1534年1月。島津本家の館で話し合い。相良攻めの話から内政、借金の話。結局最後は縁談の話。
島津本家との話は、相良攻めから、いつの間にか内政の話へ移っていた。
八郎は茶を飲みながら思い出したように言う。
「あ、そうそう」
「島津分家にも話したんですけど」
「なんだ?」
高久が聞く。
「お小遣い稼ぎしませんか?」
「……お小遣い?」
島津の家臣たちが顔を見合わせる。
「はい」
「鳥獣退治です」
「猪や鹿ですね」
「農民からすれば畑を荒らす厄介者」
「でも侍からすれば弓や槍の訓練になる」
「しかも銭になります」
忠良(日新斎)が興味深そうに聞く。
「どれほどになる?」
「うちの薩摩川内一万五千石では月二十万文」
「もう一つの三万五千石単位の領地では月四十万文ですね」
「合わせて六十万文」
「月にか」
「はい」
周囲が驚く。
「そんなものになるのか」
「なります」
「農民は作物を守れる」
「侍は銭が入る」
「肉や皮も使える」
「訓練にもなる」
「悪いことが少ないです」
八郎は続けた。
「元々は侍衆の借金返済のために始めました」
「ですが」
「薩摩川内」
「それと南側三万五千石」
「そこは侍衆の借金、数百万文ありましたけど」
「もう全部消えました」
「……全部?」
「はい」
「なので、そこに回す必要がなくなりました」
「だから島津分家にも提案しました」
「やってみませんか、と」
貴久が唸る。
「借金を返しながら兵の鍛錬か」
「はい」
「得た銭は借金返済でも」
「次の戦費でも」
「自由です」
「公平に提案させてもらっています」
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しばらく黙っていた高久だったが、ため息をついた。
「それもありがたい」
「ありがたいんだがな」
「はい?」
「やはり縁組をなんとかしたい」
八郎が苦笑する。
「そこに戻ります?」
「戻る」
高久は真顔だった。
「こちらも借金がないわけではない」
「むしろ危ない可能性がある」
「分家だけが近づいていくのを見ているだけ、というわけにもいかん」
忠良も頷く。
「武だけでは国は保てぬ」
「今回、それを嫌というほど見せられた」
八郎は少し考えて答えた。
「でも、銭を増やす方法なら他にもありますよ」
「例えば?」
「交易ですね」
「琉球です」
「琉球か」
「はい」
「砂糖」
「泡盛」
「あと芋です」
「芋?」
「さつま芋です」
八郎の目が輝く。
「薩摩でも植え始めています」
「分家にも渡します」
「ただ、薩摩では基本一年一回」
「でも琉球なら暖かいので、うまくやれば二回取れるらしいんです」
「だから」
「琉球で土地を借りて、大量生産したいんですよね」
家臣たちは顔を見合わせる。
「戦の話をしていたはずだが……」
「いつの間に芋の話になった?」
八郎は笑う。
「全部つながってます」
「食べ物が増える」
「飢えが減る」
「人口が増える」
「兵が増える」
「交易品になる」
「銭になる」
「銭があれば戦える」
「全部同じです」
忠良が感心する。
「なるほどな」
「兵法とは違うが、国作りとしては筋が通っている」
「今年の春ぐらいには芋焼酎も試したいです」
「焼き芋屋もやりたいです」
「甘いものは売れます」
高久は笑った。
「忙しいな」
「軍事」
「農業」
「商売」
「全部飛び回っている」
「本当は分業したいんです」
八郎も笑う。
「農業は一郎兄さん」
「料理や食は三郎兄さん」
「薩摩分家との話は千代姉さんと一郎兄さんの館」
「情報が集まるようにしています」
「さっき行ったら、もうそんな感じになってました」
高久が羨ましそうな顔になる。
「……それが欲しい」
「はい?」
「そういうつながりが欲しい」
「やはり縁だな」
また話が戻り、周囲が笑う。
「八郎殿」
貴久が身を乗り出す。
「では、こうしよう」
「なんです?」
「大人の女性が好きと言っていたな」
八郎が胸を張る。
「はい」
「魅力的な女性を見る目はあります」
姫たちが笑う。
「では」
「こちらの大人な姫たちに遊んでもらうのはどうだ?」
「別にすぐ婚姻などと言わん」
「茶でも」
「散歩でも」
「膝の上でも」
「女は柔らかいぞ」
その瞬間、姫たちが吹き出した。
「父上!」
「言い方が!」
八郎は真面目な顔で頷く。
「柔らかいのは好きですね」
さらに笑いが起きる。
「八郎様、本当に四歳ですか?」
「四歳ですよ」
「だからいっぱい遊んでもらわないと困ります」
「一人に決めるなんてまだ早いですから」
姫の一人が笑う。
「なかなか言いますね」
「やり手です」
八郎は首を振る。
「いやいや」
「せっかく島津本家も分家も来てるんです」
「うちの領内では喧嘩禁止です」
「なら女衆同士で仲良く遊ぶのもいいじゃないですか」
「交流ですよ」
忠良は笑った。
「交流と言いながら、気づけば縁になっている」
「そういうことか」
「まあ」
八郎は団子を食べながら言った。
「楽しい方がいいですから」
その一言に皆が笑った。
戦で領土を取り。
帳面で借金を消し。
交易を考え。
そして最後は――。
「いっぱい遊んでください」
と姫たちに笑う。
島津の者たちは改めて思った。
八郎という四歳児は、恐ろしいほど国を見ている。
だが同時に、人と人が笑う場所を作ることを忘れていないのだ、と。




