1533年11月。相良の館で八郎側が妙な動きをしているのと7500の兵で攻めてくる話が来る。籠城を決めるが兵の集まりが悪いwww
相良の館。
境目の兵から届いた報告を聞いた瞬間、相良の領主は眉を寄せた。
「……もう一度言え」
「はっ」
使者は頭を下げる。
「八郎領の者が、領境で炊き出しをしております」
「炊き出し?」
「はい」
家臣たちも顔を見合わせる。
「攻め込む前に飯を配るとは何を考えておる」
「それだけではございません」
「まだあるのか」
「はい。八郎は兵六千を集め、さらに島津分家より千五百の援軍を得て、
合わせて七千五百でこちらへ向かう準備をしているとのこと」
広間がざわついた。
「七千五百……」
「馬鹿な」
「島津がなぜ八郎につく」
相良の領主もそこに引っかかった。
「待て」
「はっ」
「なぜ島津分家が兵を貸す」
「それが……」
使者が少し言いづらそうにする。
「どうやら、八郎の兄君と島津分家の姫君が婚姻したそうでございます」
「……何?」
「縁戚になった、と」
しばらく沈黙。
そして領主は額を押さえた。
「おい」
「はい」
「あやつ、この前まで庄屋上がりの子供だったはずではないのか」
「……」
「いつの間に島津を取り込んでおる」
家臣の一人が苦い顔をする。
「取り込んだというより……向こうから近づいたのでは」
「同じことだ」
領主はため息をつく。
「領地は増える、商人は味方につける、今度は島津か」
そして地図を見る。
「こちらはどれほど集められる」
軍奉行が答える。
「本来であれば、相良で三千」
「阿蘇は」
「同じく三千ほど」
「六千か」
「はい。ただ……」
「ただ?」
「前回の敗戦で武具をかなり失っております」
その言葉で空気が重くなる。
八郎との前回の戦。
捕虜は返された。
飯まで食わせて返された。
だが、武具は戻らなかった。
「槍も鎧も買い直し……」
「金は?」
誰も答えない。
「つまり、六千は机上の数字か」
「……はい」
「実際は」
「五千出せれば良い方かと」
領主は腕を組む。
「なら籠城だな」
その判断は自然だった。
七千五百相手に野戦は危険。
城にこもり、相手の兵糧切れを待つ。
普通ならそれでいい。
普通なら。
しかし数日後、さらに悪い知らせが入った。
「殿」
「何だ」
「兵の集まりが悪うございます」
「何?」
「予定よりかなり遅れております」
「なぜだ」
家臣は言いにくそうに答えた。
「……八郎の炊き出しです」
「またそれか」
「はい」
話を聞けば聞くほど、相良の領主の顔が険しくなる。
「どういうことだ」
「八郎側が領境で話を広げています」
「何を」
「町は焼かない」
「……」
「畑も荒らさない」
「……」
「寺や神社へ逃げれば飯を出す」
「……」
「帳面を書けば借金も見る、と」
領主は黙った。
これは厄介だった。
普通の侵略者なら簡単だ。
「敵が来るぞ」
と言えば民は恐れる。
城へ入り、領主の下につく。
だが八郎は違う。
「敵ではない」
「暮らしを良くする」
そう言っている。
しかも実績がある。
薩摩仙台で本当に借金を消したという噂。
湯浴み。
市。
飯屋。
それがもう流れている。
「……兵はどれだけ集まる」
「三千予定でしたが」
「うむ」
「二千……良くて二千五百かと」
「そこまで落ちるか」
「はい」
家臣は悔しそうに言った。
「無理に徴兵すれば集まります」
「だろうな」
「ですが」
領主が続きを言う。
「八郎の思うつぼだ」
「はい」
無理やり連れていく。
すると民は思う。
『相良は無理やり戦わせる』
一方。
八郎は飯を配る。
借金を見る。
「……嫌な攻め方をする」
領主がつぶやいた。
そこへ阿蘇からも知らせが来る。
内容は同じだった。
阿蘇領境でも炊き出し。
同じ話。
同じ帳面。
同じ噂。
「阿蘇は?」
「二千五百ほど集められるようですが」
「出せる兵は」
「領境を空けるわけにもいかず、こちらへの援軍は千五百程度とのこと」
「つまり」
領主が計算する。
「こちら二千五百」
「はい」
「阿蘇千五百」
「はい」
「四千」
「……」
「向こうは七千五百」
誰も何も言わない。
倍近い差。
しかも兵の質も問題だった。
八郎側は飯がある。
銭がある。
士気がある。
こちらは借金と不満を抱えている。
「籠城しても……」
家臣がつぶやく。
「民がどこまで協力するか」
そこだった。
城は石では守れない。
人が守る。
その人の心が揺れている。
領主は苦笑した。
「戦の前に攻められておるな」
「はい」
「槍ではなく飯で」
誰も否定できなかった。
「八郎という男……いや、子供だったか」
「三歳と聞いております」
「三歳児に領国を揺さぶられているのか、我らは」
苦笑が漏れる。
だが笑い事ではない。
「準備を進めろ」
「はっ」
「ただし無理な徴兵はするな」
「よろしいのですか」
「ここで民を敵に回したら終わりだ」
領主は地図を見る。
「戦う前から、あやつの策の中だ」
そう言って深いため息をついた。
相良攻略。
八郎の戦は、兵を動かす前から始まっていた。




