1533年10月1週目~2週目。肥後の国人衆のもとに救援物資30万文分と市の店の準備の一方、城へ債務の確認にいく。
数日後。
肥後の国人衆の領地へ、八郎領から荷車が次々と入ってきた。
米。
味噌。
干物。
野菜。
総額三十万文分。
それを見た民たちは目を丸くした。
「これ……全部?」
「八郎様から?」
運んできた者が頷く。
「まずは食べてくれとのことです」
「腹が減っていては話もできん、と」
その言葉だけで空気が変わった。
「これなら……」
「少なくとも飢えることはない」
「子供に飯を食わせられる」
それだけでも十分だった。
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そして数日後。
市が開かれた。
最初は十五か所。
八郎商会の者たちが店を出す。
しかし民は首をかしげる。
「なんで店なんじゃ?」
「飯を配るだけじゃないのか?」
説明役の商人が笑う。
「違います」
「ここからが八郎様のやり方です」
「材料を皆さんから買います」
農民たちが驚く。
「買う?」
「はい」
「買い叩きません」
「ちゃんと値を付けます」
「なら銭になるんか!」
「それもあります」
「でも本当の目的は証文です」
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「証文?」
「皆さんが抱えている借金」
「商家衆の貸している証文」
「その支払いに回します」
「物が動く」
「銭が動く」
「借金が消える」
「八郎領はそれを繰り返してきました」
最初は誰も理解できなかった。
しかし。
飯を食べれば分かる。
「……うまい」
誰かがつぶやいた。
魚のつみれ汁。
今まで捨てていた魚。
形の悪い野菜。
それが料理になる。
さらに。
「なんじゃこれは」
「甘い……」
蜂蜜饅頭。
団子。
甘味など祭りの日くらいしか口にできない者も多い。
「八郎様の土地では……」
「これを食えるのか」
誰かがぽつりと言った。
「そりゃ……入りたいと言うわ」
一方。
城では別の戦が始まっていた。
商人衆。
下級武士。
村代表。
そして領主。
全員を集めた帳面合わせ。
「では」
「城の借金を出してください」
商人が言う。
領主は渋い顔をする。
「……これじゃ」
出された帳面。
六百万文。
周囲がざわついた。
「六百万……」
「そんなに……」
しかし。
八郎領から来た商人たちは顔色を変えなかった。
「違いますな」
「え?」
「まだあります」
領主の顔が固まる。
「おそらく」
「千五百万文前後でしょう」
場が凍った。
「なぜ分かる!」
商人はため息をつく。
「見過ぎたんです」
「八郎様のところで」
「こういう土地を何度も」
「商人が貸さない」
「武具も買えない」
「侍への支払いも遅れる」
「その状態で六百万で済むわけがありません」
領主の側近が刀に手をかけた。
「それ以上探るなら……」
刀が抜かれる。
しかし商人は逃げなかった。
「抜いて」
「その先に何があります?」
静かな声だった。
「我々を斬る」
「証文を燃やす」
「それで?」
「明日から誰が銭を貸します?」
「誰が米を運びます?」
「誰が武具を売ります?」
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領主は歯を食いしばる。
「ならばわしを殺すか」
「それを決めるのは我々ではありません」
「八郎様でもありません」
「この土地の者です」
「ただ」
「今なら」
「追放で済むかもしれません」
「役を失っても」
「普通に働いて暮らす道はあるかもしれません」
「相良へ行く」
「阿蘇へ行く」
「菊池へ逃げる」
領主は叫ぶ。
商人は静かに返した。
「それは自由です」
「ですが」
「相良も阿蘇も先日八郎様に敗れました」
「あなた方を厚遇する余裕があるかは分かりません」
そして商人は帳面を指差した。
「我々が欲しいのは首ではありません」
「帳面です」
「全部出してください」
「そこからしか始まりません」
「利息をどうするか」
「返済をどう組むか」
「八郎様に相談するにも」
「本当の数字が必要なんです」
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外では民が飯を食べて笑っていた。
中では隠された借金が暴かれていく。
八郎の軍は来ていない。
刀も振っていない。
それでも。
一つの国人領は、確実に変わり始めていた。




