1532年12月3週目。今月2度目の市での店。八郎、銭の先を見る。野菜の天ぷら、魚の天ぷら。鮪を見据える。
二度目の大きな商い。
結果は成功だった。
前と同じものを作り。
前より少し上手く回せた。
それが何より大きかった。
偶然ではない。
続けられる。
そう分かったからだ。
翌日。
いつものように兄様たちと寺へ向かう。
「和尚様、聞いてください!」
どうせ今日も兄様たちが騒ぐ。
そう思っていた。
だが、その前だった。
「あの……八郎」
声をかけられた。
前に俺へ文句を言ってきた子たちだった。
「はい?」
少し気まずそうにしている。
「この前は……悪かった」
「え?」
「調子乗るなとか言って」
頭を下げられた。
「父ちゃんと母ちゃんに聞いたんや」
その子は言った。
「卵のこと」
「卵ですか」
「ああ」
「八郎の家が買ってくれて助かるって」
話を聞く。
どうやら家で怒られたらしい。
「確かに」
「いっぱい買うなら値は少し上げることもあるって言ってた」
「はい」
「それは仕方ないです」
俺は頷いた。
急に大量に必要と言えば、集める方も大変だ。
「でも」
その子は続ける。
「銭になるのはありがたいって」
「税もあるし」
「必要な物も買えるからって」
少し安心した。
「あと」
「はい?」
「寺に寄進してるって聞いた」
「ああ」
「していますね」
「お前、本当に変やな」
「え?」
「二歳半が寄進って何やねん」
周りの子も笑う。
前とは違う笑いだった。
「しかも年末、炊き出しするんやろ?」
「その予定です」
「すごいな」
その言葉には、前のような棘はなかった。
少しだけ。
受け入れられた気がした。
その後。
いつものように和尚様のところへ行く。
当然、兄様たちは騒いだ。
「和尚様!」
「また売れました!」
「父上も三郎兄様も、もう普通に作れるんです!」
和尚様は笑う。
「最近は毎回それじゃな」
そして俺を見る。
「八郎」
「はい」
「今回は?」
「売上は千六百文ほどです」
「……もう驚かんぞ」
と言いながら、少し驚いていた。
「あと」
「何じゃ」
「市の顔役の方へ挨拶しました」
「ほう」
「百文、納めました」
和尚様の目が細くなる。
「自分で考えたのか」
「はい」
「大きくなりすぎていますので」
「ふむ」
「場所を使わせてもらっている以上、筋は通した方がいいかと」
和尚様は頷く。
「本当に商人みたいなことを言う」
「ただ」
俺は続けた。
「怖いこともあります」
「何じゃ」
「顔役に知られたということは」
「うむ」
「いずれ領主様にも伝わるかもしれません」
和尚様の表情が変わった。
「……そこまで考えるか」
「はい」
今は小さい。
でも。
銭が動けば必ず目立つ。
「儲かっていると思われれば」
「税を増やされる可能性もあります」
「だから」
「いつかこちらからご挨拶する必要があるかもしれません」
「寄進か」
「はい」
和尚様は額を押さえた。
「八郎」
「はい」
「本当に三歳前か」
「来月です」
「そこではない」
いつもの返しだった。
「普通、その年なら」
「はい」
「今日何を食べるか考えるくらいじゃ」
「そうですね」
「領主にどう見られるか考える童など知らん」
「まあ」
和尚様がお茶を飲む。
「次は何をするつもりじゃ」
「揚げ物です」
「また出たな」
「はい」
「油を使います」
説明する。
「茄子」
「ごぼう」
「山菜」
「大葉」
「そういうものに衣をつけて揚げます」
「野菜を油で?」
「はい」
「香りが出ます」
「海のものも試したいです」
「魚か?」
「はい」
「小エビなどですね」
「小エビか」
「あと、できれば鯖」
和尚様が驚く。
「鯖?」
「はい」
「安く手に入ればです」
「鰹ではないのか?」
「高いです」
即答した。
和尚様が笑う。
「魚の値まで見るか」
「大事です」
「高いものを高く売るのは普通です」
「安いものを美味しくする方が大事です」
「将来的には」
「まだあるのか」
「はい」
「鮪を使いたいです」
和尚様が止まる。
「鮪?」
「はい」
「あんなもの、食うところ少ないぞ」
この時代。
傷みやすい魚。
特に脂の部分は嫌われる。
でも。
「赤身なら使えると思います」
「どうする」
「味噌です」
「味噌?」
「はい」
「味噌で煮ます」
「しっかり火を通します」
「汁にもできます」
和尚様は黙った。
そして。
笑った。
「三歳児の挑戦ではないな」
「失敗するかもしれません」
「分かっています」
「でも」
「試さないと分かりません」
和尚様は楽しそうに言った。
「八郎」
「はい」
「お前を見ていると飽きんな」
そして茶を飲む。
「次は野菜を揚げ」
「その次は魚」
「最後は鮪か」
「はい」
「三歳になる前から、海まで相手にするとはな」
俺は苦笑した。
確かに。
少し急ぎすぎかもしれない。
でも。
できることからやる。
それだけだった。




