1533年10月3週目。一通り八郎領についての説明が終わる。宴会の際に一部を幕で囲って婚活の場にしようと思うと話す八郎。
「まあ、今日はこれぐらいですかね」
一通り案内を終えた八郎がそう言うと、島津本家の一行はまだ少し呆然としていた。
市。
寺社市。
訓練。
湯浴み。
帳面合わせ。
どれも聞いたことのない仕組みだった。
忠良が笑う。
「一日では飲み込めんな」
「でしょうね」
八郎も笑った。
「僕も一年でこうなるとは思ってませんでしたし」
「お主が言うか」
周りから笑い声が出る。
「ただ、後で大きめの市も見てもらえたらと思います」
「大きめ?」
「はい」
「普段の市とは別で、領内の人が集まるやつですね」
そう話しながら八郎は続けた。
「あと、おそらくですけど」
「島津分家の方も姫様方を連れて来られると思います」
その言葉に忠良と貴久が目を合わせる。
「やはり読んでおるか」
「まあ……」
八郎は苦笑する。
「千代姫様が来られてますからね」
「島津同士の事情は僕には分かりませんけど」
「片方だけ縁ができるのは困るでしょう?」
忠良が笑う。
「本当に三歳か」
「よく言われます」
「それでですね」
八郎が少し楽しそうに言う。
「せっかくなので、宴会を使おうと思っています」
「宴会?」
「はい」
「うちは週二回、宴会しています」
島津家臣が驚く。
「週二回も?」
「はい」
「その代わり週五日は訓練です」
「槍、弓、山歩き、獣対策」
「その後の湯浴み」
「その維持費が必要なんですよ」
「薪代、人件費、飯代」
「全部ただでは続きません」
「だから宴会の日に会費を取ります」
「一人五十文くらいですね」
「五十文……」
「高いと思います?」
八郎が聞く。
しかし案内を受けた後では誰もそう言えなかった。
飯は豪華。
酒もある。
情報交換もできる。
領主とも話せる。
むしろ安い。
「その銭で五日分の訓練を支えているのか」
「はい」
「遊びながら維持しています」
忠良が感心する。
「遊びを仕組みにしておる」
「それで、その宴会場の一部を幕で区切りまして」
「幕?」
「はい」
「姫様方とうちの兄弟で話せる場所を作ろうかなと」
そこで千代姫が少し反応した。
「……縁談、ですか」
「はい」
八郎は普通に答える。
「ただ問題がありまして」
「問題?」
「人数が多すぎます」
「島津本家の姫様」
「分家の姫様」
「重臣の娘様」
「うちの兄弟」
「誰が誰かわからなくなるでしょう?」
確かにそうだった。
「なので最初は」
八郎は真面目な顔で言う。
「首から札でも下げてもらおうかと思ったんです」
「札?」
「はい」
「私は誰々の娘です」
「名前は何々です」
「趣味は何々です」
「みたいな紙を書いて」
「胸にぺたっと」
一瞬沈黙。
そして――
「ぶはっ」
忠良が吹き出した。
「それはない」
貴久も笑う。
「姫に荷札をつける気か」
「ですよねえ」
八郎も笑った。
「僕も途中で、これはまずいなと思いまして」
「何かいい方法ないですかね?」
千代姫の侍女が笑いながら言う。
「小さな飾り札にして、腰紐につけるなどなら良いのでは?」
「なるほど」
「花とか模様を入れて」
「家ごとに分けるとか」
「それいいですね!」
八郎が喜ぶ。
「やっぱり僕だけで考えると駄目ですね」
「あと料理です」
八郎が続ける。
「今回、珍しいものを出します」
「珍しいもの?」
「芋です」
「芋?」
島津武士たちは少し微妙な顔をした。
「芋など珍しくも……」
「甘いんです」
「甘い?」
空気が変わる。
「琉球から入れた芋なんです」
「今年から育てています」
「水が少ない土地でも育つ」
「痩せた土地でも育つ」
「飢饉対策になります」
忠良の目が変わる。
「それは本当か」
「はい」
「しかも焼くだけで甘い」
「一度みんなで食べてもらいたいんです」
「甘味は人を笑顔にしますから」
さらに料理の話になる。
「猪鍋」
「鹿肉」
「魚のつみれ」
「マグロ煮」
「団子」
「蜂蜜饅頭」
「この一年で作った料理を並べます」
貴久が言う。
「まるで祭りじゃな」
「そうですね」
「でも祭りだけじゃないです」
「商人は商談する」
「農民は困り事を話す」
「侍は情報を集める」
「若い男女は縁を作る」
「全部まとめています」
忠良は腕を組む。
「……恐ろしく実用的な宴じゃな」
「普通、宴とは楽しむためのものじゃ」
「お主の場合、楽しませながら領地を動かしておる」
八郎は笑う。
「楽しくないと続かないですから」
「借金返せー」
「働けー」
「訓練しろー」
「だけだと嫌になるでしょう?」
「だから」
「飯食って」
「湯浴みして」
「笑って」
「気づいたら領地が良くなってる」
「それが一番いいかなって」
忠良はしばらく黙った後、笑った。
「貴久」
「はい」
「この童から学べるものは多そうじゃ」
貴久もうなずく。
そして少し離れた場所では――
一郎と話す千代姫。
それを見る島津本家の姫たち。
これから始まる宴と縁談。
八郎はその様子を見ながら笑う。
「なんか面白くなってきましたね」
その一言に、母と和尚がため息をついた。
「八郎」
「はい?」
「人の縁談を遊びにするな」
「いやいや、ちゃんと考えてますよ」
「半分くらいは」
「残り半分は?」
「楽しみです」
「やっぱり遊んでるやないか」
そう言われて、館中に笑い声が響いた。




