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1534年1月4週目。証文合わせの後日。緊急集会、阿蘇を4月の農作業前までに攻めとる。兵8000,島津援軍2000

八郎の屋形では急きょ評定が開かれることになった。

集まったのは兄たち、主だった家臣、そして島津分家当主・実久。

普段なら帳面や商いの話が中心になる場だったが、この日の空気は少し違った。

八郎が前に出る。

「急に集まっていただいてありがとうございます」

「今日は肥後についてです」

その一言で皆の顔が引き締まる。

「肥後……ということは阿蘇ですか」

家臣の一人が言う。

八郎は頷いた。

「はい」

「四月になれば田植えが始まります」

「農民を兵として動かすことは極力避けたい」

「だから二月、三月の間に決着をつけたいと思っています」

実久が腕を組む。

「早いな」

「でも理由は分かる」

「農を乱したくないわけだ」

「はい」

八郎は続ける。

「今回、島津分家のお力を借りたいと思っています」

実久を見る。

「兵二千」

「お願いできますでしょうか」

実久は即答した。

「出そう」

周囲が少し驚く。

「よろしいのですか?」

「当たり前だ」

実久は笑った。

「この前から散々世話になっている」

「それに島津の武を買ってくれていると言われたからな」

「ここで出さずにいつ出す」

八郎は頭を下げる。

「ありがとうございます」

そして地図を広げた。

「まず先発」

「こちら四千」

「飯炊き隊一千」

「合わせて五千」

「阿蘇との境で陣を張ります」

一人が苦笑する。

「また飯ですか」

「はい」

八郎は平然と言う。

「飯です」

「ただし前回とは違います」

「相良の時は相手の心を折ることが目的でした」

「今回は」

少し間を置く。

「必要なら攻めます」

場が静まる。

「八郎様が……」

「自分から戦を仕掛けるのですか?」

その言葉には驚きがあった。

八郎といえば、飯を炊き、帳面を消し、人を取り込む。

そういう戦をする者だと思われていたからだ。

八郎は首を横に振る。

「仕掛ける、というより」

「終わらせるんです」

「阿蘇はこちらに二度刃を向けました」

「一度なら分かります」

「でも二度です」

「それを笑って許していたら、周りはどう見ますか?」

誰も答えない。

八郎が続ける。

「八郎領は豊かだ」

「でも攻めても許してくれる」

「そう思われたら終わりです」

実久が小さく頷いた。

「そこは大事だ」

「優しいだけの領主は食われる」

「はい」

八郎は答える。

「一番いいのは、攻められないことです」

「次にいいのは、攻められても跳ね返せること」

「昔、私たちの領に攻めてきた者たちを狩場に誘い込んで勝ったように」

「でも」

地図の阿蘇を指差す。

「今なら、もっと良い手があります」

「相手が整える前に終わらせる」

「そういうことです」

そして別の紙を出す。

「同時に肥後国人衆へ書状を送ります」

「内容は?」

一郎が聞く。

「降伏勧告ではありません」

「選択の提示です」

八郎は読み上げる。

「八郎領に入るならば、帳面を全て出してください」

「領民、家臣団の安全は保証します」

「侍衆も悪いようにはしません」

「ただし」

「領主本人は、今まで通りその土地にいることは難しい場合があります」

「それはなぜです?」

「責任です」

八郎は答える。

「借金まみれになった土地を変えるには、一度関係を切らないといけない場合があります」

「でも殺しません」

「追放もしません」

「八郎領内で好きに暮らしていただいていい」

「力を貸してくれるなら仕事もお願いします」

実久は感心したように言う。

「負けても生きる道を示すわけか」

「はい」

「死ぬしかないなら抵抗します」

「でも家族も守られる、家臣も守られるなら」

「考える人はいるはずです」

一郎が言う。

「出す範囲は?」

「肥後南部中心です」

「龍造寺や少弐に近い北側までは無理に触りません」

「手を伸ばしすぎると危険です」

「まず肥後を固めます」

実久が地図を見る。

「つまり」

「国人衆を吸収」

「阿蘇を無力化」

「肥後を八郎領にする」

「そういうことか」

「はい」

「ただ問題があります」

八郎は阿蘇の北東を指した。

「大友です」

空気が変わった。

「阿蘇を取れば、大友と接します」

「だから連戦の可能性があります」

「そこだけが嫌です」

実久は唸る。

「確かにな」

「阿蘇単独なら問題ない」

「しかし大友が援軍を出せば別物になる」

「はい」

「だから早さが重要です」

「大友が迷っている間に終わらせる」

「阿蘇には」

「戦う」

「半分割譲して停戦」

「全部こちらに入る」

「その三択を迫ります」

「相良と同じか」

「似ています」

「ただ今回は」

八郎は静かに言った。

「必要なら城も攻めます」

その言葉に周囲が驚く。

実久だけが笑った。

「安心した」

「え?」

「八郎殿は優しすぎるかと思っていた」

「だが違うな」

「守るためなら決断する」

八郎は苦笑した。

「嫌ですよ、戦なんて」

「でも」

「今動かないことで、夏や秋にもっと大きな戦になるなら」

「今、小さく終わらせます」

実久は頷く。

「分かった」

「島津分家二千」

「出そう」

「ただし条件がある」

「何でしょう?」

「前には出る」

「だがまた飯の匂いだけで終わったら笑うぞ」

一同が吹き出す。

八郎も笑った。

「それが一番ですよ」

「誰も死なないなら」

「でも今回は、皆さん」

表情を戻す。

「相良の時とは違います」

「慣れないでください」

「飯で勝てる戦ばかりではありません」

「大友、大内相手には通じません」

「だから訓練は続ける」

「備える」

「その上で」

「戦わず勝てるなら勝つ」

その言葉で評定は決まった。

肥後への書状。

阿蘇境での飯炊き。

そして島津分家二千の参陣。

二月。

八郎領は、肥後統一へ向けて静かに動き始めることになった。

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