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1532年12月。今月2度目の飯屋開店。八郎、市の顔役に知られる。顔役も飯がうまいと聞いていたが3歳児がまとめていると知らずビビるwww

 十二月に入ってからも、日々は忙しく過ぎていった。

 寺で学び。

 和尚様と話し。

 家では帳面を見る。

 そして次の市に向けて準備をする。

 前とは違う。

 もう「試し」ではなかった。

「今回は前と同じでいきます」

 俺がそう言うと、兄様たちは少し驚いた。

「新しい飯はないんか?」

 三郎兄様が聞く。

「ありません」

「珍しいな」

「まずは同じことを、同じようにできるようにしたいです」

 新しいことを増やすのは簡単。

 でも続かなければ意味がない。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 そして市の日。

 前回と同じく二つ場所を借りた。

 一つは混ぜ飯とつみれ汁。

 もう一つは卵と油を使った炒め飯。

「父上、大丈夫ですか?」

「任せろ」

 父上は笑った。

 前回とは違う。

 手つきが慣れていた。

 火を見る。

 客を見る。

 時々、母上の汁の様子も見る。

「汁、大丈夫か?」

「大丈夫ですよ」

「少し煮詰まったら水を足して」

「分かった」

 まるで普通に店をしているようだった。

 三郎兄様も鉄鍋の前に立つ。

 油を入れる。

 卵を流す。

 じゅっ、という音。

「この瞬間、好きやな」

 三郎兄様が笑う。

「楽しいですか?」

「楽しい」

「田仕事とは全然違う」

 鍋を振る。

 まだ少しぎこちない。

 でも十分だった。

「八郎」

「はい」

「味見してくれ」

 小さく口に入れる。

「……」

「どうや?」

「少しだけ」

「うん」

「味噌の上澄みを足した方がいいかもしれません」

「香りです」

「味じゃなくて?」

「はい」

「食べた時より、近づいた時に腹が減るようにしたいです」

 三郎兄様が呆れる。

「お前、本当にどこ見てるんや」

 客も増えていた。

「おう、坊主」

 前にも来た男たちだった。

「今日もやっとるな」

「ありがとうございます」

「今日は負けてくれるんか?」

「何人ですか?」

「三人や」

「でしたら」

 少し考える。

「まとめて頼んでくれるなら二割ほど引きます」

「また計算早いな」

 男が笑う。

「飯より坊主見る方がおもろいわ」

「飯も食べてください」

「分かっとるわ」

 そんな会話も増えた。

 夕方になる前。

 ほとんど売り切れた。

 前より早い。

 そして片付けた後。

 銭を数える。

「……千六百文ほどあります」

 父上が呟いた。

 もう驚かない。

 いや。

 驚いているけど、慣れてきている。

「八郎」

「はい」

「安定してきたな」

「はい」

 それが一番大きかった。

 偶然ではない。

 同じことをして、同じように売れた。

 ただ、そこで終わりではない。

「父上」

「なんじゃ」

「百文、別にしてください」

「何に使う」

「市のまとめ役の方へ」

 父上はすぐ理解した。

「挨拶か」

「はい」

「遅いぐらいです」

 大きくなる前に。

 敵になる前に。

 顔を合わせる。

 片付けたあと、父上と一緒に市の顔役の家へ向かった。

「失礼します」

「おう」

 出てきた男は、こちらを見る。

「ああ」

「あれか」

「最近、端の方で飯売ってるところやな」

「はい」

 父上が頭を下げる。

「ご挨拶が遅れました」

「今後も市で商いをさせていただきたいと思いまして」

「よろしくお願いします」

 そして百文を差し出した。

 男は笑った。

「律儀やな」

「最近噂になっとるぞ」

「そうなんですか?」

「ああ」

「あそこの飯はうまいってな」

 顔役は俺を見る。

「母ちゃんが作っとるんか?」

「はい」

 俺が答える。

 すると。

「いや、坊主には聞いとらん」

「あ」

 父上が笑う。

「いえ」

「この子でいいんです」

「何?」

「料理を考えているのは、この八郎です」

 顔役の動きが止まった。

「……は?」

「この子?」

「はい」

「いやいや」

 顔役は笑った。

「冗談やろ」

「何歳や」

「来月三歳です」

 俺が答える。

「だから坊主に聞いとらん」

 また言われた。

 父上が苦笑する。

「ですが本当なんです」

「最初の混ぜ飯も」

「魚のつみれ汁も」

「卵の炒め飯も」

「八郎が考えました」

 顔役は黙る。

「あの卵の飯」

「あれもか?」

「はい」

「男衆が作っとるって聞いたぞ」

「はい」

「父上や兄様でも作れるようにしました」

「母上だけでは大変なので」

 顔役は俺を見る。

「……」

「坊主」

「はい」

「お前、何者や」

 困った。

「庄屋の八男です」

「そういう意味ちゃうわ」

 最近よく言われる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 父上が笑う。

「最近は、この子目当てで来る客もおります」

「分かる気がするわ」

 顔役は大きく笑った。

「飯もうまい」

「商いもうまい」

「その上、三歳児」

「そら噂になる」

 そして百文を見る。

「分かった」

「今後も続けな」

「ありがとうございます」

 帰り道。

 父上が言った。

「八郎」

「はい」

「また一つ、道が広がったな」

 そうかもしれない。

 飯を売るだけではない。

 人に知ってもらう。

 認めてもらう。

 信用を積む。

 商いは、少しずつ村の中へ根を張り始めていた。

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