1534年3月3週目。島津本家とのお茶会兼ご縁会。相変わらず三郎兄様と五郎兄様が人気www
先行きに少しだけ不安を残しながらも、お茶会は始まった。
島津本家の庭に面した広間。
色鮮やかな着物をまとった姫君たちと、少し緊張した面持ちの八郎の兄たちが向かい合って座っている。
その中央へ、ちょこん、と四歳児が歩み出た。
「僭越ながら。」
「本日の進行は、末の弟・八郎が務めさせていただきます。」
ぺこりと頭を下げる。
その直後、奥の間から――
「おぉ、この芋焼酎、なかなか効くのぉ!」
「まだ一杯だけですぞ!」
そんな声が聞こえてきた。
八郎はため息をついた。
「……お父様方は少々お酒が入り始めて危険ですので、できるだけ近寄らないよう
祈っておきましょう。」
その一言で広間はどっと笑いに包まれた。
「さて。」
「先だって、島津分家のお千代姉様と一郎兄様のお屋敷で、同じような
お茶会を開かせていただきました。」
「団子を食べて、お茶を飲んで、おしゃべりするだけの会でございます。」
「その時に、私から一つだけお願いをいたしました。」
八郎は姫君たちと兄たちを順番に見回す。
「どなたか気になる方はいませんか、と。」
「もちろん、いきなり結婚なんて話ではありません。」
「一緒に市へ行ってみたい。」
「少しお話ししたい。」
「そんな程度で十分です。」
「でも、どちらかが一歩踏み出さないと、何も始まりません。」
姫君たちが静かに頷く。
「恥ずかしいのは分かります。」
「兄様方も恥ずかしいでしょう。」
「姫様方も恥ずかしいでしょう。」
「でも、その恥ずかしさは、一回だけ乗り越えてください。」
「そうしたら、次からは少しだけ楽になります。」
四歳児とは思えない落ち着いた口調だった。
二郎が苦笑する。
「お前、本当に四歳か?」
「たまに自分でも分からなくなります。」
また笑いが起きる。
八郎は続けた。
「ちなみに、前回のお茶会で人気だった兄様は……。」
「やっぱり三郎兄様です。」
三郎が目を丸くする。
「え?」
「料理ですね。」
「親子丼を作っていた姿が格好良かったそうです。」
姫君たちが顔を見合わせながら、小さく笑う。
「それから五郎兄様。」
五郎は嫌な予感がした。
「この前、島津本家のお姫様と市を歩かせていただきましたので。」
「その影響もありまして、名前がよく挙がっております。」
五郎は頭を抱えた。
「八郎……それ、あんまり言わんでええ……。」
「でも事実です。」
「向こうでも人気でした。」
「だからもう戦いは始まっております。」
「戦い?」
姫君の一人が首を傾げる。
八郎は真顔で答えた。
「恋の戦いです。」
その場が一瞬静まり返り、次の瞬間、大笑いになった。
「もっと言うと。」
「今の八郎領は、大友家とも少し交流が始まりかけています。」
「ですので、このままいけば、大友のお姫様方まで加わる可能性があります。」
兄たちが一斉に固まる。
「え?」
「それは聞いてない。」
「だから申し上げているんです。」
八郎は静かに言った。
「私は外交だけのために結婚するのは、あまり好きではありません。」
「姫様方も、顔も知らない相手と急に結婚と言われても困るでしょう。」
姫君たちも深く頷く。
「だからこそ。」
「まずは知り合う。」
「仲良くなる。」
「それから先を考える。」
「私は、その順番が一番素敵だと思っています。」
広間の空気が少し柔らかくなった。
「さて。」
八郎は両手を叩く。
「まずは三郎兄様。」
「姫君、兄様とお話ししたい方はいらっしゃいますか?」
すると。
「はい。」
一人。
「……私も。」
もう一人。
二人の姫君が同時に手を挙げた。
「おぉ!」
「早速ですね!」
八郎は満面の笑みになる。
「三郎兄様。」
「向こうのお部屋へどうぞ。」
「え、今?」
「今です。」
「行ってらっしゃいませ。」
「逃げたら駄目です。」
周囲から拍手が起こる。
三郎は真っ赤になりながら立ち上がった。
「……分かった。」
二人の姫君と一緒に別室へ向かう。
その姿を見届けると、別の姫が遠慮がちに手を挙げた。
「私は……五郎様とお話ししたいです。」
すると。
「あっ。」
「私も。」
さらにもう一人。
「え?」
五郎が固まる。
すると、以前一緒に市を歩いた姫が少しだけ慌てたように言った。
「その……五郎様とは、この前も少しお話ししましたので……。」
「今日はまた少し……。」
八郎は苦笑した。
「それはもう、向こうで相談してください。」
「私は仲裁しません。」
五郎は頭を掻いた。
「八郎、お前、絶対楽しんでるやろ。」
「はい。」
「楽しんでます。」
即答だった。
広間はまた笑いに包まれる。
その一方で、二郎と四郎はぽつんと座ったまま。
八郎がちらりと見る。
「二郎兄様。」
「四郎兄様。」
「頑張ってください。」
「……なんで俺らだけそんな雑なんや。」
「応援してます。」
「応援だけかい!」
二郎の突っ込みに、姫君たちまで笑い出した。
重苦しいはずだった縁談の席は、いつの間にか笑顔の絶えないお茶会へと変わっていく。
その様子を遠くから見守る八郎は、小さく満足そうに頷いた。
「よし。」
「今日も、一歩前進ですね。」




