表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
336/649

1534年3月2週目。帳面合わせの日。島津分家からの寄付を頂く。ツケの返済と大友大内へ50万文づつ送付して交易を提案する。

三月二週目。

恒例となった帳面合わせの日。

広間には八郎商会の者、家臣、商人、各地の担当者が集まっていた。

山のような帳面。

普通なら一日では終わらない量。

しかし、最近では皆慣れてきていた。

八郎は座るなり言う。

「では」

「細かい数字は見といてください」

家臣たちが苦笑する。

「またですか」

「はい」

「細かいところを見る人」

「全体を見る人」

「役割分担です」

「私は全体を見る係です」

「四歳児が言うことじゃないんですが」

そんな軽口から始まった。

帳面役が報告する。

「まず島津分家の庄屋衆より」

「先日の借財整理のお礼として」

「九十万文相当の寄進をいただいております」

八郎は頷いた。

「ありがたいですね」

「ちゃんと礼状を出しておいてください」

「はい」

「では」

「それを含めまして」

帳面をめくる。

「湯浴み関連のツケ」

「百十二万文」

「消しておきましょう」

「……」

一瞬、場が止まった。

「八郎様」

「はい?」

「また結構な額を軽く消しますね」

八郎は不思議そうな顔をする。

「いやいや」

「まだまだ残ってますよ?」

周りはため息をつく。

「普通は百十二万文を消すだけで大騒ぎです」

「そうですか?」

「そうです」

八郎は帳面を見る。

「でも順番です」

「市を作る」

「仕事を作る」

「銭を回す」

「借金を減らす」

「暮らしを良くする」

「やることは変わりません」

家臣が笑う。

「では他に大きな変化は?」

八郎は考える。

「うーん」

「特段ないですね」

「ないんですか?」

「はい」

「変わりなしです」

「……」

「いやいや」

「変わりないというより」

「粛々と進んでいるだけです」

そこで。

八郎が手を打った。

「あ」

「ああ」

「そうそう」

嫌な予感。

周囲が身構える。

「何です?」

「大内と大友に」

「五十万文ずつ送りました」

静寂。

「……」

「八郎様」

「はい」

「それ」

「かなり大きな話ですよ」

「そうですか?」

「そうです」

八郎は首を傾げる。

「なんか色々やってたら忘れてました」

「忘れないでください!」

家臣たちが一斉に突っ込む。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「いや」

「ちゃんと考えてますよ」

八郎は説明する。

「大内は今、こちらをすぐ敵とは見ないでしょう」

「向こうには向こうの事情があります」

「大勢力ですから」

「五十万文は挨拶です」

「交易しましょう」

「敵意はありません」

「という意味です」

一同は頷く。

「では大友は?」

「そちらが大事です」

八郎の顔が少し真面目になる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「大友は」

「五千の兵を動かしました」

「阿蘇救援で」

「でも」

「私は知らないふりをしています」

「……」

「知らないふり?」

「はい」

「あなたが兵を出しましたね」

「なんて言っても意味ないです」

「だから」

『初めまして』

『交易しませんか』

「という形で送ったんです」

家臣が唸る。

「八郎様は外交が上手いですね」

すると。

八郎は笑顔になる。

「もっと褒めてくれていいんですよ」

「そこで台無しです」

「でも」

八郎は続ける。

「大友は考えるでしょう」

「戦うか」

「繋がるか」

「不可侵か」

「婚姻か」

その言葉に周囲が反応する。

「婚姻ですか」

「ありえます」

「大名同士ですから」

「ただ」

「向こうから攻めてこない限り」

「こちらから仕掛ける気はありません」

「今は領地を整える時です」

帳面役が聞く。

「では今後は?」

八郎は地図を見る。

「四月から農作業が始まります」

「だから」

「この一ヶ月」

「戦にならなければ大きいです」

「田畑」

「市」

「湯浴み」

「岩見」

「工房」

「全部進みます」

そして肥後の地図を指す。

「問題は二つ」

「相良」

「残った国人衆」

「相良は」

「阿蘇が落ちたことで孤立しています」

「こちらから攻めなくても」

「考えるでしょう」

「国人衆も同じです」

「八郎領に入れば」

「借財整理」

「仕事」

「市」

「暮らし」

「全部変わる」

「でも」

「古い家の意地もあります」

「だから」

「すぐ来るかは分かりません」

家臣が頷く。

「待つということですか」

「はい」

「無理に取らない」

「勝手に来てもらう」

一人が苦笑した。

「八郎様」

「最近、戦より帳面で国を取ってませんか」

八郎は首を傾げる。

「そうですか?」

「そうです」

「阿蘇ですら」

「飯を炊いて落としましたし」

八郎は少し考え。

笑った。

「まあ」

「人は腹が減ると困りますから」

「飯と仕事があるところに来る」

「それだけですよ」

周りは顔を見合わせる。

簡単に言う。

だが。

その「それだけ」で。

肥後の勢力図は大きく変わり始めていた。

三月二週目。

八郎領は戦の後とは思えないほど静かに。

しかし確実に。

次の段階へ進んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
「湯浴み」の次にある「岩見」って何?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ