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1534年4月1週目。帳面合わせ。それが終われば出兵。八郎300万文、三郎五郎で300万文。一郎が150万文持ち出す。帳簿が捻じ曲がるwww

四月一週目の帳面が締まると、八郎は館の広間に主だった者たちを集めた。

侍衆、庄屋衆、帳面役、市の差配役、寺社市の担当者。

皆が揃ったところで、八郎は小さな体で上座に座り、帳面を前に置いた。

「この評定が終われば、私は戦に出ます」

広間の空気が一気に引き締まった。

「大隅、肝付方面です」

「島津本家様、島津分家実久様との連合軍になります」

「皆さん、留守中も頑張っていきましょう」

八郎はそこで帳面を開いた。

「まず銭の配分です」

「私は三百万文を持っていきます」

帳面役が頷き、横の紙に書き付ける。

「道中で飯を買い、米を買い、味噌を買い、労賃を払い、炊き出しをします」

「敵の兵を斬る前に、まず心を折ります」

侍衆の何人かが、阿蘇の戦を思い出して静かに頷いた。

「次に、三郎兄様と五郎兄様」

「島津本家領で市と寺社市の立ち上げをしていただきます」

「それぞれ百五十万文ずつ持って動いてください」

「合わせて三百万文です」

三郎と五郎が顔を見合わせた。

「百五十万文ずつか」

「責任が重いな」

「重いです」

八郎は真顔で頷く。

「島津本家様は、まず三万五千石分を助けてくれ、という話です」

「ですが、私は十四万石分まで広がると思っています」

「最初の三万五千石で農民の借金が減れば、他の村も必ず言います」

「うちも入れてくれ、と」

五郎が苦笑した。

「まあ、言うやろな」

「言います」

八郎は当然のように言った。

「さらに、大隅を取った後、そこでも市を開くことになります」

「ですから、百五十万文ずつは妥当です」

「むしろ少ないくらいです」

広間の隅で、庄屋衆が小さく息を呑んだ。

少ない、と言える額ではない。

だが八郎はもう次の帳面をめくっていた。

「一郎兄様と四郎兄様には、芋の苗代、職人の費用、炊き出しの初期費用として、

 百五十万文を使っていただきます」

「薩摩本家での芋作付けと、分家側の運用整備です」

「芋焼酎、米焼酎も持っていってください」

「酒で話を聞いてもらいます」

少し笑いが起きた。

「これで合計七百五十万文を動かします」

帳面役が数字を読み上げた。

「現在の集計は九百七十万文でございます」

「そこから七百五十万文を差し引いて……」

帳面役が計算しかけたところで、八郎が首をかしげた。

「残りは七百五十万文です」

広間が止まった。

「……はい?」

「おかしいですな」

「九百七十万文から七百五十万文を引いて、なぜ七百五十万文残るのですか」

一郎が目を細める。

八郎はぽんと手を打った。

「あ、忘れていました」

「旧相良領の庄屋衆からの返済が戻ってきています」

「先に帳面整理を終えた分です」

「それと、風呂桶を大量に動かした輸送運賃、商会取り分、寺社市の追加分」

「それを全部入れて、支出後で八百三十万文残ります」

広間に、さらに妙な沈黙が落ちた。

五郎が頭を抱える。

「それでもむちゃくちゃおかしいやろ」

「おかしいですが、帳面は合っています」

帳面役が震える声で言った。

「合っております」

「合ってるならいいです」

八郎はあっさり言った。

「よくない気もするが」

「銭があるのはよいことです」

八郎は広間を見回した。

「私はこれから一ヶ月ほど館を空けるかもしれません」

「兄様方もそれぞれ動きます」

「父上、母上は残っておりますが、実務は皆さんで主体的に動かしてください」

皆の顔が引き締まる。

「特に、大友、龍造寺、大内の動きには注意してください」

「北肥後に揺さぶりが来るかもしれません」

「大内は今すぐ大きく動けないかもしれませんが、文や商人で探りを入れることはあります」

「大友は肥後北部を見ています」

「龍造寺は肥前からこちらを窺います」

八郎は声を少し強めた。

「何かあれば、ある程度の裁量で動いてください」

「八郎がいないから何もできません、では困ります」

「これだけ領地が広がったのです」

「私一人で全部を見ることはできません」

侍衆も庄屋衆も、深く頭を下げた。

「それから、早馬です」

「できるだけたくさん走らせてください」

「小さなことでも構いません」

「指示を仰ぎたいこと」

「判断に迷うこと」

「敵の動き」

「市の揉め事」

「帳面の変化」

「全部、走らせてください」

「早馬の費用はどう扱いましょう」

帳面役が尋ねる。

「全部費用です」

八郎は即答した。

「無駄遣いで終わらせないでください」

「情報を集めるための銭です」

「状況がたくさん分かれば分かるほど、私も判断できます」

「十本の早馬のうち九本が空振りでも、一本で領地が助かるなら安いものです」

その言葉に、広間の者たちの顔が少し明るくなった。

「ありがとうございます」

庄屋衆の一人が頭を下げた。

「八郎様がそう言ってくださると、心強うございます」

「銭には余裕があるはずです」

八郎は帳面を叩いた。

「ただし、余裕があるから雑に使ってよいわけではありません」

「飯に使う」

「人に使う」

「情報に使う」

「借金を消す」

「市を動かす」

「それ以外には、なるべく使わないでください」

「承知しました」

広間に声が揃った。

八郎はそこで、少しだけ表情を緩めた。

「では、皆さん」

「私がいない間も、飯を炊いてください」

「市を回してください」

「帳面を合わせてください」

「人を死なせないようにしてください」

「それが八郎領の戦です」

誰かが小さく呟いた。

「四歳児が出陣前に言う言葉ではありませんな」

八郎は胸を張った。

「四歳児です」

「ただ、三百万文を持って出陣する四歳児です」

その言葉に、張り詰めていた広間に笑いが戻った。

だが笑いながらも、誰もが分かっていた。

この評定が終われば、また国が動く。

八郎が外で戦をする間、残る者たちもまた、それぞれの戦を始めるのだと。

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