1534年3月1週目。大内家にも大友家同様に50万文を渡し交易をしてほしいと申し出る。大内にとっては尼子が目下の目標なので監視はするが敵対視はしない
周防。
大内館。
京文化を思わせる庭。
静かな部屋で、大内義隆は筆を走らせていた。
和歌。
書。
茶。
大内家は武だけではない。
西国一とも言われる文化の中心。
そこへ一人の家臣が入る。
「殿」
「肥後より使者が参っております」
義隆は筆を止める。
「肥後?」
「はい」
「近頃、阿蘇を下したという八郎という者より」
「ああ」
義隆は思い出したように言う。
「噂の童か」
「四つだったか?」
「はい」
「四歳にございます」
周囲の家臣が少し笑う。
「四歳児が大名とは」
「世も変わりましたな」
届けられた文を見る。
そして献上品。
五十万文。
義隆は少し眉を上げた。
「ほう」
「礼は知っておるな」
家臣が言う。
「肥後をまとめつつあるとか」
「阿蘇を破り、国人衆もいくらか降ったようです」
「石高では四十万石近いとも」
そこで少し空気が変わる。
「四十万か」
義隆は呟く。
小勢力ではない。
だが。
大内から見れば、まだ慌てる相手でもなかった。
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「目的は?」
「交易を願いたいとのこと」
「焼酎」
「椎茸」
「芋」
「海産物」
「その他、商いを広げたいと」
義隆は笑った。
「戦ではなく商いか」
「面白い童じゃ」
「どうされます?」
「受ければよい」
あっさりだった。
「よろしいので?」
「構わぬ」
義隆は茶を飲む。
「向こうから頭を下げてきている」
「銭を持ち」
「交易したいと言う」
「それを蹴る理由があるか?」
一人の家臣が言う。
「しかし侮れませぬ」
「阿蘇攻めでは、ほぼ損害なく城を取ったとか」
「飯を炊き」
「敵兵を逃がし」
「戦わず削ったと」
義隆は少し笑う。
「変わった戦をする」
「ですが危険では?」
「危険かもしれぬ」
義隆は認める。
「しかし」
「今、我らが見るべき相手は誰じゃ?」
家臣はすぐ答える。
「尼子でございます」
「そうじゃ」
義隆の目が鋭くなる。
「北じゃ」
「山陰じゃ」
「尼子をどうするか」
「それが大内の問題」
「肥後の童を相手に兵を動かす時ではない」
「それに」
義隆は続ける。
「八郎とやらは島津とも縁があるのであろう?」
「はい」
「兄が島津分家の姫と」
「なら余計じゃ」
「九州南部で勝手にまとまっているなら、それでよい」
「こちらに刃を向けぬならな」
「では婚姻などは?」
義隆は首を振った。
「まだ早い」
「四歳児ぞ」
「こちらから姫を出すほどではない」
「遊学なら受けてもよい」
「交流もよい」
「だがまずは商いで十分」
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家臣はなお言う。
「しかし殿」
「あまり時間を与えれば」
「さらに大きくなるやもしれません」
義隆は少し考える。
「そうじゃな」
「だから目は置く」
「商人」
「僧」
「使者」
「情報は集めよ」
「敵ではない」
「だが知らぬ相手にするな」
「承知しました」
家臣が去った後。
義隆はもう一度文を見る。
四歳。
肥後。
四十万石。
戦ではなく商い。
「奇妙な童よ」
そう呟いて笑う。
だがすぐ筆を取った。
今、大内が見る相手は別にいる。
尼子。
山陰。
中国地方。
肥後の八郎は、まだ遠い存在。
「まあ、面白い芽ではある」
「枯れるか」
「大木になるか」
「見ておこう」
そう言って、大内義隆は再び和歌を書き始めた。
西国最大級の大名にとって。
八郎はまだ脅威ではなく――。
少し変わった、面白い隣人だった。




