1534年3月3週目。結局縁はどうじゃと大殿は聞く。三郎兄様、五郎兄様が人気。二郎兄様の素朴さを受け入れてくれる姫君なら芋の栽培を通じて仕事として一緒の時間を作ることは可能。
大殿は酒を一口あおると、満足そうに八郎を見つめた。
「で、どうじゃ。」
「縁は作れそうか?」
その問いに、八郎は小さく首をかしげる。
「まだ分からないですね。」
「ただ、一つだけ言えることがあります。」
「三郎兄様と五郎兄様は、どちらの家でも人気です。」
「ほう。」
姫君たちも照れたように笑う。
「三郎兄様は料理ですね。」
「五郎兄様は話しやすさでしょうか。」
「このお二人は、どちらのお姫様方からも名前が挙がります。」
「じゃあ安心じゃな。」
「いえ。」
八郎は首を横に振った。
「安心してたら駄目です。」
「そこが一番競争になります。」
「競争?」
「はい。」
「島津分家でも人気。」
「島津本家でも人気。」
「そのうち、大友あたりまで入ってきたら、もっとややこしくなります。」
「だから、早め早めに交流を重ねてもらわないと。」
「なるほどな。」
大殿が腕を組む。
「次郎兄様はどうなんじゃ?」
「次郎兄様とお話しされていた姫様がいらっしゃいました。」
「もし素朴な方を受け入れていただけるのであれば、すごく合うと思います。」
「次郎兄様は派手ではありません。」
「でも真面目です。」
「芋の栽培も詳しいですし。」
「今度、島津で芋を植えるでしょう?」
「そうじゃな。」
「その時の技術指導役を兄様にお願いして。」
「姫様には、そのまとめ役をお願いする。」
「つまり。」
「半分仕事です。」
「一緒に畑を見て。」
「一緒に村を回って。」
「一緒に収穫を喜ぶ。」
「そういう時間があれば、自然と仲良くなれるんじゃないかなと思っております。」
姫君の一人が感心したように頷く。
「確かに……。」
「仕事を一緒にするのはいいですね。」
「でしょう?」
「恋愛だけを考えるから難しいんです。」
「一緒に何かを作る方が、私は自然やと思います。」
「三郎兄様も同じです。」
「料理教室をしてくださいとは言いません。」
「でも。」
「親子丼という料理を考えました。」
「親鳥は固くて捨てられることも多いので。」
「味噌と醤油でじっくり煮込み。」
「最後に卵でとじる。」
「親鳥と卵だから親子丼。」
「それを丼に乗せる。」
「なんじゃそれ!」
「そんな料理まで考えとるんか!」
大殿が目を丸くする。
「考えますよ。」
八郎は胸を張った。
「形にしてくださるのは兄様です。」
「だから、お姫様方も一緒に覚えてくだされば。」
「島津へ帰ってからでも作れます。」
「そして。」
「一緒に料理している間に仲良くなれるでしょう?」
「……。」
「お前。」
「よう考えとるなぁ。」
家臣たちも感心したように頷いた。
すると、大殿がにやりと笑う。
「で。」
「八郎殿は誰かと結婚せんのか?」
その瞬間、姫君たちの視線が一斉に八郎へ向く。
八郎は困ったように笑った。
「私はまだ駄目です。」
「なんでじゃ。」
「お姉様方に膝枕されたら。」
「そのままゴロゴロしてしまいます。」
「まだ浮気者なんです。」
一瞬静まり返り。
「ぶはっ!」
「がっはっはっ!」
広間が爆笑に包まれた。
「四歳児やからな!」
「そうです。」
「四歳児ですから。」
「まだお姉様方に甘えたい年頃なんです。」
姫君たちも腹を抱えて笑っている。
「なかなかのやり手やな。」
「褒め言葉として受け取っておきます。」
八郎は得意げにうなずいた。
そして少しだけ真面目な顔になる。
「でもですね。」
「きっかけは私が作れます。」
「ただ。」
「最後は兄様方と姫様方なんです。」
「そこは私にはどうにもできません。」
「なるほど。」
「それと。」
「今、一番気になっているのは大友です。」
大殿の表情も引き締まる。
「もう領地が接しております。」
「交易も始まりました。」
「だから。」
「もし向こうから縁談のお話が来たら。」
「正直。」
「断りにくいんです。」
「そうか……。」
「島津本家。」
「島津分家。」
「これだけ館を行き来して仲良くさせてもらっております。」
「本当にありがたいです。」
「ですが。」
「もっと大きな勢力から。」
『ぜひ縁を。』
「そう言われた時。」
「私は外交も考えないといけません。」
「だからこそ。」
「今のうちに皆さんには動いていただきたいんです。」
「分家の千代姉様と一郎兄様は。」
「見ていたら、お互い分かりやすかったんですよ。」
「布団を並べても大丈夫そうやな。」
「そう思えたから。」
「私は背中を押せました。」
「でも。」
「他の兄様方は。」
「まだそこまで分からない。」
「だから私は。」
「無理やり決めたくないんです。」
大殿も静かに頷いた。
「……それが一番じゃな。」
その時だった。
別室の襖がゆっくり開く。
三郎が少し照れくさそうに戻ってくる。
少し遅れて五郎。
さらに二郎。
それぞれの後ろから姫君たちも頬を赤くしながら戻ってくる。
「お帰りなさい。」
八郎はにっこり笑う。
「皆まで聞きません。」
「今日は。」
「おしゃべりできただけで百点です。」
兄たちは照れくさそうに頭をかき、姫君たちは顔を見合わせて微笑む。
その穏やかな空気を見渡した八郎は、小さく満足そうに頷いた。
(よし。)
(縁は急いで結ぶものじゃない。)
(でも、きっかけだけは、今日ちゃんと作れた。)
そう胸の中で呟きながら、八郎はもう一つ団子を口へ放り込み、
「さて、次は誰にお茶を注ぎましょうか」と笑顔で立ち上がるのであった。




