1534年2月4週目。一郎兄様と千代姉さまのところに行き婚活について色々話に行く。
二月四週目。
帳面合わせを終えた翌日。
八郎はふらふらと一郎の屋敷へ遊びに向かった。
「一郎兄様ー」
元気よく入ってくる八郎を見て、一郎は笑う。
「今度はなんや?」
「なんですか、その言い方は」
「お前が来る時は、だいたい何かあるやろ」
「失礼ですね」
八郎は胸を張る。
「今日は大事なお話です」
その言葉に、横にいた千代姫も笑った。
「八郎様の大事なお話は、本当に大事な時と、変な思いつきの時がありますからね」
「今日は本当に大事です」
「ほう?」
一郎が座り直す。
すると八郎は真面目な顔をした。
「一郎兄様」
「はい」
「千代姉様の思いをちゃんと汲んでいますか?」
「……ん?」
「もっと言います」
八郎は千代を見る。
「千代姉様のお父様の思いを汲んでいますか?」
二人は顔を見合わせた。
「なんの話や?」
八郎はため息をつく。
「私は先週、島津本家のお姫様方のところへ遊びに行きました」
「ほう」
「そこで最近どうですか、と聞いたんです」
「宴会もしました」
「お好み焼きもしました」
「ふくふく焼きもしました」
「親子丼も作りました」
「縁ができる場を作りました」
「なのに」
一拍置く。
「何も進んでない!」
一郎は吹き出した。
「なんでお前が怒ってるんや」
「怒りますよ!」
八郎は胸を張る。
「私は頼まれているんです」
「誰に?」
「島津のお殿様方です」
「縁を作ってくれ」
「何とかならんか」
「そう言われているんです」
そして千代を見る。
「千代姉様のお父様にもですよ」
千代は驚く。
「父上が?」
「はい」
「あと二、三人何とかならんか、と」
千代は少し困ったように笑った。
「父上らしいですね」
「だからです」
八郎は一郎を指差す。
「一郎兄様」
「俺?」
「そうです」
「千代姉様と結ばれた一郎兄様だからこそ、動けるんです」
「いや、でもな」
「でもじゃありません」
「島津分家は今、うちと縁があります」
「でも、もっと仲良くなりたいと思っています」
「それは領地とか銭だけじゃないです」
「人と人です」
一郎は黙って聞く。
「今、島津分家の借金も見ています」
「兵も出してもらいました」
「一緒に戦いました」
「でも、それだけではなくて」
「家族になりたい」
「そういう父心ですよ」
千代は少し目を伏せる。
「……そうですね」
「父上も、不安なのだと思います」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
八郎は頷く。
「でしょう?」
「なのに」
「僕がいないと何も進まない」
「これは問題です」
一郎が笑う。
「四歳児に言われるとは思わんかったわ」
「四歳児でも忙しいんです」
「帳面を見る仕事があります」
「阿蘇の後始末もあります」
「市もあります」
「肉あんの鍋もあります」
「縁談まで全部見るのは大変なんです」
千代が口元を押さえて笑う。
「八郎様、普通四歳児はどれも見ませんよ」
「そこは置いておきましょう」
「千代姉様」
「はい」
「もっと簡単でいいんですよ」
「簡単?」
「はい」
「別に正式な宴会じゃなくてもいいんです」
「お弁当を作って出かける」
「団子を食べる」
「市を見る」
「お茶を飲む」
「それだけでいいんです」
一郎が頷く。
「まあ確かにな」
「この前の宴会みたいに大きくする必要はないか」
「そうです」
八郎は嬉しそうにする。
「むしろ小さい方が話せます」
「三郎兄様なら料理」
「五郎兄様なら市」
「六郎兄様や七郎兄様なら仕事ぶり」
「見るところはいくらでもあります」
「ちなみに」
千代が尋ねる。
「島津本家の姫様方は、どなたが人気だったのですか?」
「三郎兄様です」
即答だった。
一郎が笑う。
「三郎か」
「はい」
「親子丼をさばく姿が職人みたいで格好良かったらしいです」
「三郎らしいな」
「でも」
八郎は真顔になる。
「料理だけ見たらだめです」
「本当に料理人になります」
一郎と千代は笑った。
「あと五郎兄様」
「あいつも?」
「はい」
「話した姫様がいたので」
「それで?」
「説教しました」
「説教?」
「はい」
「楽しかったで終わらせるな、と」
「市に誘いなさい、と」
「領主命令ですと言いました」
一郎は腹を抱えて笑った。
「なんで弟が兄の恋路を指導してるんや」
「必要だからです」
「五郎兄様、動かないんですもん」
八郎は立ち上がる。
「では」
「今度は何や」
「姫様方はどこですか?」
千代が首を傾げる。
「会いに行くのですか?」
「もちろんです」
「まだまだ遊びたい年頃なので」
「ごろごろ転がりながら話してきます」
一郎が呆れる。
「お前、阿蘇を取った領主やぞ」
「でも四歳です」
「都合いいな」
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千代は笑いながら立ち上がった。
「分かりました」
「案内します」
「ただし八郎様」
「はい?」
「全部一人で抱え込まないでくださいね」
八郎は少し考えて。
「ではお願いします」
「島津分家の縁作りは」
「一郎兄様と千代姉様担当で」
一郎は苦笑した。
「結局仕事振られたな」
「当然です」
八郎は笑う。
「私は忙しいので」
「帳面がありますから」
その姿を見て、千代は思った。
国を取り、商売を広げ、戦を終わらせる四歳児。
けれど今、一番気にしているのは兄たちの縁。
本当に不思議な子だと。
そう思いながら、姫たちのいる部屋へ案内するのだった。




