表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
338/655

1534年3月2週目。相良家の降伏が北肥後の国人衆達の心を揺らす。周辺に大名を抱えた緩衝地帯としての苦悩。

相良降伏。

その知らせは、想像以上の速さで肥後中へ広がった。

「相良が降ったらしい」

「まことか」

「戦ではないらしいぞ」

「自分から八郎殿へ頭を下げたそうだ」

各地の国人衆は、その知らせに驚いた。

阿蘇が落ちた時とは違う。

阿蘇は戦だった。

一万の兵で囲まれ、最後は降った。

しかし相良は違う。

まだ兵はいた。

城もあった。

それでも降った。

その意味は大きかった。

北肥後。

国人衆たちが集まり、評定を開いていた。

「これで南肥後はほぼ八郎領か」

「そう見るべきだろう」

地図を見る。

南。

東。

中央。

八郎の影響が広がっている。

「最初は薩摩の小さな国人だったはずだぞ」

一人が苦笑した。

「それが今や肥後の大半を握っている」

「しかも四歳児だ」

「四歳児と言って笑える状況ではない」

その言葉に全員が黙った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

問題は単純ではなかった。

「では我らも降るか?」

誰かが言う。

しかし。

すぐ答えは出ない。

「簡単に言うな」

「ここは北肥後だ」

「南とは違う」

その通りだった。

北には別の勢力がある。

龍造寺。

少弐。

さらに先には大内、大友。

力のぶつかる場所。

「八郎殿に降れば」

「龍造寺から見ればどう映る?」

「八郎勢力が目の前まで来ることになる」

「つまり我らの土地が戦場になる可能性がある」

一方で。

八郎が簡単に攻めてこない理由も分かっていた。

「だからこそ」

「八郎殿も我らには強く出てこない」

「緩衝地帯だからな」

誰かが頷く。

「阿蘇や相良とは違う」

「あちらは後ろを固める意味があった」

「しかし我々を取れば」

「その瞬間」

「龍造寺や大友と直接向き合う」

「八郎殿もそれは避けたいはず」

だから。

今すぐ滅ぼされる危険は低い。

だが。

別の家臣が口を開く。

「しかし……」

「領民はどう見る?」

その一言で空気が変わった。

「何が言いたい」

「分かっているでしょう」

「八郎領です」

「市」

「湯浴み」

「仕事」

「借財整理」


「商人との利息交渉」

「農民は全部知っています」

実際。

噂は流れていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

八郎領では冬でも仕事がある。

湯あみ作りで銭が入る。

商人が物を買う。

市では飯が食える。

借金も減る。

一方。

他領では。

春の準備金すら苦しい。

「民が比べ始めています」

「……」

「これが一番怖い」

戦なら防げる。

兵なら集められる。

しかし。

民の心は止められない。

「八郎殿は恐ろしいな」

一人が呟く。

「刀を抜く前に勝つ」

「阿蘇でもそうだった」

「飯を炊いて」

「兵の心を折った」

「我ら相手にも同じだ」

「攻めてこない」

「ただ豊かになる」

「そしてこちらが勝手に苦しくなる」

誰も笑えなかった。

「では龍造寺につくか?」

その案も出た。

しかし。

「龍造寺は守ってくれるか?」

「……」

「戦には強い」

「だが」

「借金を消してくれるか?」

答えはない。

「八郎領なら」

「少なくとも民は豊かになる」

「それは間違いない」

だが決断できない。

武士には面子がある。

先祖から受け継いだ土地がある。

簡単に頭は下げられない。

「分かっている」

一人の国人が言った。

「遅かれ早かれ」

「どちらかを選ぶことになる」

「八郎か」

「龍造寺か」

「あるいは大友か」

「中立のままではいられん」

全員が理解していた。

それでも。

今日、答えは出なかった。

「もう少し様子を見る」

「相良がどう扱われるかを見る」

「阿蘇の復興を見る」

「それからでも遅くない」

そう結論づけた。

しかし誰もが分かっていた。

これは先送りだと。

その頃。

八郎本人は。

北肥後の国人衆が悩んでいることなど知りながら。

無理に動かなかった。

「攻めませんよ」

「来たい人が来ればいいです」

「その前に阿蘇と相良を良くしないと」

「仕事山ほどありますから」

そう言いながら帳面を見る。

肥後の国人衆はまだ知らない。

戦で迫られるより。

豊かさで迫られる方が。

ずっと逃げ場がないということを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ