表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
231/554

1533年9月4週目。収穫期、大量の寄付310万文が来る。湯あみと市の立ち上げ費用、芋の苗代の付けを消す。大きな湯あみを作る話。

九月四週目。

帳面合わせの日。

館にはいつものように各地の代表が集まっていた。

戦の騒ぎも少し落ち着き、秋の収穫も見えてきた。

だが、八郎の前に置かれた帳面の量は以前よりさらに増えていた。

八郎はため息をつく。

「えー……」

「細かい数字は後で見てください」

周囲から笑いが起こる。

「八郎様、それ毎回言っておりますな」

「だって全部説明したら夜になります」

「今日は大きなところだけです」

八郎はまず頭を下げた。

「最初に」

「皆さん、たくさんの寄付ありがとうございました」

「合計すると……」

「三百十万文分」

「現物でいただきました」

周囲がざわつく。

それだけのものが自発的に集まった。

普通の領主なら税として取るもの。

しかし八郎の場合は違った。

証文を消してもらった礼。

生活が楽になった感謝。

そういう形で集まったものだった。

「では使い道です」

「まず湯あみ」

「百五十万文分のツケ」

「払います」

職人たちが頷く。

「それから」

「市を立ち上げた時の費用」

「九十万文」

「これも払います」

「合わせて二百四十万文」

商人たちが笑う。

「また証文が消えましたな」

「八郎様のところの証文は」

「書いたと思ったら消えますわ」

八郎は続ける。

「あと芋苗です」

「全領地に広げるため」

「五十万文分買いました」

「これも払います」

一郎が横で笑う。

「植える前に借金消えたな」

「はい」

「安心して増やせます」

そして最後。

八郎が帳面を見る。

「全部計算した結果」

「八郎商会として……」

「二百九十七万文」

「残りました」

静まり返る。

「……」

「二百九十七万?」

「はい」

次の瞬間。

ざわめきが起きる。

「とんでもない銭じゃ」

「一年ほど前まで混ぜ飯売っとったのに……」

「何なんじゃ八郎商会は」

八郎は慌てる。

「ちょっと待ってください」

「まだですよ」

「城の借金」

「侍さんの証文」

「大量に残ってますから」

商人が笑った。

「でも違いますぞ」

「昔の証文とは」

「何がです?」

「返ってくる気がする」

「それが大きい」

「最悪、八郎様に取り立てればいいですからな」

八郎は目を丸くする。

「三歳児から取り立てるんですか?」

「かわいそうと思わないんですか」

商人は笑う。

「銭の世界は厳しいですから」

「利息下げてください」

その一言で館中が笑いに包まれた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

笑いが落ち着いたところで八郎が言う。

「それで」

「次なんですけど」

周囲が少し警戒する。

「八郎様の次は怖いですな」

「市を回って思いました」

「大きな湯浴みを作ります」

「大きな?」

「はい」

「足を伸ばせる湯です」

「男用、女用を分けます」

「一ヶ所四万文」

「市の数が百五十三」

「全部作ります」

「合計……」

「六百十二万文」

時間が止まった。

「……」

「六百万?」

「はい」

「八郎様」

「今、三百万近く残ったと言いましたよね?」

「はい」

「なんでもう倍使う話になるんですか」

笑いが起こる。

八郎は真面目な顔で答える。

「ただの湯じゃないです」

「冬の仕事です」

「農作業が減る冬」

「仕事がなくなります」

「すると銭がなくなる」

「借金になる」

「だから仕事を作ります」

「湯を沸かす人」

「掃除する人」

「薪を集める人」

「団子を売る人」

「芋を焼く人」

「全部合わせれば」

「三千人ぐらい関われます」

その言葉に空気が変わる。

単なる贅沢ではない。

仕事作りだった。

「しかも」

「一日三百文ぐらい利益が出ると思います」

「百五十三ヶ所なら」

「毎日少しずつ返せます」

「だから回収できます」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

和尚が笑った。

「八郎らしいの」

「普通なら銭が残ったら蔵に入れる」

「お前は仕事に変える」

職人も笑う。

「また忙しくなりますな」

「でも」

「こんだけ払ってくれるなら」

「作りがいがありますわ」

八郎は頭を下げる。

「お願いします」

「冬に」

「みんなが暖かい湯に入れるようにしてください」

九月四週目。

八郎商会は大金を得た。

そしてその大金は、すぐに領民の仕事へ変わることになった。

銭を貯める領主ではなく。

銭を回す領主。

その評判は、また領外へ広がっていくことになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ