1534年1月。八郎が新たな催しと新たな料理を考える。お好み焼きとふくふく焼き。来週宴会でこの催しやってみよう。
「三郎兄さん、母上」
八郎が突然、手を叩いた。
「なんや、また何か思いついた顔してるぞ」
三郎が警戒したように笑う。
母もため息をつく。
「八郎、その顔するときは大体大ごとになるのよね」
「そんなことないですよ」
「あります」
即答され、周囲が笑った。
八郎は構わず話を続ける。
「まず、さっき言った親子丼」
「それと鶏肉を包んで焼く料理」
「これ、今度の宴で出してみませんか」
「宴?」
「はい」
「みんなに味を聞くんです」
「評判が良ければ商品にします」
三郎は腕を組んだ。
「まあ、それは分かる」
「飯として普通に売れるやろな」
「親鳥は今まで硬くて扱いづらかったから、それが銭になるなら大きい」
「ですよね」
八郎がにやりとする。
「でも、本題は別です」
「……まだあるんか」
「あります」
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「料理を二つ考えています」
「二つ?」
「はい」
「ただの料理じゃありません」
「縁を作る料理です」
母が眉を寄せる。
「……縁?」
「はい」
「婚姻にも使えます」
「あんた料理で婚姻まで考えてるの?」
「もちろんです」
「なんで当然みたいに言うの」
八郎は楽しそうだった。
「まず鉄板をたくさん用意します」
「材料を切る人」
「焼き方を教える人」
「合いの手を入れる女衆」
「全部準備します」
「そしてお客さんは……」
「男女二人組」
「ご縁会です」
その言葉に周囲がざわつく。
「また変なこと考えたな」
三郎が笑う。
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「まず一つ目」
「小麦粉、卵、水を混ぜます」
「それを丸く鉄板に広げます」
八郎は手で形を作る。
「そこに具を選んでもらいます」
「刻んだ鶏肉」
「ネギ」
「ナス」
「ゴボウ」
「タコ」
「イカ」
「季節の野菜」
「二人で相談して入れるんです」
姫の一人が興味深そうに聞く。
「相談するのですか?」
「はい」
「そこが大事です」
八郎は笑う。
「例えばゴボウなら」
『根が深く張る良いご縁になりますね』
「と言います」
「海老なら」
『腰が曲がるまで長く続く縁ですね』
「親鳥なら」
『親を大事にする優しい家庭になりますね』
「そんな感じで女衆が声をかけます」
母が感心する。
「料理じゃなくて場を作ってるのね」
「そうです」
「味だけじゃないです」
「思い出を売るんです」
「焼けたらひっくり返します」
「上から味噌醤油を塗ります」
「最後に海藻を細かくしたものを振ります」
「そして」
『良いご縁がありますように』
「そう言って出します」
「名前は?」
三郎が聞く。
八郎は胸を張る。
「お好み焼きです」
「あなた方のお好みに合わせて焼くからです」
一瞬静かになる。
そして。
「ふっ」
母が笑った。
「何ですか」
「いや」
「名前まで考えてるのが八郎らしいわ」
三郎も笑う。
「でも分かりやすい」
「客は喜ぶやろな」
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「もう一つ」
「まだあるんかい」
「甘味です」
「小麦粉」
「卵」
「水」
「蜂蜜」
「これを混ぜます」
「小さい丸を二枚焼きます」
「間に小豆と砂糖で作った餡を挟みます」
「あの団子に乗せてる餡ですね」
母が頷く。
「あれならできるわ」
「名前は?」
「ふくふく焼き」
「福を挟んで食べるからです」
姫たちから声が上がる。
「かわいい名前ですね」
「でしょう」
八郎は満足そうだった。
「値段は相談です」
「最初は売るというより催しですね」
「若い男女でもいい」
「夫婦でもいい」
「仲直りでもいい」
「二人で焼いて」
「二人で食べる」
「それが大事です」
三郎は少し黙った。
そして笑った。
「八郎」
「はい?」
「それ、めちゃくちゃ面白そうやないか」
「でしょう?」
「来週やろう」
「早いですね」
「言い出したのお前や」
みんな笑う。
「ただ」
八郎は指を立てた。
「作るより大事なのは合いの手です」
「合いの手?」
「はい」
「料理だけなら誰でも真似できます」
「でも」
『二人で笑いながら作る』
『縁起のいい言葉をかける』
『また来たいと思わせる』
「ここが大事なんです」
母がじっと八郎を見る。
「本当に四歳?」
「四歳です」
「疑わしいわ」
「あと」
「千代姉様のところにも声かけましょう」
「島津分家の方も」
「本家の方も」
「一緒に」
三郎が首を傾げる。
「本家と分家を混ぜるんか?」
「はい」
「喧嘩禁止ですから」
八郎は当然のように言う。
「それに」
「姫様だけじゃなく」
「付き人」
「侍」
「女中」
「みんなです」
「そこで仲良くなってもいいじゃないですか」
父が聞く。
「そこまで考えてるんか」
「はい」
「敵対していた家同士で」
「誰かと誰かが仲良くなる」
「一緒に飯を作る」
「笑う」
「それって壁を一つ越える感じがしません?」
しばらく誰も話さなかった。
母がため息をつく。
「八郎」
「はい」
「あんた本当にどこまで考えてるの」
「そんなにですよ」
「嘘」
即答だった。
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三郎は鉄板のことを考え始めていた。
姫たちは具材の話で盛り上がっている。
母は呆れながらも、餡の甘さ調整を考えていた。
父は笑う。
「戦では飯を炊いて城を取る」
「今度は飯を焼いて縁を作る」
「ほんま八郎らしいな」
八郎は笑った。
「美味しいものを一緒に食べた人とは」
「少し仲良くなれますから」
「その少しを」
「いっぱい積み重ねたいだけです」
その言葉に、屋形のみんなが自然と頷いた。




