1534年2月3週目。帳面終わりの翌日。島津本家から遊学している姫達の屋敷に遊びに行く。五郎兄さんと話した姫君を連れて五郎兄さんと引き合わせる
二月三週目。
帳面合わせも終わった翌日。
珍しく八郎は仕事ではなく、島津本家から遊学に来ている姫君たちの屋敷へ向かった。
「こんにちはー」
部屋に顔を出す。
「肥後三十万石近い領主、八郎が遊びに来ましたよ」
その言い方に姫君たちは吹き出した。
「八郎様、お疲れ様でございました」
「阿蘇攻め、大変だったと聞いております」
八郎は胸を張る。
「もっと褒めてもいいんですよ、お姉様方」
「まあ」
「偉いですね、八郎様」
「さすがでございます」
そう言われながら、八郎は姫君の膝の上に座る。
「そうです、そうです。戦帰りなんですから甘やかしてください」
「本当に四歳児ですね」
「四歳児ですから」
そう答える姿に皆が笑う。
しかし、その四歳児が一万の兵を動かし、阿蘇を落として帰ってきた。
その事実を考えると、不思議な光景だった。
しばらく雑談した後、八郎は周りを見る。
「ところで」
「はい?」
「お姉様方」
急に真面目な顔になる。
「お兄様方とはちゃんと仲良くしていますか?」
その一言で姫君たちが固まる。
「え?」
「いや、え?じゃないですよ」
八郎はため息をつく。
「島津本家の方々、縁を作りたいってめちゃくちゃ言ってましたよ」
「それは……」
「なのに僕が宴会開かないと何も進まないでは困ります」
姫君たちは顔を見合わせる。
「八郎様が色々催しを考えてくださるので……」
「だめです」
八郎は首を振った。
「僕が戦に行ってる間でも進めないと」
「……」
「阿蘇攻めてる間、何しました?」
「何、と言われましても」
「恋文書きました?」
一瞬、空気が止まる。
「な、なんでそんなことを聞くんですか」
「大事でしょう」
八郎は当然の顔をする。
「待ってるだけでは縁はできませんよ」
姫君たちは困ったように笑う。
「八郎様、本当に四歳ですか?」
「四歳です」
「言うことが父上みたいです」
「褒め言葉ですね」
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「この前のご宴会ではどうでした?」
八郎が聞く。
「誰か良さそうな人いました?」
すると一人の姫が少し考える。
「やはり……三郎様は人気ですね」
「ああ」
八郎は頷く。
「親子丼ですね」
「はい」
別の姫も笑う。
「あの大量の注文を次々さばいている姿が……」
「職人のようで」
「格好良かったです」
八郎は腕を組む。
「そこだけ見ると危険です」
「危険?」
「はい」
「三郎兄さんと一緒になるということは」
少し間を置く。
「料理人一家になります」
笑いが起きた。
「朝から晩まで新商品ですよ」
「それはそれで楽しそうです」
「まあ、三郎兄さんなら喜ぶと思いますけどね」
八郎も笑った。
「四郎兄さんや五郎兄さんは?」
そう聞くと、一人の姫が少し顔を赤くする。
「あの……五郎様とは少しお話しました」
八郎の目が光る。
「ほう」
「その顔やめてください」
「どんな話です?」
「普通に……市の話とか、最近のこととか」
「それで?」
「それだけです」
八郎は大げさに肩を落とした。
「だめです」
「え?」
「そこからです」
「そこから?」
「次、一緒にお茶でもどうですかって言わないと」
「そんな急には……」
「戦です」
「戦!?」
八郎は真剣な顔で言った。
「縁結びも戦です」
姫君たちは笑いをこらえられなかった。
「品がないと思われませんか?」
「品がないとか言ってる場合じゃありません」
八郎は胸を張る。
「お父様方は本気なんですよ?」
「それは……」
「なら、お姉様方も本気出してください」
そしてニヤリと笑う。
「そして後で僕が話を聞いてニヤニヤします」
「嫌です!」
「それは恥ずかしいです!」
部屋に笑い声が響く。
「でも」
八郎は立ち上がる。
「きっかけ作りなら手伝います」
「本当ですか?」
「もちろん」
そして先ほどの姫を見る。
「五郎兄さんと話したいんですよね?」
「え、あの」
「行きましょう」
「今ですか!?」
「今です」
八郎は悪い顔で笑う。
「機会は作るものです」
周りの姫君たちは口元を押さえる。
「あの顔」
「悪い顔ですね」
「阿蘇を落とした時も、あの顔だったのでしょうか」
そんな冗談まで飛ぶ。
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八郎が姫を連れて出ていった後。
残った姫君たちは顔を見合わせた。
「不思議なお方ですね」
一人が呟く。
「先日は一万の兵を率いて阿蘇を攻めた方ですよ」
「それなのに今日は縁談の世話」
「しかも四歳」
皆、笑うしかなかった。
だが同時に理解していた。
島津本家がなぜ八郎との縁を欲しがるのか。
武だけではない。
銭だけでもない。
人を巻き込む力。
敵だった者すら味方にする力。
それが恐ろしいほど強い。
一人の姫が筆を取った。
「父上に文を書きます」
「何と?」
少し考えてから答える。
「八郎様は、噂以上のお方です、と」
そして筆を走らせる。
『阿蘇を落とした後も驕らず、民を考え、家族を考えておられます』
『そして何より、人の縁を大切にされる方です』
書きながら、姫は小さく笑った。
最後に一文を添える。
『ただし、少々お節介が過ぎます』
その言葉に、部屋中が笑いに包まれた。




