1533年10月1週目肥後の各領地の境目の国人衆の領地で一揆が発生。鎮圧に時間がかかる。一揆衆は八郎領へ手紙を出し傘下に入れて欲しい旨をしたためる。国人衆も今後を不安視する。
十月一週目。
相良と阿蘇の間にある国人衆の領地では、予想以上の混乱が起きていた。
最初は小さな不満だった。
「年貢が増えるらしい」
「また借金せなあかん」
「戦に負けた分を払わされるらしい」
そんな噂。
しかし、それは数日で大きく膨らんだ。
理由は一つではなかった。
先の戦に参加した者たちが帰ってきていたからだった。
「八郎領は違った」
「敵だった俺らにも飯を出した」
「温かい汁があった」
「腹いっぱい食えた」
最初は誰も信じなかった。
「敵に飯?」
「そんな馬鹿な」
だが話す者は一人ではない。
捕虜になった者。
運搬を手伝った者。
帰ってきた兵。
みんな同じことを言った。
「あそこでは証文が減っとる」
その言葉が一番大きかった。
借金。
利息。
返しても返しても減らないもの。
親から子へ残ると思っていたもの。
それが消える土地がある。
その噂は、火より早く広がった。
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そして、ついに一揆が起きた。
国人衆は最初、甘く見ていた。
「少し脅せば収まる」
「百姓など、兵を見せれば逃げる」
しかし違った。
抵抗は激しかった。
村は柵を作った。
道を塞いだ。
米を隠した。
「なぜここまで抵抗する」
国人衆は理解できなかった。
普通なら怖くなる。
普通なら諦める。
だが今回は違った。
逃げ道があった。
希望があった。
一人の家臣が慌てて駆け込む。
「殿!」
「まずい話が」
「なんじゃ」
「百姓ども……」
「八郎領へ使いを出しております」
「何?」
「どういうことじゃ」
家臣は苦い顔をする。
「自分たちを引き取ってほしい、と」
場が凍った。
「馬鹿な」
「領主を変えるなど簡単にできると思っとるのか」
「それが……」
「向こうは本気です」
「なぜじゃ」
「今より良くなると思っております」
その言葉が刺さった。
八郎領なら。
飯がある。
仕事がある。
借金が減る。
冬でも稼げる。
それを知ってしまった。
だから耐える。
ただ反抗しているのではない。
次があると思っている。
国人衆は慌てて相良へ使いを出した。
「兵をお願いします」
「一揆鎮圧のため援軍を」
しかし返事は冷たかった。
「無理じゃ」
「こちらも余裕がない」
「賠償金を払った」
「増税もしている」
「領内も不満だらけじゃ」
阿蘇も同じだった。
「今兵を動かせば、こちらが燃える」
国人衆たちは怒った。
「なんじゃそれは!」
「我らはお前たちに従って兵を出したんじゃぞ!」
「八郎と戦う流れになったから兵を出した!」
「その結果、負けた!」
「なのになぜ助けん!」
しかし返ってくる言葉は現実だった。
「負けたからじゃ」
「負けた以上、こちらも苦しい」
国人衆の館では重い空気が流れる。
「どうする」
「相良も阿蘇も動けん」
「商人も銭を貸さん」
「百姓は八郎に助けを求めとる」
誰も答えられない。
すると一人がつぶやいた。
「これ……」
「勝っても負けても同じではないか」
「一揆を潰せば恨みが残る」
「潰せなければ終わり」
「相良も阿蘇も頼れん」
「なら最後は……」
言葉が止まる。
皆、分かっていた。
「八郎に頭を下げるしかない」
別の者が怒鳴る。
「ふざけるな!」
「三歳児に頭を下げろというのか!」
しかし。
誰も反論できなかった。
その三歳児に戦で負けた。
その三歳児の領地を、民が望んでいる。
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一人の老臣が静かに言った。
「もう戦ではない」
「民の心を取られておる」
その言葉に、全員黙った。
八郎は攻めていない。
兵も出していない。
ただ飯を作り。
仕事を作り。
証文を消した。
それだけで、国境の向こう側が揺れ始めていた。




