観が変わったわwww

八郎軍は四月一週目の評定を終えると、すぐに動き始めた。

兵は三千五百。

侍衆、補給衆、飯炊き、帳面役、荷駄。

軍と言うには、米俵と味噌樽と鍋の数が妙に多い。

「派手やな」

五郎が荷の列を見ながら呟いた。

「道中で飯も買いますし、炊き出しもしますから」

八郎は馬ではなく小さな輿に揺られながら答える。

「ただ、動きは早めます」

「分家領は二、三日で通過します」

「情報が大きく漏れる前に、島津本家と合流して、肝付との境まで出るのが大事です」

一郎が頷く。

「ゆっくり飯を買いながら、でも進みは早く、か」

「はい」

「飯は派手に」

「軍は速く」

「ややこしいな」

「戦とはそういうものです」

「四歳児が言うな」

道中、八郎は兄たちにも改めて役割を伝えた。

「分家領は、一郎兄様、四郎兄様、六郎兄様、七郎兄様で見てください」

「一郎兄様には芋関係」

「それと、水車を使った新しい機械がどれだけ入れられるか」

「農作業全般を見ていただきます」

「四郎兄様は寺社市、城の広場での訓練、帳面開き」

「六郎兄様、七郎兄様は見学も兼ねてください」

「見学扱いか」

六郎が不満そうに言う。

「見学は大事です」

八郎は真顔で返した。

「いずれ自分で動かす時が来ます」

七郎が小さく息を呑んだ。

そうして一行が島津分家の城へ入ると、実久様は笑いながら出迎えた。

「よう来たな、八郎殿」

「通り道とはいえ、来てくれたなら一泊していけ」

「ありがとうございます」

「千代とも仲良うしてくれておるようで、こちらも気が楽じゃ」

実久様は一郎を見て、にやりと笑う。

「一郎殿、うちの千代を頼むぞ」

「はい」

一郎が少し照れながら頭を下げる。

八郎はその横で言った。

「出陣の準備は万端ですか」

「もちろんじゃ」

実久様は胸を張った。

「千五百、すぐに出せる」

「ただし」

「ただし?」

「またあるのじゃろう、小遣いが」

その言葉に家臣たちが苦笑する。

八郎はにこりと笑った。

「もちろん、たくさん用意しております」

「援軍の費用はきちんとお支払いします」

「それは助かる」

「それと、こちらも」

八郎は後ろの者に合図した。

壺が運ばれてくる。

「芋焼酎です」

「原液はかなりきついので、一口舐めるくらいにしてください」

「水で薄めると、かなりまろやかになります」

「一郎兄様には先に渡しております」

実久様は壺を受け取り、杯に少しだけ注がせた。

匂いを嗅ぎ、目を細める。

「ほう」

そして、ほんの少し舐める。

「……これは、ええな」

「癖になる味じゃ」

「米と違って、米は兵糧にもなる」

「だが芋なら、嗜好品として使ってもよい」

「つまり、銭にもなるということか」

「はい」

八郎は嬉しそうに頷いた。

「銭にもなりますし、美味しいです」

「今年はまだ試作段階でした」

「今年の冬仕込み、来年できるものは、九州中にばらまくつもりです」

「量を出します」

「芋文化を広げて、徐々に侵食していきます」

実久様は杯を見つめたまま笑った。

「本当に、帳面と飯で九州を取るつもりじゃな」

「飯と帳面と酒です」

「増えたな」

「増えます」

実久様は少し真面目な顔になった。

「阿蘇の戦はな、わしの戦の考えを変えた」

「豊かになるとは、ああいう手が使えるということなのじゃな」

「飯を食わせ、銭を払い、敵の兵が勝手に逃げる」

「槍で勝つより恐ろしい」

八郎は静かに答えた。

「なるべく人を死なせたくありません」

「そのために銭を使います」

「千代」

実久様は千代姉様を呼んだ。

「帳面の方も頼むぞ」

「八郎殿は一ヶ月ほど空けるかもしれぬ」

「はい、父上」

千代姉様が頷くと、八郎が帳面を開いた。

「分家領は、このまま四週回れば、三百六十万文ほど借金が減る見込みです」

「三百六十万文……」

実久様が顔をしかめる。

「残債はどうなっておる」

「直近の帳面では二百七十万文です」

「ですから、一ヶ月後には、おそらく全部返済に回せます」

実久様の目が大きく開いた。

「ほんまに目玉が飛び出そうになるわ」

「二千万文近く消えたことになるのか」

「はい」

「市と寺社市と湯浴みと帳面が回れば、そうなります」

八郎は四郎を見る。

「だから四郎兄様を置いていくんです」

「寺社市を綺麗に動かせば、もっと売り上げが上がります」

「毎週三十万文売上が動いているんですよ」

実久様が声を上げた。

「どこがそんなに動いておる」

「薩摩川内一万五千石分です」

八郎は当然のように言った。

「侍衆の借金、城の借金がなくなると、それくらい動きます」

「一万五千石で、です」

「その南側も、毎週三十万文ほど動いています」

「原価で借金を消しながら、布団も売れます」

「湯浴みを使う人も増えています」

「一日あたりの湯浴み利益も少しずつ上がっています」

「銭が回り始めると、さらに銭が回ります」

実久様は頭を抱えた。

「すごいことになっておるな」

「すごいことになります」

八郎は頷く。

「ただ、その銭で城の借金を消していくしかありません」

「本当は交易でもっと稼ぎたいところです」

「だから、先々琉球という話も出ます」

「琉球か」

実久様は今度は空を見た。

「船がいるな」

「どうせ船は要ります」

八郎は即答した。

「交易を増やしたいからです」

「今、肥後と薩摩は押さえています」

「今回、大隅が入れば三国がつながります」

「米、海産物、塩、味噌、酒」

「場所によって値段が違います」

「それを船で順繰りに慣らすだけでも利益になります」

「さらに四国へも回せる可能性があります」

「話がどんどん大きくなるな」

実久様は笑って、杯を置いた。

「俺はもう追いつけん」

「俺は目先の敵を倒すだけじゃな」

八郎はにこりと笑った。

「それで十分です」

「目先の敵を倒していただければ、あとは帳面と飯で広げます」

実久様は呆れたように笑った。

「やはり、八郎殿は怖い四歳児じゃ」

「四歳児です」

八郎は胸を張る。

「少しだけ、船と芋と帳面が好きな四歳児です」

その言葉に、城の広間は大きな笑いに包まれた。

だがその笑いの裏で、誰もが分かっていた。

この小さな四歳児は、もう目の前の大隅だけを見てはいない。

肥後、薩摩、大隅、琉球、そして海の向こうまで。

その全部を、飯と帳面でつなごうとしているのだと。

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