1534年1月2週目。ご宴会当日。成功するよりも楽しむことを目標に。実際お好み焼きやふくふく焼きは好評。親子丼は大人気(笑)
一月二週目。
ついに「ご縁会」の日が来た。
八郎屋敷の周囲には朝から人が集まっていた。
参加者は二百人。
一刻半を二回に分ける形。
侍、商家、庄屋の子、女中、島津本家・分家の姫君や付き人。
普段なら同じ場所で話すことも少ない者たちが、今日は同じ場所にいた。
八郎は皆の前に立つ。
「皆さん、今日は来ていただいてありがとうございます」
「まず最初に言っておきます」
「今日は商売の日ではありません」
周りが少し驚く。
「料理だから美味しい方がいいです」
「でも」
「多少焦げても」
「形が悪くても」
「味付けを間違えても」
「笑ってください」
「今日は上手に作る日じゃありません」
「一緒に作る日です」
その言葉に、緊張していた女衆の顔が少し緩む。
「ただし」
八郎が指を立てる。
「生焼け」
「汚い手」
「そこだけは駄目です」
「お腹を壊したら、ご縁どころではありません」
笑いが起きた。
・・・・・・・・・・・・・・・
「あと」
「ずっと立ってなくてもいいです」
「疲れたら代わってください」
「他の料理を食べてください」
「お茶飲んで話してください」
「今日大事なのは」
「話すきっかけです」
八郎は周囲を見る。
「合いの手を忘れてもいいです」
「隣の人に聞いてください」
「それが会話になります」
「分からないことがあれば」
『これどうするんですか?』
「って聞けばいい」
「そこから仲良くなるかもしれません」
姫君たちも頷く。
「だから」
「楽しんでください」
「それだけできれば、今日は成功です」
そしてご縁会が始まった。
開始直後。
人が集まったのは当然――
「お好み焼き」
だった。
「これが噂の……」
「何を入れるんです?」
女衆が笑顔で答える。
「お好きなものをどうぞ」
若い侍と商家の娘が鉄板の前に座る。
「では親鳥を」
すると担当の娘が声をかける。
「親鳥ですね」
「親を大事にする、優しいご縁になりますように」
「おお」
周囲から笑い声。
次にごぼう。
「ごぼうは土深く根を張ります」
「長く続く縁ですね」
娘が言うと、二人は照れながら笑う。
「じゃあ、ネギも」
「長ネギですね」
「長いお付き合いになりますように」
「うまいこと言うな」
「八郎様仕込みです」
そんな声があちこちで聞こえる。
別の場所では魚と肉を両方入れる者がいた。
「これはどう言えばいいんです?」
担当の女中が困る。
すると隣の娘が助け舟を出した。
「違うもの同士でも一緒になる」
「互いを認め合う縁、ではどうです?」
「それいいですね!」
その様子を見て八郎は笑った。
「そうそう」
「それでいいんです」
「僕が全部考えなくてもいいんです」
「みんなで作るものですから」
一方。
甘い香りに誘われて人が集まる場所もあった。
「ふくふく焼き」
小さな丸い生地。
そこへ甘い小豆。
二枚で挟む。
「なるほど」
「団子とは違うな」
「柔らかい」
「甘い」
「これは女子供が喜ぶぞ」
子供たちも嬉しそうに食べる。
「福を挟んで食べるんです」
「いい名前ですね」
そんな声が聞こえた。
そして――
一番の戦場。
三郎の場所だった。
「親子丼追加!」
「飯が足らんぞ!」
「肉包みもっと焼け!」
三郎が叫ぶ。
「八郎!」
「なんやこれ!」
「試作ちゃうんか!」
八郎は笑う。
「試作ですよ」
「売れそうですね」
「売れそうどころちゃう!」
「手が足らん!」
親鳥を柔らかく煮たもの。
卵で包んだ飯。
働く男たちには特に刺さった。
「これはええ」
「かき込める」
「昼飯に欲しい」
商家衆も目を光らせる。
「これは店で出せますな」
「利益出ますぞ」
三郎は忙しそうにしながらも、少し嬉しそうだった。
夕方。
宴が終わる。
大きな失敗もあった。
焦がした者。
ひっくり返せなかった者。
味付けを間違えた者。
でも誰も怒らなかった。
むしろ笑い話になった。
片付けが終わると、八郎は手伝った者たちを集めた。
「皆さん」
「お疲れ様でした」
「お茶と団子を用意しました」
「今日は作る側で大変でしたから」
「今度はゆっくりしてください」
姫君たちも腰を下ろす。
「どうでした?」
八郎が聞く。
島津の姫の一人が笑った。
「疲れました」
「正直、途中帰りたくなりました」
周りが笑う。
「でも」
「終わってみると」
「なんでしょう」
「すごく楽しかったです」
「自分たちで何かをした感じがあります」
別の娘も頷く。
「ただ座って話すより」
「ずっと仲良くなれました」
八郎は周りを見る。
五郎が、島津の姫の一人と楽しそうに話している。
三郎も料理好きの娘と、味付けについて真剣に話している。
六郎、七郎も以前より自然に人の輪に入っている。
八郎は小さく笑った。
「母上」
「なんや?」
「やった意味、ありましたね」
母もその光景を見る。
「そうやな」
「縁談、縁談って言うより」
「こうやって一緒に何かする方が自然やな」
「はい」
八郎は頷く。
「家と家を繋ぐ前に」
「人と人が繋がった方がいいですから」
母はため息をつく。
「ほんま」
「四歳の言葉じゃないわ」
「よく言われます」
八郎が笑う。
こうして第一回ご縁会は終わった。
新しい料理。
新しい商売。
そして――
新しい縁。
八郎領はまた一つ、不思議な形で大きくなっていった。




