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1533年10月3週目。千代姫とのやり取りの中、島津本家からも視察と婚活が来る旨を伝える。動揺する千代姫

それから数日後。

八郎は千代姫を呼んだ。

「千代様」

「はい?」

「とりあえず、あと一週間ほど鳥獣対策お願いしますね」

千代は頷く。

「もちろんです」

「鹿や猪を減らすことが民のためになるなら、喜んで」

八郎は笑う。

「助かります」

「その間は一郎兄様と一緒に動いてください」

その言葉に、後ろにいた侍女たちが小さく笑った。

千代は少しだけ表情を固くする。

「……それは案内役として、ですよね?」

「もちろんですよ?」

八郎はにこにこしている。

「何か他にあります?」

「ありません」

即答。

その様子を見て母と和尚が苦笑する。

「八郎」

「遊ぶな」

「いやいや和尚様、私は真面目ですよ」

そう言いながら、八郎は続けた。

「それとですね」

「実は二、三日前に島津本家から文が届きまして」

その瞬間、千代の顔つきが変わった。

「本家から……?」

「はい」

「八郎領を見たいそうです」

「市、農業、商い」

「それから帳面合わせも興味があるみたいですね」

千代は少し考える。

当然だった。

本家が動く。

それは分家にとって軽い話ではない。

「それと」

八郎がさらっと付け足す。

「縁談の話もあります」

「……縁談?」

明らかに千代の声色が変わった。

「はい」

「姫君や重臣の娘さんも何人か連れてくるそうです」

「視察半分」

「縁談半分でしょうね」

周りの侍女たちが千代を見る。

千代は平静を装う。

「そうなのですね」

「それは……父上にも伝えた方がよさそうです」

「そうですね」

八郎は頷いた。

「だから先にお話しました」

「今、千代様はこちらに来ていただいています」

「その分、情報は先に渡した方が公平でしょう?」

千代は少し驚いた。

三歳児とは思えない気遣い。

「ありがとうございます」

「父も助かると思います」

八郎はさらに言った。

「ただ、一つお願いがあります」

「何でしょう」

「うちにいる間は、島津同士の争いはなしでお願いします」

「……」

「本家でも分家でも」

「援軍を頼まれてもうちは動きません」

「戦のお手伝いはしません」

「でも」

「飯を作ること」

「商いを考えること」

「借金を減らすこと」

「そういう相談ならします」

千代はじっと八郎を見る。

「本当に不思議な方ですね」

「よく言われます」

八郎は笑った。

「それでですね」

「たぶんですが」

「ここから縁談が始まります」

「……」

「一郎兄様から七郎兄様まで」

「まあ私はまだ三歳なので置いておいて」

母が横から突っ込む。

「三歳が一番偉そうに話しとるけどな」

みんな笑う。

「兄様方には話が来ると思います」

「特に」

「一郎兄様」

「二郎兄様」

「三郎兄様」

千代が反応する。

「なぜです?」

「簡単です」

八郎は指を折る。

「一郎兄様は農業と現場」

「二郎兄様も同じく農村を見る力」

「三郎兄様は料理と市」

「今の八郎領を見るなら、この三人は分かりやすいんです」

「……そうですか」

千代は少しだけ視線をそらす。

八郎は尋ねる。

「千代様はどう思われます?」

「どう、とは?」

「一郎兄様です」

「!」

侍女たちの目が輝く。

千代は慌てた。

「別に私は……」

「ただ」

「ただ?」

「一郎様が良い方なのは分かっています」

「鹿狩りでも、民への接し方でも」

「偉ぶらず」

「真面目で」

「……」

そこで止まる。

侍女が笑う。

「続きは?」

「ありません」

「ですが本家の姫様が一郎様を気に入ったら?」

「それは……」

千代の返事が詰まった。

「選ぶのは一郎様ですから」

「私がどうこう言う話ではありません」

言葉は正しい。

だが顔は納得していない。

母が吹き出す。

「かわいいなあ」

「母上」

八郎が笑う。

「千代様」

「急ぐ必要はありません」

「でも」

「言わないと伝わらないこともありますよ」

「三歳児に恋を語られるとは思いませんでした」

「中身は大人なので」

「何を言ってるんですか」

皆が笑った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その後、八郎は言った。

「では今日、帳面合わせをします」

「本家が来る前に」

「今の八郎領がどう動いているか見てもらってください」

「それを踏まえて、お父上に文を書かれるといいと思います」

「早く来た分」

「少しだけ有利になりますから」

千代は頭を下げた。

「お気遣いありがとうございます」

「父も喜びます」

八郎は首を振る。

「島津本家も分家も」

「どちらも敵にならないのが一番です」

「戦より」

「飯食って話した方が安いですから」

和尚がため息をつく。

「また銭勘定か」

「大事ですよ」

八郎は笑う。

「戦は借金増えますから」

その言葉に、千代は思った。

父に伝えなければならない。

八郎領は、ただ豊かな土地ではない。

考え方そのものが違う土地なのだと。

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