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1534年3月4週目。大隅への出兵銭の持っていきかた。八郎は300万文、三郎五郎は150万文ずつ。一郎は芋関係で使うだけつかう。

八郎は膳の上の椀を脇へ寄せると、少し真面目な顔になった。

「さて、銭の話をします」

その一言で、座敷の空気が少し変わる。

三郎も五郎も、千代姉様も、一郎も、自然と八郎の方を向いた。

「私は今回、大隅へ三百万文持っていきます」

「三百万文?」

四郎が思わず聞き返す。

「はい」

「ばらまきまくります」

「言い方」

「でも事実です」

八郎は平然として続けた。

「道中で飯を買います」

「米を買います」

「味噌を買います」

「野菜を買います」

「労賃を払います」

「炊き出しをします」

「肝付の兵や農民に、八郎軍は銭を払う、飯を出す、逃げても殺さない、ということを見せます」

「阿蘇の時と同じやな」

一郎が言う。

「はい」

「ただ、今回は島津本家様と分家様の連合軍です」

「見せ方が大事です」

八郎は今度、三郎と五郎を見る。

「それとは別に、島津本家様の三万五千石分の市導入」

「ここには三郎兄様と五郎兄様が百五十万文ずつ持って行ってください」

「百五十万文ずつ!?」

五郎が声を上げた。

「うちの今の集計が九百七十万文あるのは知っています」

八郎は帳面役を見る。

帳面役は静かに頷いた。

「四月一週目の帳面を締めて、私は出発します」

「今ある九百七十万文のうち、私が三百万文」

「三郎兄様、五郎兄様が百五十万文ずつ」

「一郎兄様と四郎兄様には、芋の苗代、職人の費用、最初の炊き出し費用、それから芋焼酎と

 米焼酎を持って行っていただきます」

一郎が真面目な顔で頷く。

「芋を植えるなら、苗代は惜しめん」

「はい」

「それと、大殿様方へ芋焼酎を渡してください」

「話を聞いてもらうためです」

「酒でか」

五郎が笑う。

「酒でです」

八郎は胸を張った。

「島津領は週に二回、宴会というか、ご飯会を定着させてください」

「連日でやる必要はありません」

「三日おき、二日おきくらいでいいです」

「飯を食べて、話をして、顔を覚えてもらう」

「そこで希望者だけ訓練に参加してもらい、高級湯浴みに入ってもらう」

「そして、お殿様方に今の状況を聞く」

「帳面を出して、借金がどう減っているかを話す」

「その流れを作ってください」

千代姉様が静かに言う。

「分家でも同じように、ですね」

「はい、千代姉様にもご協力いただけるとありがたいです」

「いざという時、皆が動けるようになります」

「分かりました」

千代姉様は真剣に頷いた。

座敷は、先ほどまでの縁談の空気から、完全に仕事の空気へ変わっていた。

「だいぶ真面目な話になりましたね」

八郎がふっと笑う。

「ところで」

その声色が少し変わる。

姫君たちが嫌な予感のする顔をした。

「姫様方はどうですか?」

「もう少し、兄様方と仲良くできそうな感じですか?」

三郎の隣にいた姫君が、少し赤くなりながら答える。

「……楽しいです」

「楽しいだけでは駄目です」

八郎は即答した。

「特に四郎兄様です」

「なんで俺や」

四郎が驚く。

「二郎兄様、三郎兄様、五郎兄様は島津本家へ行く可能性が高いです」

「四郎兄様と六郎兄様、七郎兄様はいったんこちらに置いておきます」

「置いておくってなんや」

六郎がむっとする。

「言い方です」

「四郎兄様は仕事をしながら、六郎兄様と七郎兄様の面倒を見てあげてください」

「こちらは少し落ち着いています」

「だから、寺社市、炊き出し、訓練、帳面の見せ方、そういう運用を二人にも

 教えてあげてほしいんです」

四郎は少し考えてから頷いた。

「まあ、それなら分かる」

「六郎兄様、七郎兄様も、いずれ縁談の話は必ず来ます」

「今だって姫様方とお話ししているでしょう」

六郎と七郎が同時に顔を赤くする。

「だから一緒に歩きながら、少しずつ覚えてください」

「四郎兄様は仕事体制」

「六郎兄様、七郎兄様は見学体制で構いません」

「姫様方とも、焦らず仲良くなってください」

八郎はそこで少し真面目な顔になった。

「同じ家で暮らせるかどうか」

「そこまで考えるのは、まだ早いかもしれません」

「でも、話していて楽しいか」

「一緒に飯を食べて嫌じゃないか」

「そこは大事です」

「なんで四歳児のお前が言うねん」

五郎が呆れたように突っ込む。

「私はでも、母上の布団には入っています」

「それは意味が違う!」

一郎が即座に突っ込み、座敷中が爆笑した。

千代姉様も扇で口元を隠しながら笑っている。

姫君たちも顔を赤くしながら、つられて笑った。

「とにかく」

八郎は笑いが収まるのを待って、改めて言った。

「大隅へ行く者」

「島津本家へ行く者」

「分家に残って整える者」

「皆、それぞれ役割があります」

「銭も動きます」

「市も動きます」

「縁も動きます」

「だからこそ、飯を一緒に食べる時間を大事にしてください」

三郎が小さく笑う。

「結局、そこに戻るんやな」

「はい」

八郎はにこりと笑った。

「飯を一緒に食べられる相手とは、だいたい何とかできます」

母がいたなら、また呆れただろう。

だが、その場にいた者たちは、なぜか納得してしまった。

三百万文の軍資金。

百五十万文ずつの市導入費。

芋の苗。

焼酎。

炊き出し。

訓練。

そして縁談。

全部が八郎の中では一つにつながっている。

千代姉様は、そんな八郎を見て静かに呟いた。

「本当に、忙しい四歳児ですね」

「はい」

八郎は胸を張った。

「少しだけ忙しい四歳児です」

その言葉に、また座敷は笑いに包まれた。

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