表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/160

八郎、銭の怖さを知る。売り上げ2800文。原価、人件費、寄進を引いて830文残る。課題も多く継続性もまだまだ不安。

 家に帰る道。

 父上はいつもより静かだった。

 理由は分かる。

 銭袋だ。

「八郎」

「はい」

「これは……」

 父上は袋を見る。

「一つにまとめるのは危ないな」

 俺も頷いた。

「はい」

「分けた方がいいと思います」

 一袋落とす。

 盗まれる。

 何かあった時。

 全部なくなる。

「二つか三つに分けましょう」

「そうじゃな」

 嬉しいはずの銭。

 でも増えすぎると。

 今度は怖さになる。

・・・・・・・・・・・・・・・

 家に戻る。

 一郎兄様と次郎兄様は留守番をしていた。

「帰ったか」

「今日はどうやった?」

 父上が銭袋を置く。

 ずしり。

 音がした。

「……」

 一郎兄様が固まる。

「父上」

「なんじゃ」

「それ……全部?」

「全部じゃ」

 次郎兄様も目を丸くする。

「いやいや」

「何があったんですか」

「売れた」

 三郎兄様が笑う。

「また八郎の新しい飯が当たった」

「どれくらい?」

 父上が答える。

「売上」

「二千八百文ほどじゃ」

 部屋が止まった。

「……」

「二千八百?」

 一郎兄様が呟く。

「うち、そんな金持ちだったか?」

「違います」

 俺は首を振る。

「ここ二月ほどです」

「余計怖いわ」

 次郎兄様が言った。

「そんな急に増えるものなのか」

 普通は増えない。

 だから怖い。

「でも」

 俺は言う。

「あまり外では言わない方がいいです」

 全員頷く。

 これだけの銭。

 知られれば面倒になる。

「だから来週」

「炊き出しをします」

 母上が頷いた。

「儲けているだけに見えないように」

「はい」

「皆さんのおかげでできていますから」

 それから帳面を開く。

「ただ」

「見えている銭が全部儲けではありません」

「そうなのか?」

 五郎兄様が聞く。

「はい」

「まず仕入れです」

 今回は大きかった。

「千五百文ほどかかっています」

「千五百!?」

 兄様たちが驚く。

「そんなに?」

「はい」

「特に油です」

 ごま油。

 卵。

 小麦。

 魚。

 今までとは違う。

「天ぷらは売れました」

「でも作るのも高いです」

「次に人件費です」

 父上。

 母上。

 三郎兄様。

 四郎兄様。

 五郎兄様。

 準備をした兄様方。

「今回は多めにしています」

「合わせて三百七十文ほどです」

 一郎兄様が苦笑する。

「俺らにも出すのか」

「もちろんです」

「留守番も仕事です」

 家を守る。

 それも必要。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「そして」

「和尚様への寄進」

「市のまとめ役へのお礼」

「合わせて百文です」

 全部引く。

 すると。

「残り」

「八百三十文ほどです」

 また静かになる。

「八百三十……」

 父上が呟く。

「利益だけで?」

「はい」

「全部払った後か」

「はい」

 三郎兄様が笑った。

「いや、それでもおかしいやろ」

「そうですか?」

「そうや」

「だって前は五百文でも驚いてたんやぞ」

 確かに。

 でも。

「大事なのは続くかです」

 俺は言った。

「この利益があと七回ほど続けば」

「最初の目標」

「五千文は届きます」

 父上が目を閉じる。

「五千文……」

 少し前。

 届かないと思っていた数字。

 それが。

 今は見えている。

「しかも」

 一郎兄様が言う。

「もう貯まってる分もあるやろ」

「はい」

「かなり近づきました」

 ただ。

 俺は続ける。

「でも安心はできません」

「まだ?」

「はい」

「直すところはたくさんあります」

 兄様たちが呆れる。

「まだあるんか」

「あります」

「まず油」

「高すぎます」

 仕入れ。

 安定。

 そこが弱い。

「次に人」

「母上頼りです」

 母上が笑う。

「倒れたら困る?」

「困ります」

「ものすごく」

 みんな笑った。

「それから器」

「道具」

「保存」

「仕入れ先」

「まだまだです」

 父上がため息をついた。

「八郎」

「はい」

「普通なら二千八百文売れた日は喜ぶだけじゃ」

「嬉しいですよ」

「本当か?」

「はい」

 でも。

 前世で知っている。

 売れることと続くことは違う。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 父上は銭袋を見た。

 そして家族を見る。

「分かった」

「浮かれるのは今日だけじゃ」

「明日からまた考えよう」

 兄様たちも頷いた。

 最初は五千文足りない家だった。

 それが今。

 五千文をどう稼ぐかではなく。

 稼いだ銭をどう守り、どう使うか。

 考えるところまで来ていた。

 八郎の小さな商いは、次の段階へ進もうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ