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1533年10月2週目。国人衆の領主がもぬけの殻。逃げ出した。裏の帳簿も含め1700万文www八郎のもとに身を寄せ領土経営を委任予定

翌朝。

城は静かだった。

昨日まで威勢よく怒鳴っていた国人衆。

その側近たち。

彼らの姿は消えていた。

残されていたのは、一枚の書状だけ。

『我らは認めぬ』

『三歳児に領地を奪われたなどと言われるくらいなら、他家を頼る』

ある者は相良へ。

ある者は阿蘇へ。

ある者は菊池へ。

散り散りに逃げていった。

商人はため息をつく。

「まあ……」

「こうなる気はしておりました」

そして。

誰も触れられなかった蔵。

隠し部屋。

帳面箱。

すべてが開けられた。

一枚。

また一枚。

証文が積まれる。

最終的な数字。

千七百万文。

その場が沈黙した。

「……千七百万」

下級武士の一人が震えた。

「ふざけるな……」

そして怒号が飛ぶ。

「これだけ借りておいて!」

「最後は俺らに増税か!」

「給金も遅らせて!」

「武具も自分で買えと言って!」

「何をしていたんだ!」

庄屋衆・商人衆も怒りを隠せなかった。

「これでは貸せるわけがない」

「返す見込みもなく借り続けていただけです」

しかし八郎領から来た商人は静かだった。

「怒る気持ちは分かります」

「ですが……」

「これも国人衆の宿命でもあります」

周りが振り返る。

「どういうことですか」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

商人は帳面を指差す。

「小さな領地」

「周りは敵」

「相良」

「阿蘇」

「島津」

「常に誰かの顔色を見る」

「戦になれば兵を出す」

「武具を揃える」

「城を直す」

「外交の贈り物も必要」

「銭は出ていくばかりです」

「金山でもあれば別」

「銀山でもあれば別」

「大きな特産品でもあれば別」

「でも普通の土地では……」

「戦ばかりして黒字にするのは難しい」

武士たちは黙った。

怒りはある。

だが。

全部が私欲だけではないことも分かった。

「では八郎様はなぜ……」

商人は少し笑った。

「逆なんです」

「逆?」

「八郎様は戦で増やそうとしていない」

「市を作る」

「仕事を作る」

「物を作る」

「銭を回す」

「そして借金を消す」

「それに」

商人は苦笑する。

「八郎様は外交費をほとんど使いません」

「え?」

「まあ……」

「元が庄屋の子ですから」

「大名相手の付き合いなんてありませんしな」

周りから少し笑いが漏れる。

「でも逆に」

「商人」

「職人」

「農民」

「下級武士」

「そこに近い」

「毎日のように話を聞く」

「飯を食わせる」

「困りごとを見る」

「だから一揆になりにくい」

一人の農民が言った。

「本当に……」

「悪いようにはされませんか」

商人は頷く。

「保証はできません」

「ですが」

「少なくとも今まで八郎様が引き取った土地で」

「前より悪くなった土地はありません」

そして大量の証文を箱へ詰める。

「では」

「行きましょう」

「どこへ?」

「八郎様のところです」

「全部見せます」

「その上で」

「商人と利息をどうするか」

「侍の借金をどうするか」

「城の借金をどう返すか」

「一つずつ決めます」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

誰かが小さく言った。

「終わった……」

しかし商人は首を振った。

「違います」

「終わったんじゃありません」

「ようやく始まるんです」

「今までは」

「どれだけ悪いかすら分からなかった」

「今日初めて」

「本当の数字が出た」

「だから」

「ここからです」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

こうして。

千七百万文もの証文を積んだ荷車は、八郎領へ向かった。

誰も笑ってはいなかった。

だが。

絶望だけでもなかった。

なぜなら。

その先には。

同じような借金の山を、何度も崩してきた三歳児が待っていたからだった。

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