1533年11月2週目。八郎商会の市が稼働し農民の借金が3日で40万文分消えて活気が出てきたので縁談と八郎方式の導入に意欲が出るwww
島津分家の館。
八郎商会の市が動き始め、わずか数日で農民の借用証文が何十万文単位で消えていく。
その報告を聞いた当主は、しばらく帳面を眺めたまま黙っていた。
「……これは、思った以上じゃな」
家臣たちも頷く。
「はい」
「正直、ここまでとは」
「農民たちの顔色が変わっております」
たった数日。
しかし効果は明らかだった。
長年背負っていた借金。
親から子へ残りそうだった借用証。
それが目の前で消えていく。
「八郎殿が民に慕われる理由が分かったわ」
当主実久は苦笑する。
「城を高くするより」
「飯を食わせ」
「借金を消し」
「湯に入れる」
「その方がよほど人の心を掴むか」
しばらく考えたあと、顔を上げる。
「よし」
「次じゃ」
家臣たちが首を傾げる。
「次、でございますか?」
「そうじゃ」
「千代だけでは足りん」
その言葉に周囲がざわついた。
「姫様以外にも、ということで?」
「そうじゃ」
当主は真剣だった。
「勘違いするな」
「八郎家に媚びるという話ではない」
「縁を作るということじゃ」
「これから、あの家は大きくなる」
誰も否定できなかった。
すでに八郎領は周辺を飲み込み始めている。
しかも刀ではなく、市と飯と帳面で。
「千代が一郎殿に嫁ぐ」
「それだけでも大きい」
「だが、八郎殿には兄が多い」
「二郎殿、三郎殿、その下もおる」
そこで当主は家臣を見る。
「探せ」
「何をでございますか」
「娘じゃ」
周囲が一瞬止まる。
「重臣の娘」
「遠縁の娘」
「姫筋」
「とにかく見込みのある者を探せ」
指を折りながら条件を出す。
「農作業を嫌がらん者」
「田畑を見るのが好きな者」
「狩りに興味がある者」
「弓ができる者」
「料理好きな者」
「人付き合いが上手い者」
「男衆から好かれそうな明るい者」
「そういう娘を選べ」
家臣が苦笑した。
「殿」
「ずいぶん元気になられましたな」
当主は笑う。
「当たり前じゃ」
「まだ負けたわけではない」
「いや、そもそも勝ち負けの話ではない」
そして少し声を落とす。
「形だけ見れば、いつか八郎家の下につくような形になるかもしれん」
「だが」
「中に入れば違う」
「千代がおる」
「さらに何人か縁ができれば」
「島津分家の血も考え方も、あの家の中に残る」
家臣たちは納得した。
「つまり、外から争うより中で影響力を持つ、と」
「そうじゃ」
「八郎殿自身も言っておった」
『気付いたら八郎家なのに中身は島津分家になっているかもしれませんよ』
あの冗談。
今なら分かる。
あれは半分、本当だった。
「千代にも伝えよ」
「はい」
「無理やり縁談を作れとは言わん」
「ただ、一郎殿の館を中心に、人が集まる場所を作れ」
「遊学でもよい」
「技術交流でもよい」
「湯浴みでも宴でもよい」
「接触する機会を増やせ」
家臣が笑う。
「急ぐのですか?」
「ゆっくりなのですか?」
当主も笑った。
「分からん」
「分からんが急げ」
「八郎殿の動きは早すぎる」
「半年待ったら状況が変わっておる」
その言葉には全員納得した。
あの三歳児の一年は、普通の大名の十年に近い。
「それと」
当主は続ける。
「湯浴みじゃ」
「あれも調べよ」
「村の湯浴み」
「市の湯浴み」
「あれは欲しい」
家臣が頷く。
「冬場、体を温められるだけでも民は喜びます」
「さらに薪割り、掃除、管理で仕事になりますな」
「そうじゃ」
「冬は農民の仕事が減る」
「そこに仕事を作る」
「八郎殿はそこまで考えている」
感心するしかなかった。
「千代と一郎殿の館を窓口にする」
「村からの願い」
「必要な技術」
「欲しいもの」
「全部そこで聞け」
「そして八郎殿へ繋ぐ」
家臣は苦笑する。
「まるで新しい役所ですな」
「そうじゃな」
「しかし、それが必要になる」
そして話題は武士へ移った。
「侍衆にも伝えよ」
「はい」
「もし八郎家が戦になれば」
「助ける」
空気が変わる。
「相手は?」
「恐らく肥後」
「相良」
「阿蘇」
「八郎殿はそう見ている」
「戦になる可能性は高い」
家臣が頷く。
「兵を出しますか」
「出す」
「千代の嫁ぎ先じゃ」
「そして何より……」
当主は笑った。
「たぶん銭も出る」
その言葉に周囲も笑った。
「確かに」
「八郎様なら兵糧代どころか褒美まで出しそうですな」
「そういう男じゃ」
しかし笑いながらも、全員理解していた。
これはただの援軍ではない。
新しい時代への参加だった。
「しかし……」
当主は深く息を吐く。
「忙しくなったな」
「少し前まで島津本家との争いを考えていた」
「それが今は」
「娘を嫁がせ」
「市を作り」
「湯浴みを作り」
「肥後を見る話をしている」
家臣が笑う。
「全部、三歳児が来てからですな」
「ああ」
当主も笑う。
「恐ろしい三歳児じゃ」
「だが」
「あやつの隣に立つなら」
「こちらも走らねば置いていかれる」
こうして島津分家は、戦ではなく縁と商いによって、八郎家との結び付きを深める方向へ
大きく舵を切ることになった。




