1534年3月4週目。島津本家の手紙が姫君に届く。意図を把握し八郎のもとに挨拶をする。とりあえず八郎家でご飯食べましょう。
島津本家の姫君たちのもとにも、父からの文は届いていた。
一番上の姫君が封を切り、静かに目を通す。
周りの姫君たちは、息を詰めるようにその様子を見ていた。
読み終えた長姉は、しばらく黙ったあと、小さく息を吐いた。
「……要するに」
「縁組へ動け、ということですね」
妹たちが顔を見合わせる。
「やはり、そう書いてあるのですか」
「ええ」
長姉は文を畳み、膝の上に置いた。
「八郎殿は素晴らしい方である」
「ただし、八郎殿ばかりを見るな」
「兄上方もきちんと見よ」
「縁を結べると思うなら、自分から動け」
「それは己のためでもあり、ひいては島津本家のためでもある」
「そういう内容です」
一人の姫君が頬を赤らめる。
「……父上らしいです」
「ええ」
「でも、今回はただの縁談ではありません」
長姉の表情が少し引き締まった。
「本家は八郎殿に、市の導入をお願いしています」
「芋の作付けも」
「その代わりに、援軍を出すとも書いているのでしょう」
「つまり、縁組だけでは空手形になる」
「だから武も出す」
「本家として、本気で八郎殿と結ぶつもりなのです」
茶会の時のような、恥ずかしさだけでは済まない。
これは家の話だった。
だが同時に、自分たちの人生の話でもある。
「では、どういたしましょう」
妹の一人が不安そうに尋ねた。
長姉は少し考えたあと、静かに答えた。
「まずは、八郎殿へご挨拶に参りましょう」
「八郎殿へ?」
「ええ」
「私たちは、縁を結べるものなら結びたい」
「ただし、八郎殿のお考えも分かっています」
「顔も知らぬ相手と、いきなり夫婦にするつもりはない」
「だからこそ、先日の茶会を開いてくださったのでしょう」
「では、こちらも動くべきです」
長姉はゆっくり視線を巡らせた。
「先だって、三郎様とお話しした方」
「五郎様とお話しした方」
「それから、二郎様と細かくお話しした方」
名前を出された姫君たちが、そろって顔を赤くした。
「私たち、ですか」
「そうです」
「まずは礼を申し上げ、そのうえで、もう一度お話をする機会をいただきましょう」
そうして姫君たちは、八郎の館へ向かうことになった。
先触れを受けた八郎は、話を聞くなり「ああ」と頷いた。
「だから、こうなると思ったから早めに動いてくださいと言うたんです」
姫君たちは思わず顔を見合わせる。
八郎はにこにこと続けた。
「でも、今いらしている姫様方は、兄様方をちゃんと見てくださっています」
「ですから、この路線で進めましょう」
「縁談を進められる姫様方として、改めてお話ししていく形です」
そして八郎は、二郎と話した姫君を見た。
「私個人としては、二郎兄様を選んでくださった姫様は、見る目があると思っています」
「えっ」
姫君の顔が一気に赤くなる。
「二郎兄様は素朴です」
「派手ではありません」
「でも、乱暴をするような人ではありません」
「真面目で、畑も芋もよく見ています」
「安心できる方です」
「……はい」
姫君は小さく頷いた。
八郎は真面目な顔で続ける。
「ただし、最後はお布団に入れるかどうか問題です」
その瞬間、姫君たちが一斉に赤くなった。
「八郎様!」
「そこを避けては駄目です」
八郎は平然としている。
「夫婦になるなら大事です」
「家同士だけで決めて、あとで嫌でしたでは、誰も幸せになりません」
「だからちゃんと考えてください」
長姉は扇で口元を隠しながら、苦笑した。
「本当に、四歳の方とは思えません」
「四歳です」
「都合のいい時だけ四歳です」
五郎に関心を持つ姫君が、思わず吹き出した。
八郎は次に、地図を広げるような仕草をした。
「それで、二郎兄様については、もう一つ考えがあります」
「島津本家の領地で芋を植えることになるでしょう」
「その時、八郎領から技術指導を出します」
「二郎兄様には、そのまとめ役をしてもらいたい」
「姫様には、島津側の人集めや采配をお願いしたいのです」
「私が、ですか」
「はい」
「一緒に畑を見て、村を回って、芋を植える」
「そうしていく中で仲良くなれたら、一番きれいです」
姫君は恥ずかしそうにしながらも、少し嬉しそうに言った。
「芋を育てるのは……楽しそうです」
「でしょう」
八郎は満足そうに頷いた。
「三郎兄様、五郎兄様については、複数の姫様が手を挙げてくださっています」
「ですから、そこは三者面談でも四者面談でも構いません」
「誰が誰と話したいのか、ちゃんと話しましょう」
「奪い合いみたいになると、あとで揉めますから」
三郎に関心を持つ姫君が、顔を真っ赤にして俯いた。
五郎に関心を持つ姫君は、少し困ったように笑う。
「でも今日は、せっかく来ていただいたのです」
八郎はぱん、と手を叩いた。
「皆でご飯を食べましょう」
「ご飯、ですか」
「はい」
「茶会より、食卓の方が人柄が分かります」
「父上と母上にも会ってください」
「家同士の縁ですから、うちの父母との相性も大事です」
「ちゃちゃを入れられながら、楽しく過ごせるかどうか」
「そこも見ていただきたい」
長姉は少し驚き、それから柔らかく笑った。
「なるほど」
「家を見る、ということですね」
「そうです」
「それに、千代姉様にも来てもらいましょう」
「先々、お姉様になるかもしれませんから」
その一言に、姫君たちはまた顔を赤くした。
すぐに八郎は母へ使いを出した。
「今日は人数が多くなります」
「姫君様方が来られました」
「広いところに卓を出して、皆で囲めるようにしてください」
「必要なら料理人も何人か呼びます」
ことづてを受けた母は、驚きながらもすぐに笑った。
「また八郎が何か始めたね」
台所が一気に騒がしくなる。
三郎は呼ばれ、五郎は座敷を片付け、二郎はなぜか芋の話をする準備を始めた。
その様子を見て、八郎は満足そうに頷く。
「縁談は、茶だけでは進みません」
「飯を一緒に食べて、笑えるかどうかです」
そう言って八郎は、姫君たちを食卓へ案内した。




