1534年3月3週目。米焼酎と芋焼酎をもって島津本家に挨拶にいく。交流会をするのでくれぐれも邪魔しないでくださいwww
三月三週目。
帳面合わせを終えた翌日。
八郎は朝早くから支度を整えていた。
用意したのは二つの酒。
一つは、肥後の名産となりつつある米焼酎。
もう一つは、今年ようやく完成したばかりの芋焼酎。
その前日には、島津本家へ一通の手紙を送ってあった。
『このたび、新しく芋焼酎が完成いたしましたので、ご挨拶を兼ねてお持ちいたします。』
『また、先日お願いしておりました姫君方と兄たちとの交流の機会をいただきたく存じます。』
『なお、芋焼酎は大変強い酒でございますので、お披露目として一杯だけお召し上がりいただき、
残りは後日ゆっくりお楽しみください。』
『もし差し支えなければ、姫君方と兄たちがお話しできる部屋をいくつかお借りできますと幸いです。』
そんな丁寧な文だった。
そして今日。
八郎は二郎から七郎までの兄たちを連れ、島津本家の屋敷へ向かう。
一郎は留守を預かるため、今回は屋敷に残っていた。
屋敷へ着くと、大広間には島津本家の当主たちが待っていた。
「よう来たな、八郎殿。」
「待っておりました。」
忠良が笑顔で迎える。
その隣では貴久も頷いている。
八郎は深々と頭を下げた。
「本日はありがとうございます。」
「兄たちとの交流の場まで用意していただき、本当に感謝しております。」
忠良は豪快に笑う。
「そんな水臭いことを言うな。」
「なんぼでも貸すがな。」
「それより酒じゃ。」
「酒は持ってきたんやろ?」
八郎は苦笑しながら木箱を差し出した。
「こちらが肥後の米焼酎。」
「そしてこちらが、新しくできた芋焼酎です。」
徳利の栓を少し開ける。
甘い芋の香りがふわりと広がった。
「おぉ……。」
「これは初めて嗅ぐ香りや。」
忠良は興味津々だ。
八郎が説明する。
「琉球から入れた芋を育て、その芋で造った焼酎です。」
「今年は試験栽培でしたので、量はほとんどありません。」
「ですので、今年は贈答用が中心になります。」
「来年から本格的に広げる予定です。」
貴久が感心する。
「広げるとは?」
八郎は地図を広げた。
「八郎領四十万石の中でも、米が作りにくい荒れ地や畑があります。」
「そこへ芋を植えます。」
「米は田で。」
「芋は畑で。」
「役割を分ければ、どちらも増やせます。」
「秋には収穫。」
「焼酎になります。」
「それを九州中へ売る。」
忠良は目を丸くした。
「面白い。」
「薩摩でもできるか?」
「もちろんです。」
「もし本家でも荒れた土地がおありでしたら、苗も技術もお渡しできます。」
「植え方から焼酎造りまでお教えします。」
忠良は机を叩いた。
「よし!」
「早速やろう!」
「今年から全部植えよう!」
八郎は慌てて両手を振る。
「違います違います!」
「それは後日です!」
「今日は違います!」
「今日は姫様方とのお約束がありますから!」
広間が笑いに包まれた。
「そうじゃった。」
「今日はそれが本命やったな。」
「阿蘇の戦の話も聞きたいしの。」
八郎は思わず肩を落とす。
「やっぱりそっちですか。」
「祝いじゃなくて。」
「阿蘇ですよね。」
忠良は悪びれもせず頷く。
「もちろんじゃ。」
「一万で阿蘇を落とした話など、聞きたくない者はおらん。」
貴久も笑う。
「じゃが今日は我慢じゃ。」
「先に若い者たちの時間にしよう。」
「酒はこっちでちびちび飲みながら待っとる。」
「一杯だけですよ!」
八郎がすかさず釘を刺す。
「芋焼酎は本当に強いんです。」
「残りは後日飲んでください。」
忠良は笑いながら徳利を抱えた。
「分かった分かった。」
「今日は味見だけじゃ。」
「約束する。」
その様子を見ていた姫君たちが、小さく笑う。
一人がそっと八郎へ近づいた。
「八郎様。」
「はい?」
「……少し心配なんです。」
「何がです?」
姫は苦笑いした。
「うちの家系、お酒が入ると大体騒ぎになります。」
「飲み過ぎて失敗する人、多いんですよ。」
別の姫も頷く。
「父上たちも、最初は『一杯だけ』と言うんですけど……。」
「気付いたら徳利が空になってたり。」
八郎は天井を見上げた。
「……。」
「なんか嫌な予感しかしません。」
兄たちも顔を見合わせる。
「確かに。」
「止められるんか?」
八郎は小さくため息をついた。
「今日は。」
「姫様方との交流が主役です。」
「どうか。」
「お酒は脇役でありますように。」
しかし。
奥の広間からはすでに。
「もう一杯だけ!」
という忠良の大きな笑い声が聞こえてきた。
八郎は額に手を当てた。
「……やっぱり不安です。」
その言葉に兄たちも姫君たちも吹き出し、少し不穏な空気を含みながらも、
春の交流会は賑やかに始まっていくのだった。




