1533年10月。八郎の話もひと段落し、縁談の話に話が移る。一郎、次郎、三郎の周囲は人気。一郎と千代姫が気になる八郎
七千の戦の話が一段落すると、八郎は米焼酎の器を置いて笑った。
「まあ、この話は一晩では終わりません」
「一週間でも二週間でもいていただけるなら、ゆるゆる話しましょう」
忠良が笑う。
「まだ話があるのか」
「ありますよ」
「むしろ私は島津のお話を聞きたいです」
「島津家の教育とか」
「武士としての考え方」
「生き様というんですかね」
「そういうものに興味があります」
貴久が少し驚いた顔をする。
「三歳で武士の教育に興味があるか」
「はい」
「うちは庄屋ですから」
「商売や帳面は教えられます」
「でも、人を率いる考え方とか、家を続ける考え方は武家の方が長い」
「それを寺子屋や領内の教育に落とし込めないかなと」
忠良は嬉しそうに笑った。
「面白いことを考える」
「まあ、その話は後日ゆっくりじゃな」
「はい」
八郎はニヤッとする。
「今日はそれより大事な話があります」
「縁談です」
その言葉に場の空気が少し柔らかくなる。
八郎は宴席の奥を見る。
「どうですかね」
「私は一郎兄様、次郎兄様、三郎兄様あたりは人気になると思ってたんですけど……」
見ると。
一郎、次郎、三郎の周囲には、島津本家、分家双方の姫や姫付きの女性たちが自然と集まっていた。
八郎が笑う。
「ほら」
「やっぱり」
母も笑う。
「まあ、あの三人は年頃やしな」
「ですね」
「それより下は、まず仲良くするところからじゃないですかね」
「六郎兄様や七郎兄様なんかは、遊び相手からでしょうし」
そこで八郎は自分で苦笑する。
「三歳児が何言ってるんだって話ですけど」
和尚が即座に突っ込む。
「ほんまじゃ」
「お前が一番おかしい」
周囲が笑った。
八郎は三郎を見る。
「あとは」
「三郎兄様は料理好きな方がいいと思うんですよね」
母もうなずく。
「ああ、それは思うわ」
「最初に飯屋を始めた時から、一番料理場を見てたからな」
「はい」
「料理を一緒に考えられる姫様とかなら、たぶん合います」
「三郎兄様の場合、身分より毎日一緒に鍋を見られる人じゃないかなと」
忠良が笑う。
「姫に鍋を振らせる気か」
「嫌なら無理ですよ」
「でも」
「料理を作る姫様って、領民から絶対人気出ますよ」
その言葉に周囲は納得する。
「次郎兄様は農ですね」
「一郎兄様も農」
「水車とか、芋とか、田畑とか」
「そこに興味がある人がいいと思います」
そこで八郎は首をかしげる。
「ただ一郎兄様は……」
「今となっては立場が難しいですね」
「庄屋の長男なのか」
「領主一族の長男なのか」
「そもそも下剋上だから上も下もよく分からないですけど」
忠良が笑う。
「自分で言うか」
「事実ですから」
そんな話をしていると。
八郎の視線が止まる。
千代姫だった。
一郎の近くにはいる。
ただ、周囲の姫たちが楽しそうに話している輪に、少し入りきれていない。
「……千代姫ですね」
八郎がぽつりと言う。
分家当主も苦笑する。
「まあ、あやつはな」
「昔からああじゃ」
「弓や馬なら前に出る」
「だが、こういう場は苦手じゃ」
「でしょうね」
八郎は笑う。
「二週間見てましたけど」
「千代姫も一郎兄様も」
「どっちも鈍いです」
「鈍い?」
「はい」
「周りから見たら分かるのに、本人たちだけ分かってないやつです」
母と侍女たちは笑いをこらえる。
「なので」
「どこかで尻に火をつけないと難しいかなと」
千代の父実久が腕を組む。
「ふむ」
「しかし、それも本人の勝負ではないか?」
「ここで勝ち上がる根性も見たいところじゃ」
「いやー」
八郎は苦笑する。
「それを今日明日で求めるのは酷ですよ」
「千代姫、猪相手なら突っ込みますけど」
「恋相手だとたぶん猪より弱いです」
周囲が吹き出す。
「八郎殿、娘にひどくないか」
「褒めてます」
「真面目なんです」
「ただ」
「こちらで接触機会を増やすことはできます」
「でも最後は本人同士です」
「好きだと言えないなら」
「こちらも押しようがないです」
母が笑う。
「三歳児に恋愛指南される兄たちも大変やな」
「私は精神年齢高めなので」
「身体は三歳や」
また笑いが起きる。
「じゃあ」
八郎が立ち上がる。
「一郎兄様、次郎兄様、三郎兄様に聞いてみましょう」
「本人たちがどう思ってるか」
忠良も面白そうに立つ。
「見物じゃな」
貴久も続く。
「戦評定より面白いかもしれん」
一同は婚活用に仕切られた場所へ向かう。
中では三兄弟がそれぞれ囲まれていた。
三郎は料理の話。
「猪肉は味噌と合わせるとうまいんです」
「臭みが消えるので」
料理好きな姫が目を輝かせる。
「私も作ってみたいです」
「本当ですか?」
三郎は嬉しそうだった。
次郎は畑の話。
「芋は今年増やしてます」
「米だけに頼らないように」
姫の一人が尋ねる。
「武士なのに畑を見るのですか?」
次郎は笑う。
「畑がなかったら兵も食えませんから」
そして一郎。
周囲の姫たちに丁寧に答えている。
ただ少し離れたところに千代姫。
八郎はニヤリとした。
「一郎兄様」
「どうですか?」
一郎が振り返る。
「どうって?」
「いや」
「楽しそうですね」
「……普通に話してるだけだぞ」
八郎、母、千代の父。
三人が同時にため息をついた。
「これは時間かかりますね」
「じゃな」
「ほんまやな」
その声に千代だけが顔を赤くしていた。




