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1534年1月2週目。帳面合わせの日。帳面よりもご宴会の宣伝に時間を使う八郎wwwお好み焼き、ふくふく焼き、親子丼等

一月二週目。

いつものように八郎屋敷では帳面合わせが開かれていた。

商家衆、庄屋衆、侍衆、家族たち。

いつもの顔ぶれが揃う。

八郎は分厚い帳面を前に置くと、いつもの調子で言った。

「では、細かい数字は見ておいてください」

その一言に、何人かが苦笑した。

「八郎様」

「はい?」

「最近、そればかりではありませんか」

「いやいや」

八郎は笑う。

「ちゃんと見てますよ」

「相良の市も動き始めていますし」

「借用証文も順調に減っています」

「湯浴みも増えています」

「大きな問題はありません」

「それが一番です」

庄屋衆がため息をつく。

「普通なら、それだけで一日話し合う内容ですがな」

「慣れって怖いですね」

八郎が笑うと、周りも笑った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「さて」

八郎が手を叩く。

「今週の大きな話ですが」

「宴をします」

「宴ですか」

「はい」

「ただの宴ではありません」

「ご縁会です」

その瞬間、部屋が静かになる。

「……ご縁会?」

「何ですか、それは」

「いい質問ですね」

八郎は待ってましたという顔になる。

「あのですね」

「私、面白い料理を思いついたのでございます」

三郎が横で嫌そうな顔をする。

「また始まった」

「兄さん、そんな顔しないでください」

「八郎がその顔すると忙しくなるんや」

「今回は楽しい忙しさです」

「一つ目」

「名前は――」

「お好み焼きです」

「お好み焼き?」

皆が首を傾げる。

「中身は宴まで秘密です」

「ただ」

「男女で楽しめる料理です」

「一緒に作って」

「一緒に焼いて」

「一緒に食べる」

「そういう料理です」

女衆から声が上がる。

「面白そうですね」

「でしょう」

八郎は嬉しそうに頷く。

「もう一つ」

「甘味です」

「名前は」

「ふくふく焼き」

「福を挟む甘味です」

「これも縁起物です」

「縁を作り、福を呼ぶ」

「そういう催しにします」

侍の一人が笑った。

「八郎様」

「また商売ですか」

「違います」

八郎は即答した。

「商売でもあります」

「でも、それだけじゃありません」

「人と人を繋げる場です」

「島津本家」

「島津分家」

「八郎家」

「侍」

「女衆」

「みんな一緒に笑える場所を作ります」

少し空気が変わった。

「戦で領地を取るだけなら簡単です」

「でも」

「一緒に飯を食べる」

「一緒に笑う」

「それがないと長続きしません」

商家衆が頷く。

「相変わらず、飯から入りますな」

「飯は大事です」

八郎は真顔だった。

「今回は姫様方にも参加してもらいます」

「え?」

周囲が驚く。

「もちろん無理にはさせません」

「でも」

「側近の方」

「侍の娘さん」

「女中さん」

「そういう人にも手伝ってもらいます」

「焼きながら話す」

「それだけで距離は縮まります」

母が呆れた顔をする。

「八郎」

「はい」

「あんた本当に婚姻まで料理で動かす気なの?」

「全部ではないです」

「きっかけです」

「きっかけがないと何も始まりませんから」

「四歳の言葉じゃないわ」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「それとは別に」

八郎は三郎を見る。

「三郎兄さんにお願いしている料理があります」

「親子丼」

「それと肉包みですね」

三郎が頷く。

「親鳥を使うやつやな」

「はい」

「これは純粋な飯です」

「今まで価値が低かった親鳥を銭に変える料理です」

「成功したら八郎商会の商品にします」

商家衆が反応する。

「利益はどれほど見ています?」

「一店舗、一日二百文」

さらっと答える。

「二百文!?」

「はい」

「全部の店に広げれば大きいですよ」

「親鳥を買う人も増える」

「農家も助かる」

「店も儲かる」

「食べる人も喜ぶ」

「全部良いです」

「お好み焼きは?」

「鉄板が必要なので難しいですね」

「大量展開はまだ無理です」

「催し向きです」

「ふくふく焼きも同じです」

「鉄板職人が増えれば別ですが」

「まずは宣伝ですね」

「八郎商会は飯を売るだけじゃない」

「楽しいことも作る」

「それを知ってもらいます」

一人が笑った。

「八郎様」

「戦して帰ってきたばかりですよね」

「はい」

「なんでもう料理考えてるんですか」

「考えてました」

「戦中に?」

「少し」

全員が呆れる。

「まあ、とにかく」

「ぜひ宴には来てください」

「面白いと思います」

すると商家衆、庄屋衆たちから声が上がる。

「行きます」

「それは見たい」

「八郎様の新しい料理ですからな」

「いやいや」

八郎は笑う。

「期待しすぎないでください」

「試作ですから」

「でも」

「うまくいけば」

「また一つ八郎領の名物になります」

その様子を見ていた古参の商人がぽつりと言った。

「本当に早いですな」

「何がです?」

「全部です」

「市を作る」

「借金を消す」

「湯あみを広げる」

「戦をする」

「帰ってきたら料理を作る」

「普通なら一代かけてやることです」

「それを一年でやっております」

八郎は笑った。

「でも、みんなが動いてくれているからですよ」

「僕一人なら何もできません」

母が微笑む。

「そこだけは昔から変わらないわね」

「そうですか?」

「ええ」

「大きくなったけど」

「家族でご飯食べたいって言ってた八郎のままよ」

八郎は少し照れた。

そして帳面を閉じる。

「では」

「今週も頑張りましょう」

「借金を減らして」

「飯を増やして」

「笑う人を増やします」

その言葉で、一月二週目の帳面合わせは終わった。

だが皆の頭の中はもう数字ではなく――

「お好み焼きとは何なのか」

「ふくふく焼きとはどんな味なのか」

そのことでいっぱいだった。

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