1534年3月1週目。一郎兄さんと千代姫のお茶会。男女とも緊張している中八郎だけ普段と同じwww
数日後。
一郎と千代の屋形。
いつもより少し華やかな空気が流れていた。
大きな宴ではない。
酒を大量に出すわけでもない。
ただ茶を飲み、団子を食べ、話をする。
それだけの会。
しかし参加する者たちは違った。
島津分家の姫君たちは、いつもより丁寧に髪を整え、美しい小袖を選んでいた。
八郎の兄たちも同じだった。
普段は市や店、工房を駆け回っている者たちも、今日は少し背筋が伸びている。
そんな中。
一人だけ変わらない者がいた。
「団子増えてます?」
八郎である。
千代が苦笑する。
「八郎様」
「今日は団子を見る日ではありませんよ」
「分かってますよ」
「縁を見る日です」
そう言いながら団子を取る。
「……本当に分かっていますか?」
姫たちも兄たちも、どこか緊張している。
それを見た八郎が笑った。
「あんまり硬くならないでくださいね」
「と言っても」
「硬くなりますよね」
自分で言って頷く。
「なので」
「まず一郎兄様」
「お願いします」
一郎が眉を上げる。
「俺か?」
「はい」
「一応この場の主ですから」
「最初ぐらい格好良くしてください」
「最初ぐらいとはなんや」
周囲から笑いが起こる。
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一郎は立ち上がった。
そして静かに話し始める。
「今日は来ていただき、ありがとうございます」
「今、八郎家は大きく変わっています」
「肥後」
「阿蘇」
「多くの土地」
「多くの人」
「正直、我々兄弟も驚くほどです」
兄弟たちは頷く。
「その中で」
「島津本家の姫君方」
「そして分家の姫君方」
「交流を深めていただいています」
「私が千代と夫婦になったこともあり」
一郎は千代を見る。
千代も微笑む。
「八郎なりに気を使って」
「こういう機会を作った方がいい、と言ってくれました」
そこで。
「そうです」
八郎が頷く。
一郎が睨む。
「まだ話してる」
「はい」
「黙ります」
笑いが起こる。
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一郎は続けた。
「実際のところ」
「八郎商会のおかげで」
「島津分家でも大きな変化が起きています」
「千代の父上も」
「もっと縁を深めたいと思ってくださっています」
「ですが」
少し頭を下げる。
「我々兄弟が不甲斐なく」
「なかなかこういう機会を作れませんでした」
すると横から。
「そこです」
八郎が言う。
「一郎兄様」
「そういう素直なところ」
「私は好きですよ」
「茶々入れるな」
また笑い。
一郎も苦笑しながら続ける。
「だから今日は」
「難しい話ではありません」
「茶を飲み」
「話をして」
「少しでも知っていただければと思います」
「もし良い縁になれば」
「仲良くしていただければありがたいです」
そう言って座る。
次に千代が口を開いた。
「私も」
「一郎様と夫婦になりました」
「最初は家同士の縁でした」
「でも今は」
「本当に仲良くさせていただいています」
一郎が少し照れる。
「島津本家様にも事情があります」
「我が分家にも事情があります」
「でも」
「ただ家のためだけではなく」
「人として良い縁になればと思っています」
そして少し笑う。
「父からの文は……」
「かなり熱が入っていましたけれど」
姫たちが笑う。
八郎がそこで手を叩いた。
「はい」
「では硬い話終わりです」
「茶飲みましょう」
「団子食べましょう」
「そして」
「聞きたいことがあります」
嫌な予感がして兄たちを見る。
「八郎」
三郎が言う。
「何聞く気や」
八郎はにっこり笑った。
「姫様方」
「少し交流してみて」
「気になる兄様はいますか?」
静寂。
「おい!」
一郎が声を上げる。
「唐突すぎるやろ!」
「でも大事です」
八郎は真顔。
「誰も言わないから進まないんです」
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姫たちは顔を赤くする。
しかし一人が小さく手を上げた。
「あの……」
「はい!」
八郎の目が輝く。
「三郎様……でしょうか」
三郎が固まる。
「俺?」
「はい」
「この前のご宴会で」
「親子丼を作られている姿を見まして」
「手際が良くて」
「多くの人に声をかけながら」
「すごいなと」
すると。
別の姫も。
「私も……」
「料理をされる姿が」
「ただ作るだけではなく」
「周りを見ておられて」
さらにもう一人。
「職人みたいで素敵でした」
三郎の顔が赤くなる。
「待て待て待て」
「俺は料理してただけやぞ」
八郎が首を振る。
「違います」
「三郎兄様」
「人は仕事してる姿が一番出るんです」
「親子丼を何百杯も回す姿」
「格好良かったんですよ」
「な?」
周りを見る。
姫たちが頷く。
三郎は完全に困る。
「なんで戦帰りの八郎じゃなくて俺なんや……」
「私は四歳ですから」
八郎は胸を張る。
「今回は兄様方の会です」
千代はその様子を見て微笑む。
一郎も小さく笑った。
八郎はふざけているようで。
ちゃんと考えている。
家と家。
人と人。
どちらも壊さないように。
「さて」
八郎が団子を取る。
「では三郎兄様」
「次は料理教室ですね」
「勝手に決めるな!」
笑い声が館に響いた。
小さなお茶会。
しかし後に島津との縁をさらに深める、大切な一日になるのであった。




