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1534年3月4週目。一郎兄様と千代姉さまの館でのご飯会。島津本家に八郎の毒もとい八郎家の毒を食わす話www

八郎は膳の芋を食べ終えると、今度は四郎の方を見た。

「四郎兄様」

「なんや」

「四郎兄様は、今こちらの姫様とお話ししてくださっていますし、本家の方では

 まだそこまで目立っておりません」

「言い方」

「事実です」

四郎が苦笑すると、姫君たちも小さく笑った。

「ですので、四郎兄様にはまず、分家の寺社市の状況と、城の広場での訓練、

 炊き出しの運用を見ていただきたいんです」

「それは分かる」

「ただ、少し見終わったら、やっぱり島津本家の方にも来てほしいです」

「なんでそんなに本家へ行かせたがるんや」

四郎が首をかしげる。

八郎は待っていましたとばかりに頷いた。

「島津本家様は、三万五千石分に市を入れる予定です」

「最初は三万五千石分です」

「でも、市が動いて、農民の借金が鬼のように減っていくでしょう?」

「そうなると、絶対に他も入れてくれ、となります」

五郎が頷く。

「それはなるな」

「なります」

八郎は断言した。

「この前、分家の領地を本家様が通ったでしょう」

「その日のうちに文が来ました」

「市を入れてくれ、と」

「湯浴みの話も出ています」

「つまり、もう空気は出ているんです」

八郎は指を折る。

「本家では、市三十で終わりません」

「おそらく百二十ほどは開くことになります」

「寺社市も似たような数になります」

「さらに、その先の大隅でも同じことが起こります」

「だから、島津本家でやることには意味があるんです」

三郎が苦笑した。

「どんどん仕事が増えるな」

「はい」

「三郎兄様、五郎兄様は先に行っていただきたい」

「二郎兄様は少し後かもしれません」

「二郎兄様は芋の技術指導です」

「三郎兄様は市の飯」

「五郎兄様は市と寺社市」

「四郎兄様は分家の運用を見てから、本家へ」

「俺ら、縁談で来てるのか仕事で来てるのか分からんぞ」

五郎が笑う。

「両方です」

八郎は真顔で答えた。

「五郎兄様は、一度本家の姫様と市でお食事にも行っておられますからね」

その言葉に五郎が少し赤くなる。

「それは言わんでええ」

「大事です」

八郎は今度は分家の姫君たちへ向いた。

「ただし、四郎兄様はこちらで少し過ごして、あちらの姫様と仲良くしながら様子を見てください」

「父上母上にも気に入られれば、とっとと縁が決まるかもしれません」

「決まらなくても構いません」

「島津本家で誰か一人決まれば、私はかなり助かります」

「二郎兄様はもう、かなり近いところにいますから」

二郎がいない場なのに、座敷がどっと笑った。

八郎は続ける。

「もちろん、好き嫌いはあります」

「姫様方のお気持ちもあります」

「ただ、島津本家も分家も、八郎家と縁を多く作りたい」

「それは間違いありません」

千代姉様が静かに頷く。

「ええ」

「だからこそ、皆様のお気持ちも汲みながら、でも前へ進めたいのです」

八郎はさらに身を乗り出した。

「それで、島津本家で市を開く時、芋を植える時、必ず反発があります」

「武で立ってきた家です」

「下で働いているお侍様の中には、芋だの市だのを軽く見る方もいるでしょう」

「なので、芋焼酎を五十壺持って行ってください」

「米焼酎も五十壺です」

一瞬の沈黙。

そして座敷中が爆笑した。

「酒で説得する気か!」

「はい」

「かなり効きます」

八郎は胸を張った。

「芋はこんなにすごいんです、と力説してください」

「三郎兄様は、市の飯がどれだけ大事かを話してください」

「五郎兄様は、寺社市と付け払いのすごさを話してください」

「米や野菜を、八郎商会がきちんと価値あるものとして仕入れる」

「その代金で帳面を消す」

「それがどれだけ農民を助けるか」

「そこを語ってください」

五郎は少し真面目な顔になった。

「それは、確かに話せる」

「混ぜ飯を売っていた頃から見てますからね」

「五郎兄様は、そこが強いんです」

八郎は頷いた。

「それでも分かっていただけないなら、焼き芋と芋焼酎です」

「絶対、話を聞いてくれます」

「香りは強い」

「でも水で割るとまろやかになる」

「もう評判になり始めています」

「相手の胃袋をつかんでください」

三郎が呆れたように笑った。

「なんで味方になる相手の胃袋までつかむんや」

「つかめば、市をやる意味が分かります」

八郎は即答する。

「湯浴みを大量に作る意味も分かります」

「生活が良くなる」

「飯が美味くなる」

「酒が飲める」

「借金が消える」

「そうなったら、もう抜け出せません」

一郎がぽつりと言った。

「八郎の毒やな」

「聞こえが悪いです」

「では何や」

「八郎家の毒です」

八郎はにこりと笑った。

「私は派手に立ち回っています」

「でも、心臓部は兄様方です」

「兄様方が、粛々と市を動かし、飯を作り、畑を見て、帳面を消している」

「それが効いているんです」

「三郎兄様は分かりやすいです」

「飯ですから」

「二郎兄様と五郎兄様は、役割が少し見えにくい」

「でも、知っている人が見れば、その重要さが分かります」

「六郎兄様、七郎兄様は……」

八郎は少し考えた。

「頑張ってください」

「なんで俺らだけ雑やねん!」

六郎と七郎が同時に声を上げ、座敷がまた笑いに包まれた。

八郎は慌てて両手を振る。

「いやいや、これからです」

「ただ、五郎兄様までは混ぜ飯を売るところからずっと見ています」

「そこはやっぱり違います」

「兄様方それぞれに役割があります」

「だから、八郎家の毒は私一人ではありません」

「皆で作っている毒です」

千代姉様が笑いながら言った。

「それ、褒めているのかしら」

「もちろんです」

八郎は真顔で答える。

「抜け出せないくらい、幸せにするという意味ですから」

その言葉に、姫君たちは少し照れたように笑い、兄たちは困った顔をしながらも、

どこか誇らしげに膳へ目を落とした。

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