1534年2月4週目。千代姉さまに連れられ島津分家の姫達のところへ行く。皆さん最近恋していますか?www
島津分家の屋敷。
千代姫に手を引かれ、八郎は奥の間へ案内された。
もちろん一郎も一緒である。
「失礼します」
千代姫が声をかける。
中には島津分家の姫君たちが集まっていた。
そして八郎の姿を見るなり――。
「八郎様!」
「お帰りなさいませ!」
「阿蘇攻め、お疲れ様でした!」
一斉に声が上がる。
八郎は満足そうに頷いた。
「はいはい」
「もっと褒めてもいいですよ」
姫君たちは笑う。
「さすが八郎様です」
「一万の兵を動かしたと聞きました」
「すごいです」
「そうでしょう」
胸を張る八郎。
その横で一郎は呆れる。
「お前、本当に褒められるの好きやな」
「当然です」
八郎は堂々と言う。
「頑張った子供は褒めるべきです」
「都合のいい時だけ四歳児になるな」
しかし八郎はすぐに表情を変えた。
「でも」
「キャーキャー言っている場合ではありません」
そう言うと、姫君たちの間に遠慮なく座る。
ちょこん。
完全に子供の座り方だった。
「さて」
周囲を見る。
「最近どうですか?」
「はい?」
「恋していますか?」
一瞬、空気が止まった。
一郎が吹き出す。
「お前、入り方!」
「何がですか」
「四歳児が最初に聞くことちゃうやろ」
「大事なことです」
八郎は真顔だった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「この前のご宴会」
「どうでした?」
姫君の一人が答える。
「とても楽しかったです」
「お好み焼きも」
「ふくふく焼きも」
「皆で作るのが楽しくて……」
八郎は頷く。
「なるほど」
「では次もああいう会を――」
姫が言いかけた瞬間。
「違います」
「え?」
「大きな会を待っていたら駄目です」
八郎は言う。
「これからは千代姉様にも頑張ってもらいます」
千代が驚く。
「私ですか?」
「そうです」
「毎回二百人集める必要なんてありません」
「三郎兄様の料理教室でもいい」
「団子を食べる会でもいい」
「市を見るだけでもいい」
「小さな縁を増やすんです」
「ちなみに」
八郎は尋ねる。
「今人気なのは誰ですか?」
姫君たちは少し顔を赤らめる。
「……三郎様でしょうか」
「やっぱり」
八郎は頷く。
「本家のお姫様方もそうでした」
「親子丼を作る姿が良かったらしいです」
一郎が笑う。
「三郎、すごいな」
「ただ」
八郎は指を立てる。
「料理だけ見てはいけません」
「本当に料理人になります」
その言葉に姫たちは笑った。
「他には?」
「お話してみたい方はいませんか?」
一人の姫がおずおずと言う。
「四郎様と少し……」
「少し?」
「はい」
「少し話しただけです」
八郎はため息をつく。
「駄目です」
「え?」
「少しで終わったら駄目です」
「この前、島津本家でもありました」
「五郎兄様と市の話をした姫様がいました」
「だから私は」
胸を張る。
「五郎兄様のところまで連れていき」
「説教しました」
「説教!?」
「はい」
「楽しかった、で終わるな」
「市に誘いなさい」
「そう言いました」
姫君たちは笑い出す。
「それで?」
「ちゃんと市へ行きました」
「そして」
さらに胸を張る。
「姫様が僕の頭を撫でてくれました」
一郎が呆れる。
「最後それが言いたかっただけちゃうか」
だが、八郎は急に真剣になる。
「でも、本当に時間があるとは限りません」
空気が変わる。
「阿蘇を取りました」
「大友の援軍五千は引き返しました」
「でも終わりではありません」
「今、一年の不可侵を結ぶために百万文を出すかも考えています」
「百万文……」
姫君たちが驚く。
「時間を買うためです」
「その間に阿蘇を整える」
「借金を減らす」
「市を作る」
「湯浴みを作る」
「領民を安心させる」
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「ただ」
八郎は続ける。
「もし半月、一月して」
「相良が降る」
「肥後の国人衆がさらに降る」
「そうなれば」
「八郎領と島津分家を合わせれば四十万石級になります」
部屋が静まる。
「九州でも大きな勢力です」
「そうなると」
「大友」
「大内」
「そういう大きな家から婚姻の話が来る可能性があります」
千代も表情を引き締めた。
「島津本家」
「島津分家」
「今は私が好きだから仲良くしています」
「でも」
「周りからも仲良くしてください、と言われる立場になるかもしれません」
「だからです」
八郎は姫たちを見る。
「これは戦です」
「戦?」
「はい」
「島津本家のお姫様方との代理戦争です」
その言葉に皆笑った。
「恋の戦ですか?」
「そうです」
八郎は真面目だった。
「お色気攻撃でも何でもしてください」
「八郎様!」
姫たちは顔を赤くする。
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「でも」
八郎は優しく言う。
「無理やりは嫌です」
「私が」
『あなたとあなた結婚』
「なんて決めるのは違います」
「縁は大事です」
「家も大事です」
「でも」
「嫌いな者同士より」
「少しでも好きになれる相手の方がいいでしょう?」
その言葉に、姫たちは静かになった。
四歳児の言葉。
けれど、その中身は誰よりも人を見ていた。
一郎は笑った。
「お前、本当に変な奴やな」
「褒め言葉ですね」
「まあな」
千代も微笑む。
「では、小さな会を考えましょうか」
「お願いします」
八郎は満足そうに頷く。
「私は忙しいので」
「帳面があります」
「戦もあります」
「肉あんの鍋もあります」
最後の一言で空気が崩れた。
「そこで鍋が出ますか」
「大事です」
「売れますから」
姫君たちは笑った。
阿蘇を落とした四歳児。
次に始めた戦は――。
島津家同士の縁を結ぶ、少し変わった恋の戦だった。




