1533年10月2週目~ 島津分家の姫が鷹狩を理由に領内へ入れてくれとの申し出。鷹狩より鳥獣狩りを2週間してくれたら10万文出すし来てよという八郎www
十月二週目。
薩摩南部。
島津分家の館では、当主・島津家久が家臣たちと向き合っていた。
目の前に広げられているのは、北薩から肥後南部にかけての勢力図。
家臣の一人が渋い顔で言う。
「八郎領……また広がりましたな」
「薩摩川内から始まり、北へ北へと」
「今や肥後南部まで合わせれば二十万石近い勢力」
「無視できる相手ではありません」
家久は腕を組んだ。
「分かっておる」
「我らだけなら七、八万石」
「従う国人衆を合わせればまだ張り合えるが……」
そこで少し笑う。
「だが、あれは普通の領主ではない」
家臣たちも黙る。
相良と阿蘇の連合軍。
七千もの兵を送り込んだにもかかわらず、八郎は守り切った。
しかも、その後に領地を奪うこともしなかった。
捕虜を飯でもてなし、返した。
「攻める相手ではない」
家久は断言した。
「守りが固いというだけではない」
「民が離れん」
「それが一番厄介じゃ」
家臣が頷く。
「毎日のように館に民を集め、飯を出し、話を聞いているとか」
「市も盛況」
「商人衆も味方」
「証文を消しているという話もあります」
家久は笑った。
「三歳児がな」
「まったく訳が分からん」
そこで家久は奥へ声をかけた。
「千代、さき」
現れたのは二人の娘。
姉の千代は弓も馬も扱う、いわゆる姫武者。
妹のさきは少し控えめだが、人を見る目がある娘だった。
「八郎領へ行ってこい」
千代が眉を上げる。
「偵察ですか?」
「違う」
家久は笑う。
「そんな言い方をしたら角が立つ」
「鷹狩りがしたいと文を書く」
「そのついでに見てこい」
千代は少し不満そうに言う。
「父上」
「私に嫁探しでもさせるつもりですか?」
家久は笑った。
「それも悪くない」
「八郎には兄が七人いるそうじゃ」
「良い男がおれば拾ってこい」
すると千代は即答した。
「私より弱い男は嫌です」
部屋が静まる。
そして家臣たちが苦笑した。
「姫様……それでは相手がおりませぬ」
家久もため息をつく。
「だから嫁ぎ先が決まらんのだ」
「まあよい」
「見てこい」
「噂ではなく、自分の目でな」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後。
八郎の館。
島津家久からの文を読んだ八郎は首を傾げた。
「鷹狩り……ですか」
和尚が聞く。
「どう見る?」
八郎は笑う。
「領内を見たいんでしょうね」
「でしょうな」
「いきなり視察させてくれ、では警戒されますし」
「鷹狩りなら自然です」
父が心配そうに言う。
「どうする?」
八郎はあっさり答えた。
「来てもらいましょう」
「隠すものないですし」
そして返事を書く。
『鷹狩りも結構ですが、できれば鹿と猪をお願いします』
『領内で鳥獣被害がありますので』
『二週間で十万文お支払いします』
それを見た家族が固まる。
母が言った。
「八郎」
「島津の姫様に仕事頼むんか?」
八郎は首を傾げる。
「え?」
「狩り得意なんですよね?」
「なら助かります」
和尚が笑う。
「相変わらずじゃな」
「相手が姫でも商売の話になる」
そして千代たちが到着する。
女武者たちを率いた一団。
馬、弓、槍。
普通の姫の行列ではなかった。
千代は八郎を見る。
小さい。
本当に三歳児。
だが周囲の武士も商人も、自然に八郎を中心に動いている。
「あなたが八郎殿?」
「はい」
「よろしくお願いします」
八郎は頭を下げた。
「遠いところありがとうございます」
「鹿と猪、助かります」
千代は少し笑った。
「本当に狩らせるつもりなのですね」
「もちろんです」
「肉になりますし、畑も守れます」
「十万文払う価値があります」
千代は思わず吹き出した。
「変わっていますね」
「よく言われます」
そして八郎は兄たちを紹介した。
「山や農地は一郎兄さん、次郎兄さんが詳しいです」
「案内役につけます」
「市は四郎兄さん、五郎兄さん」
「飯は三郎兄さんです」
千代が聞く。
「では八郎殿は?」
八郎は真顔で言った。
「僕は偉そうに座ってるだけです」
一瞬。
そして周囲が笑った。
千代も笑う。
「二十万石近い領主がそれを言いますか」
「いや、本当です」
「みんなが動いてくれてるだけです」
その言葉に千代は少し驚いた。
普通の領主なら功績を誇る。
だがこの子供は違った。
さらに八郎は言う。
「あ、帳面も見たければ見てもいいですよ」
その瞬間、父と母と和尚が止めた。
「八郎」
「それはさすがに見せすぎじゃ」
「他家の者ぞ」
しかし八郎は首を振った。
「でも知りたいのはそこでしょう?」
千代を見る。
「なぜ一揆が起きないのか」
「なぜ商人が協力するのか」
「なぜ相良と阿蘇を退けられたのか」
「そこを見たいんですよね?」
千代は黙った。
そして小さく笑う。
「はい」
「正直、見たいです」
八郎も笑った。
「正直ですね」
「そういう人、嫌いじゃないですよ」
その言葉に千代は目を丸くする。
そして笑った。
「三歳児とは思えない物言いですね」
「よく言われます」
その横で和尚がため息をついた。
「また変な縁を作りおったな」
母も苦笑する。
「八郎は本当に、人を巻き込むのだけは上手いわ」
こうして島津分家の姫たちは、ただの鷹狩りではなく――
八郎という不思議な領主の国作りを見ることになるのだった。




