1533年10月1週目~2週目。揉めている国人衆の領地で市を出し救援物資を配ったのち城の債務の確認に行くように話す。
八郎は話を聞いた後、ふと商人衆の方を向いた。
「一つ聞いていいですか?」
「肥後の国人衆の領地で……」
「商家さん、農民さん、お侍さん、城に銭を貸している方っていますか?」
少し静かになる。
すると。
一人。
二人。
数人の商人が手を挙げた。
「ありますな」
「うちも少し」
「正直、回収できるか怪しいと思っておりました」
八郎は頷く。
「ならお願いがあります」
「一緒に行ってもらえませんか?」
「証文を集めてください」
「全部です」
「そして、できれば話し合いの場を作ってください」
商人たちは顔を見合わせる。
「八郎様が治めるということで?」
八郎は首を振った。
「まだ分かりません」
「一揆が収まるかもしれません」
「今の領主様が立て直すかもしれません」
「だから決めつけません」
「でも……」
「正直、厳しいと思っています」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
八郎は続ける。
「一揆で土地が荒れます」
「収穫も減ります」
「復旧にも銭が必要になります」
「そうすると、また借りる」
「でも貸してもらえない」
「最後は増税になる」
「同じことの繰り返しです」
周りの者たちは黙る。
「だからもし」
「うちで面倒を見ることになるなら」
「最初に全部見ます」
「城の借金」
「庄屋衆さんの証文」
「侍さんへの未払い」
「全部です」
肥後から来た者が言った。
「しかし……」
「領主様がそれを認めるでしょうか」
八郎は小さく息を吐く。
「分かりません」
「追放になるかもしれません」
「責任を取らされるかもしれません」
「でも」
「隠したままでは治せません」
そこで八郎は庄屋衆を見る。
「あとお願いがあります」
「利息です」
「全部確認した後」
「少し下げるとか」
「一時止めるとか」
「相談してもらえませんか?」
その瞬間。
肥後側の者たちが声を上げた。
「いやいやいや!」
「そんな簡単な話じゃありません!」
「我々がどれだけ頼んでも無理だったんですよ!」
「少し待ってくれ」
商人が口を開いた。
「八郎様の領地になるなら話は別です」
肥後側は固まる。
「なんでですか?」
商人は笑った。
「信用です」
「小さな国人衆に貸す」
「返せるかわからん農民に貸す」
「それと」
「八郎様が動かす領地に貸す」
「同じ利息になるわけがありません」
「でも借金はあるのでしょう?」
商人たちは笑った。
「ありますよ」
「正直に言えば……」
「全部合わせれば五千万文近いでしょうな」
「ご、五千万!?」
肥後側が驚く。
「そんな借金があって、なぜ潰れないんですか?」
八郎が苦笑する。
「だから僕も大変なんですよ」
「全部の領地を一気に受けるなんて無理なんです」
「でも」
「返す流れがあります」
「市を作る」
「仕事を作る」
「物を動かす」
「証文を消す」
「それを続けています」
商人が続ける。
「実際、八郎様は大量の証文を消しています」
「職人へのツケも払う」
「商人にも払う」
「だから貸せるんです」
「それに」
八郎は笑う。
「うちは一揆が起きにくいと思います」
「なぜです?」
「毎日話していますから」
「二日は宴会」
「五日は訓練と炊き出し」
「団子食べながら話を聞く」
「困っていること」
「領地の状況」
「全部話します」
「だから不満が溜まりにくい」
肥後側は困惑した。
「……よく分かりません」
八郎は笑った。
「そうだと思います」
「僕も説明だけで分かれと言われたら無理です」
「だからまず見てください」
「三十万文分の食料支援をします」
「それと市を出します」
「ただし最初から三十、四十は無理です」
「十五ほど」
「まず十五の市を開きます」
「原価五十万文以内くらいで」
「そちらの農家さんや商家さんから仕入れる」
「そこで証文がどう動くか見てください」
肥後の者たちは深く頭を下げた。
「分かりました」
「まずは戻って話します」
八郎もうなずく。
「急いでも壊れます」
「でも」
「ちゃんと向き合えば直せます」
そう言われた者たちは帰っていった。
そして商人衆は笑った。
「八郎様」
「また領地が増えそうですな」
八郎はため息をつく。
「だから僕は増やしたいわけじゃないんですって」
和尚が笑う。
「飯を食わせて希望を配った時点で遅いわ」
「人は希望がある方へ流れる」
八郎は困った顔でつぶやいた。
「本当に善意だったんですけどね……」
だがその善意こそが。
肥後の国を静かに揺らし始めていた。




